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訪れ 始まり 事始

名は体を表すというが

確かにそれはそうなのかもしれない。


人と呼ぶには、あまりにずれていたし、

妖怪というほど、人から離れてもいなかった。


神や仏と呼ぶには、神々しさの欠片もない。

魔法使いとするほど、知識を求めてもいない。

悪魔というにも、化け物というにも、らしくない。

仙人だとか解脱者としては、俗にまみれている。


人に近い、妖怪に近い、神にも仙人にも近い。

重ならないもの。



それは正しく分類不能

型にするにも計測不可能

正に名無しといえる存在。

ある意味『幻想』(ファンタジー)といった存在そのもの

夢の体現者。


自称は人間。

言いえて微妙。

型なく

ただただ歩く者。

そんな一つの物語。



________________________________________



「また、独りか」

そう呟いた。


盛られた土と簡単な木組み。

そこに眠ったのはかつての友、家族、仲間。

幾度目かの居場所。

少しの黙祷の後、立ち上がる。


「今までありがとう。いい夢見てくれよ。」


それは本当の、心からの感謝の念。

けれど、すっかり慣れきってしまった言葉。


本当に軽く足は動き出す。

何十年もの月日を重ねた場所から



________________________________________




「さてさて、どうしますか」


はるか先の方まで続いている道を、のんびりと見据えながら呟く。

考え事をするのに腕を組むのは、長年の間にすっかり染み付き、癖となってしまったものだ。


「東に行くか、西に行くか」

ここ数十年、あまり決まった範囲以外に出向くことがなかったので、すっかり世情に疎くなってしまった。

昔ならば、西の方に大きな都が、東からは北方の方に抜けられる道があったはずだが、そんなものは権力や物流の動きなどはすぐに変わる。

1人の人間が亡くなるだけで、この島全体の動きが変わることだってあるのだ。


昔の情報など、あまり当てにならない。


「まあ、地形自体は変わってないだろうから、多少動きやすくはある、か」

そう独りごちる。

どちらにいくか、という答えにはまるで関係がない。


「ふう」と軽くため息をついた。


なんだか調子が出ない。

久しぶりの旅だからか、体調がいまいちなのか。

もしかしたら、久しく独りという状況になっていなかったせいかもしれない。


「居心地良かったからなあ」


きっと、彼らがまだ生きていたなら、自分はまだあそこに居続けたのだろう。

そう思えるほど、居心地が良かった。


変わらぬ自分に変わらずに接してくれた人々。そんな場所が、いくらもあるはずがない。

だからこそ、指針がとれないかもしれない。


――らしくない、まったくらしくない。

そう感じる。


根無し草で、綿毛のように風の向くまま進んでいく。

留まらず、逆らわず、流れのまま、気の向くままに、それが自分の性分だったはずだ。

人々に愛着を持ちつつも、心は置いていかない。

感謝はすれど、依存はしない。

そんな線が自分の中にはあるはずだった。


―――居過ぎた、かな


頭を抱えると、そこに残る記憶が蘇る。


温かさと名残惜しさ(おもいでときおく)


少しの後悔と、残念な気持ちと……軽はずみなことをした自分への反省

変わらないもの、移ろわないものはない。

永遠の居場所、そんなものがあるとするのは幻想以外のなにものでもない。

せめて、変わらないうちに通り過ぎるのが、最善、最良の策だ。


もう一度

今度は大きく息を吐いて、うずまいたものを追い払ってしまうように胸を上下する。


「さてさて、どうしますか」


口癖のようにまた呟いて、頭を切り替える。

こういう時は、歩き出すのが一番だ。


ただ、気の向くままに



________________________________________



行き先も決めぬまま

目的もないままに

名もない存在は歩き出す

幻想への一歩目を


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