石とマンモスとちょっと恋
この物語は、まだ言葉が今ほど整っていない時代――
けれど、感情は今と何も変わらなかったはずの時代のお話です。
火山が噴き、地面が割れ、明日の食べ物すら保証されない世界。
そんな過酷な原始の大地で、それでも人は笑い、誰かを気にかけ、少しだけ照れながら隣に立ちます。
もし文明がなくなったとしても、
もし便利な道具がすべて消えたとしても、
最後まで残るのは「誰かと一緒にいる」という気持ちなのかもしれません。
取り残された二人は、不運だったのか。
それとも、少しだけ運命に選ばれていたのか。
石を拾い、転び、マンモスに吹き飛ばされながらも、
前へ進む二人の旅を、どうぞ笑いながら見守ってください。
『石とマンモスと、ちょっと恋』
大地が割れたのは、朝ごはんの最中だった。
「……揺れてないか?」
主人公のガルは、焼きかけの肉をひっくり返しながら言った。
ヒロインのミナは、きのこの串をくわえたまま首をかしげる。
「ガルが太ったからじゃない?」
「俺のせいにするな!」
その瞬間、地面が本気で揺れた。
ドォン!!
山の向こうから、黒い煙が立ちのぼる。火山だ。しかも機嫌が最悪のやつだ。
村中が大騒ぎになった。
「移動だ!!北へ向かうぞ!!」
族長の叫びと同時に、全員が荷物を抱えて走り出す。
この村は「逃げ足の速さ」が伝統だ。
だが。
「待って!干し肉がまだ焼けてない!」
「今それ言う!?」
ミナが焼き石を持ち上げようとした瞬間、再び大きな揺れ。
ゴォォォォ!!
火山から流れ出す黒煙と火の粉。動物たちが一斉に走り出す。空も地面もパニックだ。
ガルはとっさにミナの腕を掴んだ。
「走るぞ!」
走る。
転ぶ。
立ち上がる。
また転ぶ(主にガルが)。
「荷物重すぎる!」
「それ全部石じゃない!」
「大事な石だ!」
「石はそこら中にある!」
言い争っているうちに、村の姿は見えなくなっていた。
静寂。
揺れは止み、火山の轟音だけが遠くに響く。
ガルとミナは、取り残されていた。
「……あれ?」
「……うん」
ガルが周囲を見回す。誰もいない。
「俺たち、置いてかれた?」
「ガルが石持ってたからじゃない?」
「石は関係ない!」
ミナはため息をつくと、空を見上げた。
「族長、たぶん北の大岩地帯に向かうって言ってたよね」
「言ってた」
「じゃあ追いつこう」
あっさりしている。
「怖くないのか?」
「怖いけど、お腹空くほうが怖い」
ミナはたくましかった。
二人は北へ向かう。
道中、地割れができている。
「飛べるか?」
「ガルなら落ちる」
「なんで決めつける!」
ガルが助走をつけてジャンプ。
見事に半分落ちた。
「ほら」
「笑うな!引っ張れ!」
ミナが腕を掴む。
「重い」
「それ言う!?」
なんとか這い上がる。
服は泥だらけ。誇りも少し泥だらけ。
森を抜けると、巨大な影が立ちはだかった。
マンモスだ。
しかもでかい。しかもこっち見てる。
「……どうする?」
「笑顔?」
「通じるか!」
マンモスが鼻を振り上げる。
ドスン。
地面が震える。
ガルは槍を構えるが、手が震えている。
「ミナ、後ろに」
「ガル、あれ見て」
ミナが指さす。
マンモスの足元に、子どもマンモスが溝に落ちていた。
「……助けてる?」
「助けてる」
母マンモスは、必死に鼻で持ち上げようとしている。
ガルは槍を下ろした。
「……手伝うか」
「やっと賢くなった」
二人は石をどけ、溝を広げる。
ガルが子マンモスを押し上げる。
「重っ!」
「太った?」
「違う!」
なんとか子マンモスが地面に戻る。
母マンモスはしばらく二人を見つめ――
鼻でガルを軽く弾いた。
ドゴン。
ガル、吹っ飛ぶ。
「礼のつもりだと思う」
「強い礼だな!!」
しかしマンモス親子は、ゆっくりと道を空けた。
二人は無事通過できた。
夜。
焚き火を囲む。
ガルは火を見つめながら言う。
「……俺のせいかな」
「何が?」
「村、置いてかれたの」
ミナは少し黙ってから笑った。
「ガルが石集めてたのは事実だけど」
「やっぱり!」
「でもさ、火山が噴いたのはガルのせいじゃない」
静かな夜。
遠くで狼の声。
「一人じゃなくてよかった」
ミナがぽつりと言う。
ガルは少し赤くなる。
「……俺も」
沈黙。
火がぱちぱちと鳴る。
ミナが突然言う。
「もし村に追いつけなかったらどうする?」
「そのときは……」
ガルは考える。
「俺たちで新しい村作るか」
「名前は?」
「石の村」
「却下」
笑いが夜に溶ける。
翌朝。
大岩地帯が見えた。
その向こうに、煙。
「見ろ!」
「村だ!」
二人は走る。
転ぶ(主にガルが)。
そしてついに――
「ガル!ミナ!」
村人たちが駆け寄る。
族長が腕を組む。
「無事だったか」
「置いてかれましたけど!」
「自然災害は待ってくれん」
正論だ。
ミナがにやりと笑う。
「でもね、マンモス助けた」
ざわつく村人。
族長の目が丸くなる。
「……本当か?」
「本当」
その瞬間、遠くでマンモスの鳴き声が響いた。
村人たちがどよめく。
族長は咳払いをして言った。
「よし。今日から二人は“マンモスの友”だ」
「なんか微妙な称号!」
笑いが起きる。
ガルはミナを見る。
「石の村じゃなくてよかったな」
「だから却下って言ったでしょ」
火山はまだ遠くで煙を上げている。
でも、二人の前には新しい朝があった。
そしてガルは、今日も石を拾う。
「それまだ集めるの?」
「大事な石だ!」
笑い声が、青い空に広がった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
原始時代というと「サバイバル」「緊迫」「弱肉強食」といったイメージが強いですが、
もしそこに今と同じような“ちょっとした掛け合い”や“照れ隠し”があったらどうなるだろう、という発想からこの物語は生まれました。
火山の噴火も、地割れも、マンモスも、本来なら命がけの出来事です。
それでも、誰かと一緒なら、ほんの少しだけ笑い話にできる。
ガルはきっと、これからも石を拾い続けるでしょう。
ミナはきっと、それに文句を言い続けるでしょう。
でもそのやり取りこそが、彼らの強さなのだと思います。
文明は進化しても、人の心は大きく変わらない。
だからこそ、原始時代の恋も、案外いまの私たちと似ているのかもしれません。
またいつか、彼らの続きを書けたら。
そのときは――
石は、もう少し減っていることを願って。




