第二章 最終話 支配を拒む村
夜。
壊れた石壁の前。
瓦礫の山。
だが火は消えていない。
鍛冶場も、見張り台も。
村は、まだ立っている。
南門の残骸に腰を下ろし、
俺は静かに村を見渡す。
ユークの妹は毛布に包まれ眠っている。
トルは黙々と石を運ぶ。
カイルは崩れた壁を測っている。
誰も逃げていない。
領主アルヴェインが立つ。
「ここまでやるとはな」
苦い笑み。
「黒線紋は次は王命を捏造する」
「公然と反逆扱いにするだろう」
もう“辺境の問題”ではない。
国家規模。
仮面の人物が、低く言う。
「あなたは選びました」
「もう盤面の外には戻れません」
その通りだ。
守るだけの村ではない。
拒む村。
俺は立ち上がる。
「従わない」
静かに、しかしはっきりと。
「この村は、誰のものでもない」
「俺たちのものだ」
村人たちが顔を上げる。
恐怖はある。
だが、覚悟もある。
「黒線紋が来るなら」
「迎え撃つ」
「王都が潰すなら」
「崩す」
宣言。
守りから、攻めへ。
その時。
仮面の人物が一歩前に出る。
「……一つ、知らせがあります」
空気が変わる。
「黒線紋の背後」
「ヴァルドリス家だけではありません」
「王都上層で“封印文書”が動いています」
封印文書。
聞き慣れない言葉。
「百年前の魔族和平条約」
「存在自体が抹消された文書です」
血が冷える。
和平はあった。
だが消された。
「裏切ったのは」
仮面の声がわずかに震える。
「人間側でした」
世界の前提が、崩れる。
「黒線紋は、その隠蔽派閥です」
「和平が公になれば、地位も権力も失う」
だから戦争を維持する。
辺境を不安定にする。
魔族を煽る。
領主が呟く。
「……そこまで腐っているのか」
仮面は答えない。
沈黙が、事実を語る。
俺は空を見上げる。
村を守るつもりだった。
だが。
これは村だけの話じゃない。
「奪われたものを、取り返す」
人質。
村。
和平。
全部。
遠く、王都の塔に灯が揺れる。
その地下深く。
古びた箱が開かれる。
中には、焼かれかけた文書の断片。
“和平条約”
その文字が、まだ読める。
黒線紋の当主が呟く。
「村一つが、何を変える」
だが。
小さな亀裂は、やがて大きな崩壊になる。
村の石壁の上。
俺は宣言する。
「支配は拒む」
「そして――暴く」
風が吹く。
瓦礫の隙間から、芽が伸びていた。
第二章、ここまで読んでいただきありがとうございました。
守るだけの物語から、
拒み、そして反撃する物語へ進みました。
第三章では――
・黒線紋の中枢
・和平条約の真相
・魔族内部対立
・王都上層の腐敗
物語は国家規模へ拡大します。
引き続き応援いただけると嬉しいです。




