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サイエンスの宝石  作者: はましょ。
壱_慟哭
56/57

55.

「まさか渋谷スクランブルにダイレクトにつながっていたとは……」

「まじでどういう理屈なんすかね、これは」

 階段は交差点のド真ん中に繋がっていた。途中で途切れてしまっているので、相応のスカイダイビング(生身ver.)が楽しめそうだった。もし一般の人間が興味本位でここから飛び降りるという選択をとったなら、次の日にはスクランブル殺人事件として連日報道されることになるのはもはや必至だった。

 ――トウッ。

 的なノリで階段の一番下から交差点のド真ん中へとダイブする。

 綺麗に着地したあとに、すぐさま辺りを見渡した。現時点で赤信号になっていたとしたらすぐさま離脱する必要があったからだ。

 青信号だったので、ひとまずはゆっくりと歩くことができそうだった。

 改めて空を見上げてみる。オレたちが和気あいあいと降りてきた巨大な螺旋階段の姿は、もはや、欠片も見受けられなかった。


 ――――?


「ねえ……悠理」


 遊華もおそらく、同じ疑問にたどりついたのだろう。


「青信号なのは……いいんだけど……さ」


「ひとっこ一人……いないな」


 今日は平日とはいえ……ここはあの渋谷の、それも、スクランブル交差点だぞ?


 車が見受けられないだけなら百歩譲って理解できなくもない。

 だが歩く人間すら……それこそ1人たりともいない気がする。

 いくらなんでもこれは……


「ねえ悠理見てあれっ!」

「……?」

 遊華が指をさした先にあったのは……それは白い白い――


「――【雪柳】」


 なんと――オレたちのいた中央から、少し外れたその場所に……それはもうあまりに身慣れ過ぎていた、ゴツゴツとしていて、光り輝いていて、もしも縄文時代にあったならそれこそ武器にでもなりかねない、鋭利なひし形状の【宝石】が、()()のようなものの上で厳かに佇んでいた。

「どうしてあんなものが……」

「ちょっと見てくるね!」



 ――ああ。



 もしこの瞬間に気づけていたなら。



『迷ってるヒマがあるなら試してみるのが人生ってもんでしょ! ――そんな本性ほんせいの持ち主』


 

【まったくもって、言い得て妙だ】



【それなのにどうして……オレはここで彼女を、止めてあげられなかったのか】



【彼女は――牡丹遊華という人間は、いついかなるときでさえ、変わることのない赤い光を存分に際立たせて生きているというのに】



「――――!?」



 いまのは…………なんだ?


 オレ……なのか? 



【恋をして心根を変える愚か者がいるな。お前のことだ】



 ……。なにを……いっている?



【恋をしてへつらう愚か者がいるな。これも、お前のことだ】



 お前は……だれなんだ。いったい……何を言いたい。



【なあ。今の気分は、どうだ?】



【無様に心根を変えた甲斐はあったか?】



【惨めに媚び諂った甲斐はあったか?】



 無様だと? 惨めだと?



 ふざけるな。



 無様なわけがあるものか。惨めなわけがあるものか。



 オレが……遊華が、いったいどれだけの覚悟を経て……これだけの決断を下したんだと思ってる。


【……きっとお前は何ひとつ、憶えていないのだろう】



 憶えていない? 何の話だ。



【俺の重ねたありとあらゆる過ちは、すべて、お前が体現するようにできている】



【悲観も、絶望も、慟哭も、諦念も、すべて、お前が体現するようにできている】



【とはいえ伝わるとは思っちゃいない。安心してくれ】



 お前がいったい何者なのか知らないが……お前が過ちを犯したのは、きっと自分で確固たる意志を持てなかったからだ。



 お前がすべてを失って、すべてを諦めることになったのは……他ならないお前にとって、大切な者がいなかったからだ。



 だから――――



「オレはお前とはちがう」

【俺はお前とはちがう】



「――――!??」

【とでも思っているんだろう?】



【安心してくれ。どうせ同じ道を進むことになる】



「…………」



【まあ、いいさ。別にお前()()を責めるつもりなんてさらさらない。だってお前は愚かだが…………俺だって、愚かだったんだから】



「……………………」



()()()()()になってしまう前に、その想いを()()()()()()()()()()と気づくべきだった】



「………………………………」



【もしこれが運命だというのなら……従うほかないのか】



「…………………………………………」



【なりふり構わず抗ったところで、道を切り開くことなどできるのだろうか】



「……………………………………………………」



【彼女の頬の温もりが零れ落ちてから、永遠が凝縮したかのような刹那――】



 そのとき………………………………………………………………







 流星のごとく、隕石が轟いた。







「遊華ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

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