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サイエンスの宝石  作者: はましょ。
壱_慟哭
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7.

 艶やかな紅色べにいろの髪の毛を、腰まで伸ばしたストレート。丁寧に編み込まれた髪に沿って瞬くのは、金の髪飾りの数々。

 アクセサリーと呼ぶにはあまりに手の込んでいるものだから、つい夜空で瞬く星屑ほしくずを連想してしまう。

 少女には、やけに視線を引き付ける吸引力があった。単なる生意気な言動によるものなのかもしれないが、神秘をまとう容姿によるものなのかもしれない。合算して生まれるギャップによるもの、という可能性もなくはない。

 しかしいずれにせよ重要ではなかった。少女は確かに小生意気ではあったものの、よりにもよってパテールを凌駕するすぐれた容姿、そして頭脳を持ち合わせていた。

「ちょっ、なんなのよいきなりアンタ。いったい何が言いたいわけ?」

「なにって。そのまんまの意味なんですケド。この日本語がわからない? 死んでもらう、って書いてあるじゃんっ。 私たちは赤点をとったら死んじゃうし、地上に逃げても死んじゃうってことなの。なんでこれを見てウソだって思えちゃうのかな? 頭、いくらなんでもお花畑すぎるんじゃない?」

 パテールではまるでお話にならない。そんな風に考えたのか、少女は途中からパテールに向けて話すのをやめて、蓮杜に焦点を当てだした。

「蓮杜くんなら、私の言ってることわかるよね?」

神代かみしろ星羅せいらちゃん……で、合ってるよな?」

「うん、合ってるよ。でも、ちゃん付けはやめてほしいかな、気持ち悪いしっ」

「……」

 ぺろっと舌でも出してみたりな明るい声で、これでもかと毒舌を浴びせる星羅。陽気なテンションと中身とのギャップに、思わず絶句してしまう。周りを見渡してみて正解だった。絶句していたのはなにも、オレだけではなかったらしい。

「じゃあ呼び捨てでいいよな? 星羅、お前の論点はズレてる。この文を読んで意味が理解できない高校生なんているわけないだろうが。菫子すみれこちゃんだって、書かれてる内容自体はちゃんとわかってんだろ?」

「うっ……うん。一応ね」

 どうやら菫子の本名はパテールと言うらしい。あ、逆か。

「いま俺たちが話し合わなきゃならねえのは、この掟が真実だと証明する材料についてだ。だってここは日本だぜ? こんな物騒なルール、あっていいはずがない。卒業生が警察でもなんでもに報告しちまえば、この学園は一巻の終わりなんだからな」

「うーん。そんなのあんまり関係なくないかな。それこそ、国に密告しようとした人間だって暗殺しちゃえばいいわけだし。この学園ならできそうじゃない? そのくらい」

 星羅の言っていることはもっともだ。だが、かといってそれを聞いた周りの人間が受け入れてくれる保証など、これっぽっちもなかった。というか、受け入れてくれるはずもなかった。自分が周りの空気から()()()()()()逸脱していることに、星羅は気づいてないようだった。たしかに〈拾の掟〉は見ればだれでもわかるだろう。しかしまさか、たった1回赤点をとっただけで、そこにあるエレベーターを降りて再度地上に帰ってみただけで……殺されることになるなんて、銃社会ですらない我が国の高校生が理屈をのみこめるはずもない。ある意味でオレが星羅に共感できてしまったという事実は、オレもまた、一般人との間に大きな認識の齟齬を抱えてしまっていることを物語っていた。とはいえ、瑠璃家にいればイヤでもこういう考え方が根付いてしまう。たぶん桜香も、そして牡丹家の遊華・竜胆もそれほど面を食らってもいないだろう。驚くべきは、一般人であるはずの星羅が、そういう物騒な考え方を平然と持てていることだった。そして、そんな特異な一般人は星羅だけではなかった。漆花蓮杜だった。

「そうだな……。確かにこの学園なら……簡単だと思うぜ。人を消すことくらい、簡単にな」

「それってさ、さっき言ってたことと矛盾してない? 結局何が言いたいの、蓮杜くんはさぁ」

「まず一個言って置きたいんだが、そもそも俺はこのルールがウソを言ってるとは思ってない。その意味では菫子すみれこちゃんじゃなく、星羅のほうに一票だ。きっとみんな菫子ちゃんみたいに、このルールはきっとウソにちがいない! 俺たちをがんばらせるための方便だ! ――なんてふうに、思ってるんじゃないか? 学校で殺されるなんてありえない! ――そんなふうに、思ってるんじゃないか? けどな、そんなものは幻想だ。俺たちは、掟を破れば死ぬ。これは疑いようもない事実だ。だからまずは、()()()()()()()()()()()。そんな覚悟を明確に持ってから、今日は帰宅してほしい」

 蓮杜が長々と説教じみた演説をしていたそのとき、けれども机に突っ伏して寝たりだとか、ゲームをしたりだとか、そういった舐め腐った生徒はひとりも見受けられなかった。蓮杜の発言はそれくらい、信頼に足る熱気を帯びていた。しかし論理は不足していた。理論派的には、いまの説明では納得できないことがあるのにも至極納得できた。

