ファム・ファタル
はじめまして。と、恥ずかしげに。でもきししし、という擬音が入りそうな笑顔でその子はいった。
改めて、目の前の女の子をまじまじとみてみる。
みごとな金髪、髪のひと房ひと房が上品で、風にそよぐとすげえ綺麗なんだろうと思う。水をおはじきのように跳ね返しそうな弾力のある褐色の肌、すんなりと伸びた手足。瞳は漆黒で、キラリと輝いている。
黒いビキニにへその上で結んだシャツ、太もものつけ根でだいたいんに切り裂かれたジーンズに、膝の上まであるニーハイと蠱惑的な格好をしている。
-美少女。だな。それもかなりの。割りとゲーム脳な俺は、ダークエルフの少女?踊り子?といったイメージをもった。僧侶というには程遠いが、ジプシーの占いの娘。というにはとても近い。
が、ええと、どうみても10歳くらいにしか見えない。いや、顔は大人びているから13歳くらいでも通用するのだろうか。いや、しかし。
「えっ? あれ? その……もしかして、あ……い、アイシャさん?」
この反応ってなんなんだ?と、はてなマークが出てきそうな表情を浮かべた目の前の少女。
「フドウ?」
あ、そうです。ハンドルネームフドウです。……しかし。
え、まじで、ええ?いや、確かに、周りには、イチャイチャしてる男のカップルとさ、その、なんかおばさんしかいないし、あれ?あれなんじゃない?と思った女の人はなんか、タイトスカートのかっこいいお姉さんは、車にのせられてドライブとかいってしまったが……。
そう、オフ会の待ち合わせって、すげえ緊張するのな。しかも、待ち合わせの相手、あれじゃないか、これじゃないかって、すげえ、いろいろみちまう。こんな焦ったことないよってくらい汗かいてしまったもんだが。
そう、今は1対1であうオフ会の、いわゆるサシオフの時間で、結局、勝手知ったる二本松エリアでの待ち合わせにしたんだが。
ここ、歩いている人、相当人少ないしな。見間違え用がない。
「あー、はじめましてって、なんか、あの、違いすぎない?そのアバターと」
目の前の女の子、アイシャは、ぷくーっとちょっと頬をふくらませて、ああ、あれはジト目ってやつか。
「あのさ、ちょっと聞こえたんだけど、ひどくない?そんなに、かわらないと思うんだけど」
「変わるよ!」
だってあのアバターって、身長160センチくらいだったか、目の前の女の子は135センチくらい?アバターを20%増しにカスタマイズできるっつってもぎりぎりの修正だろう。それにあのアバター、どうみても、85、60、82くらいありそうなもんだったが、目の前はなんだ、……その、72、50、70くらい?60、60、60とかじゃないよな。
ガッ
「あいた!」
「ちょっと!今、失礼なこと考えてたでしょ!マジでよく見なさいよ、ホラ。そんなに変わらないんだって」
うう……と、腰に手をあてて仁王立ちになったアイシャさんをまじまじと見つめる。ちょっと近いな。
「うーむ。たしかに、面影はあるっていうか、そのゲームにでてきたキャラの子どものころって感じがってあいた!おい、蹴るなよ」
「ちょっとだけ若いかもしれないけど、大人だから。」
「いや、無理かあるだろう、マジで。どうやってあんなアバターが作れんだよ」
「……まあ、お母さんの写真を使って年齢を引き下げてみたんだけど」
「おい、うそじゃねえか。ちゃんと自分の姿をWEBカメラに移して作れよ。ってか、たしか15歳未満禁止のゲームじゃなかったっけ?」
アイシャはちょっと口を尖らせて。
「いや、わたしほら、お母さんの若い頃にそっくりだし」
……知らねえよ。
「どうせ、あと1、2年であんなになるわけだし」
……10年はええよ。
「だって、キスしたじゃーん」
「おええ!?まて、そんなことはしてない、いや、ゲームの話しだろ、それ!」
おお、やべえ。おもわず周りをキョロキョロしちまう。うん、人通りはすくない!とにかく、アイシャの手をとって、路地裏へ走る。
「いやん、どうしたの?大胆」
「バカいえっ。捕まるマジで」
いや、マジでどうしたらいいんだろう。なんだ、10歳と三角牛乳と揚げパンでも食べることになるのか?大人の手ほどきを期待していた俺が愚かだった。
フクシマは人口100万人の実験都市になっています。海岸エリアは地面を太陽光パネルでうめつくされ、それ以外のエリアは電脳産業が中心になっています。いろんな場所にアクセスポイントがあって、ヴァーチャル空間にいけるようになっているんです。2030年のシリコンバレー風。あ、ここでは同性の結婚も合法になっています。同性の結婚を認めるとその地域の売上がちょっと上がるみたいなんですよ。