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サイエンスの宝石  作者: はましょ。
壱_慟哭
53/57

52.

「瑠璃の唄 へ長調 真海水爆まかいすいばく

「牡丹の唄 い長調 夕立滴扇ゆうだちたるあおぎ


 ……ふぅ。

 まあ、こんなものか。

 一般人相手によりにもよって1番攻撃力の高いへ長調――真海水爆を使って大丈夫なのか? そんなふうに不安に思う必要などさらさらない。むしろ相手が大多数の一般人だからこそ、これこそが最も手っとり早く、かつスマートに解決できる手段だった。攻撃力自体は確かに高いが、【瑠璃】から抽出するエネルギーを極限まで抑えればそれほどたいした威力にはならない。へ長調の最大の長所は、極めて広範囲の攻撃をもたらすことができる点にある。遊華に、回復技である〈い長調〉を使わせたのは、攻撃力を抑えてはいてもなお少しばかり彼らが死んでしまうのではないかと不安になってしまったからだ。まあ別に殺したところで学園からはどうやら〈宝石ゲーム〉の一環と見なされるだけで、特段ひどいお咎めもないらしいのは華音やXの所業ですでに把握済み。けれども遊華の目の前で人を殺すというのはどうにもためらわれるものがあったし、そもそももし仮にオレがそうしようとも遊華が断固として止めに来たはずだった。いま抱えている問題は…………そこなどでは、なかった。

「出て来いよ…………()()

 物陰に隠れた一匹の狼を見つめて、オレと遊華は満を持して体勢を整える。

「クラスメイトが()()とはいえ遭遇したんだ。もっと親しくしようぜ? なにをそんなに怯えてやがる」

「昨夜……成瀬択を殺害したのはお前だな?」

「ふっ――好きに解釈するんだな」

 そんなとき。

 オレは背後から――とはいっても、およそ背後とは言い難いほどに距離の離れたところから――殺意を、感じとった。


 ――キンッ!!!


 耳をつんざく不快な音が、その一帯で轟いた。

 超長距離から放たれた銃撃を、オレが指2本で止めたことで生じた音だった。


「ちっ――今のも止めやがんのかよ」

「お前の差し金だな?」

「なあ悠理。お前はどうして力を隠してるんだ?」

「――――!?」

「俺はなぁ……不思議で不思議でたまらないんだ。この学園がいったいどうして……()()()()()()()()()()()()()()

「――――!?」

 蓮杜は突然、どこからともなく取りだしてきたサッカーボールに思いきり力を込めて、オレの顔面を襲ってきた。

「瑠璃の唄 ろ長調 海《うみ》」

 反射なのか意図的なのか、およそ半々くらいの感覚で、ついつい【宝石】の力を繰り出してしまう。

「へぇ……」

「いったい何が目的だ。お前もさっき言っただろうが。オレたちは同じAクラス。敵対している場合などないだろうに」

「そうだよ、蓮杜くん。わざわざこんな人目の少ないところを狙って――いったい、なにがしたいわけ?」

「だからさっき言ってやったじゃねぇか、遊華ちゃん。俺はこの学園の正体を暴きたいんだよ」

「……それで?」

「まだはぐらかすつもりか? 御影先輩が妙にお前らのことを丁重にもてなすもんだからまさかとは思ってみてみたが……お前ら……この学園を創った人間と、()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「「――――!?」」

 蓮杜の読みは――オレたちがつい最近確信した読みと――()()()()()()()()()()()。ゆえにおかしいのだ。この学園を創った人間がオレたちの先祖だという話は、あくまでほぼほぼ確定的な仮説のうちに今もなおとどまっている。むしろ真実があるならオレ達こそ教えてほしいくらいだというのに。どうして……どうして蓮杜が、そんな結論にたどりついた。いや、というかそもそも……

「ふっ――。やはりな。お前らは明らかに、()()()()()()

「…………どういう意味だ」

「ふつうのやつはよぉ……俺がこの学園の正体を探るような話をすると、必ず頭がポンコツになるのさ。普段どれだけ頭がいいやつでも、これは例外じゃない。天野睡蓮って知ってるか? Aクラスの中でもトップクラスに頭がいい。それなのに……あいつにこの学園の正体についてどう思うか聞いてみたら……一体なんて言われたと思う? 『正体もなにも、あるものはあるんですから考えるだけムダでしょう』って言われたんだぜ? なあ、どう考えても変だろ。いや? 別にあいつがそんな風に答えたことに対して言ってるんじゃないぜ? 俺が言いたいのは――悠理、遊華。てめえらは俺の質問を受けても、いっさいポンコツに()()()()()()ってことだ。俺がさっきお前に聞いたとき、めちゃくちゃ驚いた顔をしてただろ? もはやそれが答えなんだよ。てめえらこそがこの学園の黒幕――ちがうか?」

 …………。

 ここでちがうというのは極めて簡単だ。

 なにせ実際にちがうのだから。あらぬ疑いをわざわざ好き好んで持ってやる必要などあろうはずもない。


 だが…………


 彼は……蓮杜は……もしかしたら、世界で類を見ないほどに……貴重な存在なのでは……なかろうか?


 それこそ華音と同クラス……部分的にはそれ以上の世界に、まだここへ来てものの1週間しか経過していないというのにたどり着いている。


「蓮杜」

「……?」

「お前の言い分は、わかった」

 それを聞いた蓮杜は、どこかニヤついた顔でこちらを捉えてくる。

「だが却下だ。いまはお前の相手をしている場合じゃない」

「デートで忙しいってか?」

「それもある。だが重要なのはそこじゃない」

「否定しないのかよ……」

「オレたちは今から、3年棟の屋上へ向かう」

「――――!?」

「お前のことだ。もう既に知っているんだろう?」

「…………螺旋階段か」

「ああ。オレたちは華音に頼まれて、いまからそこを調査するところだった。それこそ、お前にとっての吉報を持ち帰ることだって、できるかもしれない」

「……いや、ちょっと待て。じゃあお前たちは――」

「そうだ。生憎とお前が妄想たくましく思い描いていたような、この学園の正体をすべて知っているような全知全能な人間などでは、まったくないということだ」

「くっ――」

「だが悲観する必要はまるでない。むしろ、今のお前の話を聞いていたく感動させられたところだ。もう少し待ってくれさえすれば、お前の言うことに従える日も、いずれ訪れるだろう――」

「……わかった」



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