 反論したのは、黒髪短髪の渋メン男子だった。運動も勉強もそこそこできそうな、いわゆる、〈こういう男が意外とモテるんだよ〉タイプの男だった。

「どうしてそう思うんだ? お前だってオレたちと同じ新入生だろうが。まるで自分だけはこの学園についてよく知ってるみたいな言い草だな」

「君。名前は?」

五階堂ごかいどう定知じょうちだ。クラスメイトの名前は、ひと通り覚えたんじゃなかったのか?」

「定知。〈生徒名簿〉は見たか?」

「無視かよ……。まあいい。いや、まだ見ていない」

「このアプリは俺たちのクラスだけじゃない。他クラス・他学年の情報も閲覧できるんだ。これを使ってひとつ、みんなにも確認してもらいたいことがある。ちょっと開いてみてくれ」

 蓮杜の指示にコンマ数秒遅れて、ワタワタとあちこちでスマホをいじりはじめた様子が確認できた。オレもそれに乗じて、〈生徒名簿〉をクリックするべくスマホを覗き見る。……見たのだが、どうやらこの画面にはないらしい。試しに1度だけ右へスワイプしてみると、右上に〈生徒名簿〉のアプリを見つけることができた。タップした先に現れたのは、まさに蓮杜の言っていた通りの画面だった。


「俺たち1年生には合計で、3()7()()()()()があるみたいだ」


 〈生徒名簿〉というタイトルでありながら、蓮杜は個人個人の情報についておよそ気にしていなかった。出席番号や出身中学。てっきりこの程度の情報が載っているものかと思っていたのだが、実際には、身長、体重、血液型……などなど、とてもじゃないが笑えないレベルに詳細な情報が記載されていたのにも関わらず、だ。


 …………なるほど。


 ここで初めて、オレも理解した。

 どうして…………藤花学園がどうして、毎年のようにエリートを輩出することができるのか。


 ――()()()()


 卒業が認められた全生徒に対して、望む()()()()()()を付与する。


 空を飛べるようになったりだとか、両手から〈かめかめナントカ波〉を放出できるようになったりだとかは叶わない。けれども身体能力をあげてくれたりだとか、頭を良くしてくれたりだとか。()()()()()()()()()()()()()()()()だった。


 ゆえに驚きはしなかった。周りの者は、散々驚いているみたいだったが。……いや、これはどちらかというと、体重を暴露されて泣き叫んでいる女子生徒たち……なのかもしれなかった。ぶっちゃけていうと、そのあたりはどうでもよかった。


 問題は…………別のところにあった。

 藤花学園の入学者数は毎年3000人。卒業生の数は公開されていない。

 もし全員がもれなく卒業できているのなら、40年あれば10万人を超える数の超絶エリートが排出されているはずだった。

 これは……オレの感覚と、マッチしない。

 そんなにも多くのエリートが日本にいる心地が、まるでしていないのだ。

 しかし藤花出身の人間が、なんの成果も残すことなく惰性のままに暮らしているなどという話は、まったく聞いたことがない。

 明らかに、卒業生の人数が入学者数よりも少ないことの証左だった。

 


「今はもう――2年生は25クラス、3年生は13クラスしか()()()()()みたいだぜ?」


 気づけばクラスのやかましさはきれいさっぱりなくなっていた。蓮杜のおっしゃる通り、2年生のクラスの数は1年生のそれよりも12だけ少なくなっていた。3年生クラスも同様に、2年生のそれよりもさらに12だけ少なくなっていた。


 ところで、1年は12か月である。


 蓮杜の言いたいことを理解した生徒がぼちぼち、現れ始めた。


 彼らは総じて、手にもつスマホをぷるぷると震わせながら〈拾の掟〉を再度、見た。


『その。〈生徒〉はクラスの保有する〈宝石〉を死守せねばならない。()()()()、〈牡丹〉は1つ2ポイント、〈瑠璃〉は3ポイントである。クラスの保有する〈宝石〉のポイント合計値によって、クラスの順位を決定する。ポイントが下位クラスに追い抜かれた場合、クラスの階層ヒエラルキーは交代する。なお……』



 教卓上きょうたくうえに置かれた、〈牡丹〉と思しきあかき〈宝石〉の数々。



 遠目に見ても分かるくらいツヤツヤとしていて、なめらかで、遠目にみたらボーリング球と見まちがえてしまいそうな宝石が、そこにはあった。



 1つ片手で持ちながら、蓮杜は掟を指さした。



「少なくとも……この掟は正しいよなぁ?」



 学年があがるにつれて数が12ずつ減っているのは、なにも偶然ではない。



 断じて、〈拾の掟〉は生徒をがんばらせるための方便などではない。



 そんな残酷な真実を、新入生が図らずも、理解してしまった瞬間だった。



()()()()最終日にて最下位クラスに在籍する者は、みな、死んでもらう』

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