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サイエンスの宝石  作者: はましょ。
壱_慟哭
49/57

48.

 掟・そのきゅうは、首位Aクラスに在籍しているオレたちにとってはそれほど価値のある掟とも思えなかったので、あえて触れてはこなかった。もっといえば、オレや遊華、桜香や竜胆はすでにAクラスとBクラスを分けるボーダーからも大きく隔絶したSPを保有していたため、なおのこと気にする必要がなかった。

 この掟は3年間にもおよぶ学園生活における最後の1か月にこそ、真価を発揮するにちがいない。この掟があるせいで、状況に応じて行動の仕方は極めて大きく変化する。たとえば最後に残った2クラスがAとBだったとして、自分はBにいたとする。しかしながら〈宝石ゲーム〉ではBが圧勝していた場合、起こり得るパターンの中で最善なのはBに残り続けること――


 ――ではない。


 正確には、()()()A()()()()()()()()()S()P()()()()()()()()()()()Bに居残り続けることなのだ。


 そう。このシステムの難しいところは個人バトルであるSPとチームバトルである〈宝石ゲーム〉が複雑に絡み合うことにある。Aにいた生徒が一定ラインのSPを割ってしまった場合はBに移動せざるを得ないものの、Bにいた生徒がその一定ラインを超えたところで必ずしもAにあがる必要はない。そして逆に、このままでは〈宝石ゲーム〉において負けそうなAクラスの方に残念ながら在籍してしまっていた生徒たちは、試験でひどい成績をとるなりなんなりすることで自分のSPを引き下げて、()()()Bに落ちるという手段をとらねばならない。ここで()()が効いてくるというわけだ。確かに最初、あれだけ難しいテストで全体の1%もとらなくてはならないのは酷だなと思って見たりもしてみたが、冷静に考えてみるとおかしな話なのだ。だって試験の内容は、難易度は、全学年共通。1年生の1番最初に赤点をとらずに済んだ者たちからしてみれば、それ以降は病みでもしない限りは確実に赤点を回避できるはずなのだ。しかしもし先のように――()()()()()()()()()()()()()()()()()状況に陥ったとしたなら、どうだろう。赤点という名の文字通りなデッドラインがあるせいで、なかなか全力で手を抜ききれない。

 いやはや、実に見事なゲーム設計だ。

 ――ともあれ。

 浮那葉の話によると、まだもう1つ、悪いニュースが残っている。

 そしてあえて2つ目として残したということは…………

 1つ目の時点で、比較的ビッグニュースだったのだ。

 多少の覚悟は必要かもしれない。

「それで先生……もう1つのほうって――?」

「ああ。それはだな――――」

 一呼吸――というにはいささか短すぎる間をもって、浮那葉は話を切り出した。


「今日、来ていないやつがいるだろう? このクラスの……そう、定知の後ろに座っていた、成瀬なるせたくだ」

「「「…………?」」」

 名前自体は一応、知っている。〈生徒名簿〉をひと通り確認したときに、彼の名前と顔も把握した。しかしなんというか……はっきりと言えば、ぱっとしない男だった。太ってる……とまでは言わないが、健康体とは断じて言えないくらいの絶妙なメタボ具合。その上まったくと言っていいほど手の行き届いていないヘアスタイルにだいぶ度の強いレンズの入った黒ぶちメガネ。そんでもって座席は教室の隅っこ。クラスの者たちがあまり記憶しておらずとも――可哀そうなことにはちがいないのだが――仕方がなかった。

 浮那葉は生徒たちのキョトン顔にも当然気づいていたであろうが、どういうわけかここにはいない成瀬択のことを慮ってなのか、それには一切ツッコむことなく続きを述べた。


「彼が昨夜――このAクラスのある者に――――殺された」


「「「…………!?」」」


 …………!?

 いや、さすがにちょっと待て。話が飛び過ぎだ。

 ふと隣にいる遊華の方を伺ってみると、やはりほんの少しだけ――けれども明らかに顔色が悪い。ましてや、クラスの連中の顔はもはや形容しがたいものになっていた。



 ――たった1人を除いて。



「まあみんな、落ち着け。いったん事の経緯を聞いてほしい。昨夜、実力テストの結果が公表されただろう? と同時に、みなのSPにも変化が訪れたことに気がついただろうか?」

 ―――無論、気づいていた。

 SPがリアルタイムで生徒の能力を測定し、数値化したものであるという話はもはや周知の事実となっていた。オレに限らず、クラスのみんなもすぐに気がついたことだろう。なにせSPはホーム画面にデカデカと表示されているのだから。スマホを手にとった回数分、オレたちはその数字に図らずもお目にかかることとなる。

「1番最初に公開されていたSPは入学試験の試験結果を数値化したものだった。覚えているだろうか? 昨年8月に執り行われた入学試験のことを」

 覚えている。夏休み中にいきなり行きつけの中学校に呼びつけられて、そして連日試験を受けさせられたことを。見知った先生がいるかと思いきや、知らない先生ばかりだった。いまにして思えば、あれはきっと全員が藤花の先生たちだったのだろう。国の管理する中学校を連日貸し切れるような真似ができる団体があるのだとしたら、それこそ藤花以外にはあり得ない。――そうか。そういえばあのときに受けた試験科目も30くらい、あったような気がする。オレたちは知らぬ間に第0回目の実力考査を入学試験という名目として受けさせられていたというわけだ。


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