表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

石とマンモスとちょっと恋

作者: 03
掲載日:2026/02/19

この物語は、まだ言葉が今ほど整っていない時代――

けれど、感情は今と何も変わらなかったはずの時代のお話です。

火山が噴き、地面が割れ、明日の食べ物すら保証されない世界。

そんな過酷な原始の大地で、それでも人は笑い、誰かを気にかけ、少しだけ照れながら隣に立ちます。

もし文明がなくなったとしても、

もし便利な道具がすべて消えたとしても、

最後まで残るのは「誰かと一緒にいる」という気持ちなのかもしれません。

取り残された二人は、不運だったのか。

それとも、少しだけ運命に選ばれていたのか。

石を拾い、転び、マンモスに吹き飛ばされながらも、

前へ進む二人の旅を、どうぞ笑いながら見守ってください。

『石とマンモスと、ちょっと恋』

大地が割れたのは、朝ごはんの最中だった。

「……揺れてないか?」

主人公のガルは、焼きかけの肉をひっくり返しながら言った。

ヒロインのミナは、きのこの串をくわえたまま首をかしげる。

「ガルが太ったからじゃない?」

「俺のせいにするな!」

その瞬間、地面が本気で揺れた。

ドォン!!

山の向こうから、黒い煙が立ちのぼる。火山だ。しかも機嫌が最悪のやつだ。

村中が大騒ぎになった。

「移動だ!!北へ向かうぞ!!」

族長の叫びと同時に、全員が荷物を抱えて走り出す。

この村は「逃げ足の速さ」が伝統だ。

だが。

「待って!干し肉がまだ焼けてない!」

「今それ言う!?」

ミナが焼き石を持ち上げようとした瞬間、再び大きな揺れ。

ゴォォォォ!!

火山から流れ出す黒煙と火の粉。動物たちが一斉に走り出す。空も地面もパニックだ。

ガルはとっさにミナの腕を掴んだ。

「走るぞ!」

走る。

転ぶ。

立ち上がる。

また転ぶ(主にガルが)。

「荷物重すぎる!」

「それ全部石じゃない!」

「大事な石だ!」

「石はそこら中にある!」

言い争っているうちに、村の姿は見えなくなっていた。

静寂。

揺れは止み、火山の轟音だけが遠くに響く。

ガルとミナは、取り残されていた。

「……あれ?」

「……うん」

ガルが周囲を見回す。誰もいない。

「俺たち、置いてかれた?」

「ガルが石持ってたからじゃない?」

「石は関係ない!」

ミナはため息をつくと、空を見上げた。

「族長、たぶん北の大岩地帯に向かうって言ってたよね」

「言ってた」

「じゃあ追いつこう」

あっさりしている。

「怖くないのか?」

「怖いけど、お腹空くほうが怖い」

ミナはたくましかった。

二人は北へ向かう。

道中、地割れができている。

「飛べるか?」

「ガルなら落ちる」

「なんで決めつける!」

ガルが助走をつけてジャンプ。

見事に半分落ちた。

「ほら」

「笑うな!引っ張れ!」

ミナが腕を掴む。

「重い」

「それ言う!?」

なんとか這い上がる。

服は泥だらけ。誇りも少し泥だらけ。

森を抜けると、巨大な影が立ちはだかった。

マンモスだ。

しかもでかい。しかもこっち見てる。

「……どうする?」

「笑顔?」

「通じるか!」

マンモスが鼻を振り上げる。

ドスン。

地面が震える。

ガルは槍を構えるが、手が震えている。

「ミナ、後ろに」

「ガル、あれ見て」

ミナが指さす。

マンモスの足元に、子どもマンモスが溝に落ちていた。

「……助けてる?」

「助けてる」

母マンモスは、必死に鼻で持ち上げようとしている。

ガルは槍を下ろした。

「……手伝うか」

「やっと賢くなった」

二人は石をどけ、溝を広げる。

ガルが子マンモスを押し上げる。

「重っ!」

「太った?」

「違う!」

なんとか子マンモスが地面に戻る。

母マンモスはしばらく二人を見つめ――

鼻でガルを軽く弾いた。

ドゴン。

ガル、吹っ飛ぶ。

「礼のつもりだと思う」

「強い礼だな!!」

しかしマンモス親子は、ゆっくりと道を空けた。

二人は無事通過できた。

夜。

焚き火を囲む。

ガルは火を見つめながら言う。

「……俺のせいかな」

「何が?」

「村、置いてかれたの」

ミナは少し黙ってから笑った。

「ガルが石集めてたのは事実だけど」

「やっぱり!」

「でもさ、火山が噴いたのはガルのせいじゃない」

静かな夜。

遠くで狼の声。

「一人じゃなくてよかった」

ミナがぽつりと言う。

ガルは少し赤くなる。

「……俺も」

沈黙。

火がぱちぱちと鳴る。

ミナが突然言う。

「もし村に追いつけなかったらどうする?」

「そのときは……」

ガルは考える。

「俺たちで新しい村作るか」

「名前は?」

「石の村」

「却下」

笑いが夜に溶ける。

翌朝。

大岩地帯が見えた。

その向こうに、煙。

「見ろ!」

「村だ!」

二人は走る。

転ぶ(主にガルが)。

そしてついに――

「ガル!ミナ!」

村人たちが駆け寄る。

族長が腕を組む。

「無事だったか」

「置いてかれましたけど!」

「自然災害は待ってくれん」

正論だ。

ミナがにやりと笑う。

「でもね、マンモス助けた」

ざわつく村人。

族長の目が丸くなる。

「……本当か?」

「本当」

その瞬間、遠くでマンモスの鳴き声が響いた。

村人たちがどよめく。

族長は咳払いをして言った。

「よし。今日から二人は“マンモスの友”だ」

「なんか微妙な称号!」

笑いが起きる。

ガルはミナを見る。

「石の村じゃなくてよかったな」

「だから却下って言ったでしょ」

火山はまだ遠くで煙を上げている。

でも、二人の前には新しい朝があった。

そしてガルは、今日も石を拾う。

「それまだ集めるの?」

「大事な石だ!」

笑い声が、青い空に広がった。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

原始時代というと「サバイバル」「緊迫」「弱肉強食」といったイメージが強いですが、

もしそこに今と同じような“ちょっとした掛け合い”や“照れ隠し”があったらどうなるだろう、という発想からこの物語は生まれました。

火山の噴火も、地割れも、マンモスも、本来なら命がけの出来事です。

それでも、誰かと一緒なら、ほんの少しだけ笑い話にできる。

ガルはきっと、これからも石を拾い続けるでしょう。

ミナはきっと、それに文句を言い続けるでしょう。

でもそのやり取りこそが、彼らの強さなのだと思います。

文明は進化しても、人の心は大きく変わらない。

だからこそ、原始時代の恋も、案外いまの私たちと似ているのかもしれません。

またいつか、彼らの続きを書けたら。

そのときは――

石は、もう少し減っていることを願って。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