第29話 塔の中の影
第29話です。
封印文書へ近づきます。
ですが王都は一枚岩ではありません。
内部にも、揺らぎがあります。
古文書塔の一室。
エルシアは机の上に地図を広げていた。
「中央書庫の地下は三層構造です」
第一層は公開区域。
第二層は王命指定区域。
そして。
「第三層が封印区域」
魔導結界と鍵が二重。
正規許可は不可能。
「どうやって入る」
俺の問いに、エルシアは迷いなく言う。
「正面からは無理です」
「ですが内部搬入経路があります」
魔導資材を運ぶ地下通路。
通常は封鎖。
だが三日に一度、点検がある。
(時間が合う)
その時。
塔の奥の扉が、きしむ音を立てた。
エルシアが顔を上げる。
「来たわね」
警戒はしていない。
だが緊張はある。
入ってきたのは、痩せた男。
長衣の文官。
だが目が鋭い。
「……これが例の辺境村の」
俺を値踏みする視線。
「自己紹介を」
エルシアが言う。
「この方はローデン」
「王都財務局の監査官」
財務。
黒線紋の資金の流れに関わる部署。
(危険だな)
ローデンはゆっくり言う。
「私は派閥に属さない」
「だが数字を見るのが仕事だ」
机に紙束を置く。
「魔石輸送記録」
ヴァルドリス家関連。
輸送回数が異常に多い。
軍予算と不一致。
横流し。
戦争拡張用。
「証拠は揃わない」
ローデンは淡々と続ける。
「だが揃いすぎている」
矛盾が、逆に真実を示す。
「なぜ協力する」
俺は正面から問う。
ローデンは微笑する。
「私は王都を守りたい」
「腐敗を守りたいわけではない」
理屈は通る。
だが。
「見返りは?」
「真実が出ればいい」
即答。
嘘ではない。
だが完全には信用しない。
エルシアが言う。
「三人いれば可能性は上がる」
地下搬入経路を使い、
第二層から第三層へ。
魔導鍵の解除は彼女。
結界理論は仮面。
数字と証拠の整合はローデン。
(役割は揃った)
その瞬間。
塔の外で金属音。
誰かが扉を叩く。
「文官エルシア、在室か!」
黒線紋私兵の声。
早い。
監視が動いた。
エルシアは即座に書類を隠す。
ローデンは顔色一つ変えない。
仮面は気配を消す。
「開けます」
エルシアが扉を開く。
隊長ではない。
別の私兵。
目が鋭い。
「最近、外部者と接触しているな」
疑い。
嗅ぎ回っている。
「文献の借用許可を出しただけです」
冷静。
私兵は室内を見回す。
俺は奥の影。
完全には隠れていない。
だが見逃す。
(泳がせる)
やはり監視下。
私兵が去る。
扉が閉まる。
沈黙。
ローデンが小さく言う。
「時間がない」
「明後日の点検が最後の機会だ」
七日が、五日になった。
圧迫。
エルシアが俺を見る。
「覚悟は?」
「ある」
即答。
王都の内部。
腐敗の中心。
だが。
小さな綻びもある。
その綻びが、世界を変えるかもしれない。
協力者が増えました。
ですが、監視も強まっています。
王都内部での動きは、非常に危険です。
次回、ついに封印区域へ。
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