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「――――!?」
「だってさ。私たちって正直――たぶん他のどのクラスよりも、たくさんの情報を持ってるじゃない? 〈瑠璃〉の宝石が天井にあったとか、〈宝石〉を教卓に置けば教室にロックをかけられるだとか。そういうところでアドバンテージがあったから、試験にも集中できた。先週を思い返しても見てよ。どこのクラスも学生寮の周りで〈宝石〉を奪いあってた。私たちはあいにくと〈宝石〉をお家に持ち帰ることもなかったからバッグの中身を確認させられても盗まれるようなことはなかったけど、他のクラスはもうひどかったよね。どこで見つけたのかわかんないけど、〈宝石〉を見つけるたびに家に持ち帰っては他クラスから狙われて、狙われて、狙われ続けてたじゃん。正直可哀そうではあるけど、逆に言えば私たちのクラスは大きくリードしてるってことになるよね。そんな情報を持ってる成瀬くんがもしBクラスに言っちゃったなら――」
「…………」
「Aクラスは……逆転されちゃうかもしれないよ?」
多くの生徒が、菫子がすべてを語り終える前に言いたいことを理解できたようだった。そしてそれは直接相対していた定知自身も同じだったようで、そのことを如実に証明するのが、沈黙という名のアンサーだった。
成瀬択という男。Aから落ちたということと、これまでに何らクラスに役立つムーブメントを成すことができなかったということ――そして何より影があまりにも薄すぎたこと。はっきり言って、Aクラスの立ち位置としてはお荷物でしかない男だった。しかし、どうだろう。そんな……一見すると何のとりえもへったくれもない男が――Bでなくとも構わない。わずか1週間で他クラスとは比べ物にならないほどの情報を持ったAクラスの一員。そんな男が……他のクラスに流出してしまったなら、どうだろう。
成瀬の意志など、もはや関係ない。Aにとっては誰よりおぞましい脅威となるし、それ以外のクラスからしてみれば喉から手が出るほどに貴重な宝となったと言えるだろう。そんな状況下に置かれた彼が、果たして、実りのある高校生活、学園生活を万に一つでも過ごすことなど、できるのだろうか。
言うまでもない。答えは否だった。
さっきまであれほど人間の生命について熱弁していた男が――五階堂定知が沈黙していたことが、なによりの証左となっていた。
「ねぇ……X……。名乗りを挙げてくれないのは……どうして、なの?」
菫子は泣きそうになりながらも、懸命に語りかける。
たった1人でクラスのために――〈不正〉になるかもしれない行動をとった……いや、とってくれたその人間の……心に届くように。
「みんな。Xの正体がもしわかったとしても、絶対彼を……彼女……かもしれないけど、とにかく責めないであげて! この人はきっと……悪い人じゃないんだよ。現にこのAクラスにさ、悪い人なんていないでしょ? 私たちをかばってくれたんだよ……」
「菫子の言う通り……かもしんねぇな」
「蓮杜くん……」
「俺も正直最初に聞いたときはイラっときたが、実際理には適っていやがる。なあX。もしお前が今後もたった一人で背負おうとするなら、俺はぜったいそうはさせないぜ?」
蓮杜は泣きそうになっていた菫子をそっと抱き寄せる。普通に考えればあり得ない行為だが、いまこの瞬間、それを咎められる者は誰もいなかった。
菫子はそのやさしさを肌で感じとったのか、一気に涙腺が崩壊する。それを案じて肩を優しくなでては慰める蓮杜は、続きを物語った。
「俺はなんとしてでもお前を見つけ出すからな。お前がもし自分の正体をAクラスのみんなにバレたくないなら、別にそれでもかまわないさ。でもな、俺にくらいは――クラスのリーダーくらいには、伝えてくれたっていいじゃねぇか。俺はリーダーとして、クラスメイトのみんなに対して親身に寄り添っていきたいと思ってる。お前の罪は、俺も一緒に背負う。それでいいじゃねぇか。なぁ。まだ3年間もあるんだぜ? 一緒に、クラスを引っ張っていこう!」
教室の中では、拍手喝采が巻き起こる。
理由は言うまでもない。蓮杜がアツく語ってくれたからだ。
蓮杜が語り掛けていたのはあくまで勇気をもって成瀬を殺害したXという体だが、クラスメイトからしてみれば、それはそれはもう、他ならぬ自分に対して語り掛けてくれているような心地がして、ならなかっただろう。
それほどまでに、蓮杜の演説は、うまかった。
呆れながらもクラスが明るい空気を取り戻せたことを確認できた担任の浮那葉は、少し微笑みながらも静かに教室を去っていく。
そんな光景を見てオレは、心底――――――――
胸糞悪いなと、思った。




