ちょっとそこまで
「おはようございます。」
「良いお天気ですね。」
「お出かけですか、どちらまで?」
「ちょっとそこまで。」
「お気をつけて。」
おい、ちょっと待て。
この日本語、おかしくないか?
オイラは、この日本語の会話が大嫌いさ。
だから、本当にちょっとなのか、確かめてやることにした。
ご近所さんと、あいさつを交わす。
ご近所さんはゆっくりと角を曲がっていった。
尾行スタートだ。
この日のために、尾行のトレーニングをしてきたのだ。
元公安の人間に、高いトレーニング料金を払った。
ご近所さんは何も気付かずに、スタスタと歩いて行く。
しめしめ、完璧な尾行だ。
不意に、ご近所さんが振り返った。
オイラは、壁のかげに隠れる。
ご近所さんは周りをきょろきょろと気にしている。
ふう、危ないとこだった。
オイラは尾行を続ける。
ご近所さんは、近くの公園を通りすぎる。
ほらな、全然ちょっとじゃない。
オイラは尾行を続ける。
ご近所さんは、格安スーパーも通りすぎる。
ちょっとの感覚が違いすぎ。
オイラはにやにやする。
オイラは尾行する。
ご近所さんはどんどんと行く。
オイラは尾行する。
どんどん行く。
オイラは尾行する。
とうとう、ご近所さんは隣町までやってきた。
ご近所さんはそこでタクシーに乗った。
オイラもタクシーに乗る。前の車追ってくださいなんて言わない。
うまくタクシーを誘導して、ご近所さんを尾行する。
野を越え、山を越え、川を越え、ご近所さんは、小さなビルの前に降りた。
オイラもすぐにビルの前に降りる。
どこがちょっとそこまでだ。
オイラは文句を言ってやろうと、ビルの中に入っていく。
オイラは縛りあげられていた。
スパイのアジトだった。
誰も尾行できないはずだった。
オイラは驚いている奴らに言ってやる。
「おい、どこがちょっとそこまでだ!」
みんなが、ポカンとしながら、スコップを持ったりしている。
オイラは埋められるらしい。
「オイラをどこまで連れてくんだ?」
「ん?ちょっとそこまでだな。」
「それは本当にちょっとなんだろうな。」




