ープロローグー
ープロローグー
狭く埃ぽい部屋の隅だけが、ぼやっと朧げに明るい。
それは、ノートパソコンの絞られた画面の明かりで、その前に屈む一人の男の顔はまるで幽鬼の様に窶れ、頭は禿げ上がり、さながら骸骨がパソコンに
向かっていると錯覚しそうだが、痩けた頬とは対照的に熱意と狂気を
含んだ目だけはぎらぎらしていた。
男は、暑くもないのに広くなった額を脂汗でてらてらと光らせ、鬱陶しそう手で拭いそして周りに物音がしないかに耳と全神経を集中していた。
「急げ…急いでくれ…頼む…」
ぼそぼそと神に祈るようにつぶやきながら、無意識に指を咬み画面に
表示されているデーターのダウンロードの完了具合を教える
バーとパーセンテージを食い入りながら見る。
ー残り10%
自分がなんて物を作ってしまったんだと後悔したことが無いというのは
嘘になるが、まさかそれを[商売]にさせるとは、思わなかった。
想像すらしなかったからこそ絶句した。そして、あっという間に
それは自分の手元を離れ着々と[商品]に昇華していった。
ー残り6%
皆これが消費者に渡ればどうなるかは分かっているが、どこか自分達には関係の無い事と思い、それよりも莫大な利益が入ってくる事に執着していた。
まるで生者に群がるゾンビの様に。きっと、
自分の心境は様々な大量破壊兵器を作ってしまった科学者達と同じだろう。
自分に罪が無いとは思わないがこうして、罪を少しでも他人に擦り付けて自分は被害者として振る舞う…
科学者はそういうか弱く、狡い、矮小な生き物だ。しかし、
自覚しているからこそ、なんとかしなければならない。
ー残り10秒。
パソコンのたてる、微かな起動音ですら、爆音に聞こえる。
自分の荒くなった息ですら、耳障りで落ち着かない。
静かにしてくれ。頼むから人よ来ないでくれ。
ーダウンロード完了
「よしっ!」
男は静かに慌てて、パソコンを閉じてバックに突っ込みながら、
慎重に慌てて部屋を出る。
その部屋はビルの地下にあり既に電気の落ちた廊下には人の気配すらなく、
非常口の明かりと壁に転々と灯る赤い照明が
まるで自分を見ているように錯覚しながら、廊下を走り、外へ向かう。
ーこれだけは、これだけは絶対に使わせない。ー
男はそれだけを考えながら、闇に消えていった。
ー[Project ZP.]fire.ダウンロード完了ー
ー起動終了ー




