ボーイミーツリトルガール
実質1話目 導入
「ねえ、オフ会しない?」
きめ細やかな肌、桜色の唇がひらき、ゾクゾクするほど妖艶な声だ。
「ねえ、聞いてる? ……ちょっと!」
風がなびく。目の前にいる人が数式の演算で表現されたポリゴンだとはとても思えない。
「ぐぇっ」
きゅうにぐいっとほっぺたがひっぱられた。ああ、と我に返る。
「ああ、すまない。ええと、オフ会…だったっけ。でも、いいの?」
「いいよ。というか、オフ会とかってあんまりしないの?」
オフ会ってのは、オンラインゲームであった人たちが、オンラインゲーム外、つまりオフライン上で会ってお茶したり、カラオケにいったりすることだ。
「実はやったことないんだ、……その、ちょっと恥ずかしいし」
今、俺はこじんまりとした居酒屋にいる。樽鍋亭というちょっと地味すぎる名前だ。それでも、温かいウサギ肉のシチューやビールが楽しめる温かい家庭の雰囲気が人気の店だ。それにしても、オンラインゲームで料理の味まで楽しめるってのはすごい。すごいよ、ゲイツ。
くっくっくと肩を揺らして笑う相手。今、テーブルを囲んで話しているのはアイシャ。外見は20歳くらいだろうか、ターバンをまとい金髪をなびかせた妖艶な僧侶。
そう、この女は僧侶のくせに踊りのスキルに経験値を割り振っている変わり者だ。このオンラインゲーム、「ナードワールド」のβテストバージョンをやるよな物好きでも、こんなやつは他にいまい。
実際この「ナードワールド」はオーソドックスな剣と魔法ものの、ヴァーチャルリアリティ技術を駆使したオンラインゲームなんだけど、そのゲーム「外」でのカップル成立率の多さで恐ろしい人気を誇っている。まだ、βテスト公開から1ヶ月足らずで、個人が公開しているゲームだというのにテスターが1万人もいるのだ。
……こそばいい話だが、ゲイツってのが俺の友人なのだが、これが、超のつく天才プログラマーで、こいつが「オンラインゲームツクール ヴァーチャルリアリティ版」ってソフトウェアが発売された際に、こいつを利用して作ったのがこの「ナードワールド」ってわけだ。友人ながらすごいやつで、この世界の創世主と知り合いなんだってのが密かに自慢だったりする。
紹介遅れたが、俺は不動明王。内外に認めるシャイボーイなんだが、オンラインゲームでは積極的な性格になれる。ゲームのIDはフドウ。ゲイツとの友達付き合いのつもりで、ゲームに登録して遊んでいる。ゲーム内の職業は鍛冶屋だ。剣と魔法もののゲームだってのに、ひたすら木や鉄といった素材を集めて武器を作って売る日々を過ごしている。その中でお得意ってのはできるわけで、目の前のアイシャもまた、ハンマー、すごい似合わない武器だが、オーダーメイドで作ってやってる仲だ。
このナードゲームの面白さは、現実世界での外見をWEBカメラで写しとり、それをかなり美化してキャラクターにするってシステムだ。だから、金髪の女は実際金髪である可能性は高いし、ネカマなんてのも存在しない。ゲーム内で鏡をみれば、俺だって2割り増しの男に見える。これは、人気出るよな。
それで、実際恋愛感情が芽生えて、オフ会で実際にあったとしても、まあ、2割り増しでよく見える設定だってのが頭にあるから、そんなにがっくりは来ないわけで。で、カップル成約率が多くなっている、らしいんだ。
ちなみに、基本ゲームは無料。アイテムも無料だが、私的にメッセージを交わしあえるフレンド登録や、結婚システムなんかは有料だ。人付き合いをすればするほどお金が落ちていく仕組みだよ。
ゲイツのやつ、うまくやるよな。いわゆるオタクまるだしの格好をしているやつだが、なんでだか、こういう出会いだとか人間関係にはすごい鼻が利くやつで、うまい具合に商売につなげている。
……さて。
「いいけど、どこで?」
「わたしが今いるのは電脳都市。リニアでいくから、場所教えて。どちらにせよ、ネットカフェに住んでいるようなものだし」
アイシャはくったくのない笑みを浮かべた。
「奇偶すぎる。俺も、フクシマだ。二本松エリアにいる。ただ、ちょっといきなりはドキドキするな。……………
あ、ネットじゃ俺よく喋るけど、実際はあんまり喋らないんで、その、前もって言っておくけど」
「私もよ。でも、この1週間ずっと一緒に行動してたじゃない。大丈夫よ」
「……レアな鉱石じゃないと作れない武器をお願いとかいって素材集めに付き合わされたもんな。実際まいったよ。あ、いや楽しかったんだけどね」
「学校、忙しくなるんでしょ?」
「そうなんだ。うちの学校、学校税が高くてね。そろそろ稼がないと進級がやばいんだ。このゲームもタダで遊んでいるってわけじゃないんだけど。じゃあ、どうしよう。明日とかって急すぎかな?」
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