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サイエンスの宝石  作者: はましょ。
壱_慟哭
52/57

51.

 2062年4月16日17時。

 浮那葉から2つのびっくりニュースが伝えられた日、そして……桜香の恋心を知ってしまったその日の放課後のこと。

 オレと遊華は3年棟の屋上目がけて、テクテクと歩いていた。


『3年棟の屋上には地上に通じる巨大な螺旋階段がある』


 昨日の放課後、華音から直接聞かされた話だった。ちょっくらそれを見ていこう――という話になったのである。

 妹との確執がまちがいなく生まれたこんな状況で、お前は彼女とのんびりデートか? 随分とお気楽なもんだな? ――的なツッコミをされてしまうのは、もはや疑いようもなかった。いや、誰にツッコまれることがあろうか……みたいな反語的ロジックをやりたいだけな気もしてならないが、それはそれとして。

 螺旋階段をお目にかかりたかったのには、明確な目的がある。それにかこつけて遊華とデートしたかった、などということは…………断じて、……ない。

 もしその階段が地上に繋がっているのだとしたら、それはいったい地上の何処いずこへと通じているのか、それが問題だった。藤花学園が太古の昔に作られたことは疑いようもなく事実であり、それすなわちこの螺旋階段もまたはるか昔に作られたことを意味するわけであった。まさかただのロマンティズム――甚だ誤用だが無視してもらって構わない――で創ったわけでもあるまい。そこに地上への通路を建てたのには、きっと何かしら明確な目的がある。それを特定するために、向かうことにしたのだ。

 いわゆる、勘のいいガキは嫌いだよ――タイプの子ならばきっともう1つの目的に気がつくにちがいない。そう、その階段を使って地上に降りるということは、とどのつまり学園における絶対的な決まり事――〈拾の掟〉に反するわけなのだ。


『その。〈生徒〉は地上《学園の外》に足を踏み入れてはならない。踏み入れた者には、死んでもらう。』


 つまり――――確認するべきは、もう1つ……ある。


 〈拾の掟〉を破ったときに現れるらしい――強力な処刑人。


 華音の話では、オレたちであればまちがいなく勝てる相手とのことだった。

 いやはや、幾度となく《《それ》》を見てきたという生徒会長直々のお言葉は、実に説得力を伴っていて頼もしい。

 いずれにせよオレたちは――

「今日1日で藤花学園の〈拾の掟〉、そんでもって対称会の【拾の掟】を一気に破ってしまったことになるとは……なんといいますか……乙な人生でございますね、悠理くん」

「……そう、だな」

「んえっ? なんだか反応が乏しいみたいなんですけども。もしかして桜香ちゃんのこと気にしちゃってる感じ?」

「いや……それはまあ正直……あんまり気にしてないというか……ほら、オレが言うのもなんなんだが、要は桜香は、失恋しちゃったわけなんだろ?」

「ウッワひとごとぉ……。それをあなたが言っちゃいますかね、悠理さん」

「だから前置きしたんだろうが……」

「あっははー、冗談。それで?」

「世の中の人間は、大なり小なり、多かれ少なかれみんなそういう経験をすると思うんだ。だからこれを機に桜香も強くなってくれると……うれしいと思っては……いる」

「後半の方めちゃくちゃテンション下がってましたけど。だいじょぶそ?」

「まあ……正直気はめっちゃ重い」

 いまだに桜香が――実の妹が、兄であるオレを異性として好いてくれていたとは信じがたい。しかし過去を思い出してみればみるほどに信じざるを得なくなっていく。まさに点と点が線で気持ちよくハマッていくようなあの感覚が、いまもなお絶えず頭の中でしんみりと繰り返されていく。とはいえ精神を包括的にとらえてみたとき、気持ちよくなっているはずもない。めちゃくちゃマイナスだった。生理的に……ちょっと、キツかったのだ。妹から恋心を……持たれるというのは。いま妹はいないので、心を読まれる心配もない。だからこそ言うが、はっきり言って妹よりもまずは自分の心配をしたほうが良かった。それくらい、気が滅入っていたのだ。


 ――ギュッ。


「えっ――」

「そんな暗い顔しなさんなー悠理さんやっ。私の友達でも彼氏に振られてすごくショックーみたいな子いっぱいいたけど、結局次の月には別の彼氏できてたし。あーんま気にせんくてもいいと思いますよー?」

「それはそれでお前の友達をちょっと心配したくなるんだが」

「それに――」

「???」

「桜香ちゃんはさ、たぶん私が悠理のことを好きだってことにも……ずっと前から気づいてたんだと……思うよ?」

「――――!? 桜香にも言ってなかったのか?」

「まっさか。言うわけないじゃん。そりゃあ、桜香ちゃんのことだから悠理に伝わるなんてことはないだろうから、別に悠理に告げ口されるかもーとか思ったわけではなくて」

「……」

「ただなんというか……私の中で、なかなかけじめがつかなかったの。悠理も同じ……なんじゃないの?」

 そうだ。

 オレがこれまで遊華との恋をなかなか進展させられずにいたのは……単にオレがあまりのヘタレだったから……というわけではない……と、自分ではそう思っている。対称会に生まれた者が等しく最初に教育される【拾の掟】。この戒律の最も恐ろしいところは、その連帯責任の法則にあった。現存する瑠璃家・牡丹家の人間の中で、実際に【拾の掟】を破った者はいないとされている。ゆえに【拾の掟】を破ったそのとき、果たして本当に対称会が破滅を迎えることになるのか――これについては証明のしようがなかったというわけだ。きっと遊華も、いままでずっと同じような葛藤を抱いてきたのだろう。どれだけ自分が強くても、家族の絶対安全の保証はしきれない。ならば自分の欲を抑えなければ……あまりに、自己中が過ぎるというものだ。

 きっと桜香は……妹、瑠璃桜香は、オレと遊華の今までの葛藤をずっと、誰より近い位置から暖かく見守ってくれていたのではないだろうか。たぶん遊華はそういうことを言うために、あえてこの話題を切り出してきたのだろう。オレが――自分の妹に、兄としてきちんと向きあうために。そうでなくては、いままでずっとオレたちの恋路をつらいながらも見守り続けてきた桜香に対して、それこそ1人の女性に対して、失礼というものだ。帰ったらまず話し合う。そして――

「――――包囲されたな」

「みたいですね……」


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