表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サイエンスの宝石  作者: はましょ。
壱_慟哭
48/57

47.

 2062年4月16日。

 やはり桜香は学校に来ていなかった。かといって……大丈夫か?――などという無責任な連絡を寄越す真似は、少なくとも今のオレにはとてもじゃないが叶わなかった。

 まもなくホームルームの時間になろうとしていた。昨日は余裕をもって姿を見せたはずの姫坐耶ひめざや羽那葉うなばは――慈共寺じきょうじ浮那葉ふなばの代役としてAクラス担任を自称する、カラフル白衣をその身に宿した金髪美人理科教師たる姫坐耶羽那葉は、今になってようやく、ドタバタドタバタと部屋にあがり込んできた。まったくもって、威厳が感じられない。

「いやぁ、危なく遅刻するとこだった。すまんな、みんな」

「先生って遅刻するとなんかペナルティとかあるんですかぁ?」

 そんな無神経な質問を投げかけたのは、1番教卓に近い席に蓮杜はすととともに身を落ちつかせている女子生徒、菫子すみれこだった。

「あ? そんなことはないぞ。そもそも社会人に遅刻という概念はないのでな。お前たちも社会人になってみるといいぞ? 1分1秒でも遅刻しようものなら、即、文字通りクビが飛ぶことになるのでな」

 いや、文字通り飛ぶわけはないだろ。

 ふつうに考えればギャグなんだろうとどっかの誰かがツッコミを入れてくるに違いないのだが、そんな類は誰からも飛んでくることはなかった。この学園が物騒だから……などと言う可能性も否定はしきれなかったが、シンプルに浮那葉ふなばの醸し出すアホっぽい雰囲気が、『ああ、この人はポンコツだから仕方ないんだ』と思わせるに値したから――という線のほうが強かった気が強てならなかった。

「んげっ! こわっ!」

 若干一名、そんなへっぽこ先生ときちんと向き合う者もいた。パープルテールこと、菫子すみれこである。まあ菫子の場合、等しくアホだから、という線のほうが強そうである。

「急いでたのは単純に、1時間目の授業でちょっくら実験をしてみたくてな。今日はC3クラスで物理の実験をするつもりなんだ。なので早めにホームルームも終わらせておきたいのはやまやまなんだが……」

 ……ん?

 突然顔色を悪くした――は言い過ぎかもしれないが、表情を険しくした浮那葉。何か嫌なニュースでもあるのだろうか?

「お前たちAクラスに伝えねばならないことが2つある。私が今日遅刻しかけてしまったのは、今朝そのことで職員会議があったためだ」

 生徒たちがきょとんとしたのも致し方ないことだった。心当たりが何ひとつなかったからだ。〈宝石〉はきちんと教卓上に置かれているし、後ろのロッカーで保管してある〈瑠璃〉や〈牡丹〉も毎朝蓮杜が確認してくれているらしい。蓮杜がオレたちになにもいわなかったということは、つまりはそういうことなのだ。 

「まず1つ目。昨日、G7クラスは消滅した」

「「「――――!!??」」」

 〈拾の掟〉を見る限り、クラス全体が消滅する術は1つしかない。各クラスが保有する〈宝石〉ポイント。それを毎月、月末に集計し、最も少なかったクラスに所属する生徒は全員殺されてしまうという話だ。しかしまだ月末ではない、どころか下旬にすらなっていない。G7クラスの全体が、何か〈不正〉ペナルティでも受けた……という可能性も一瞬視野に入れかけたが、オレはその数瞬後、もっと本質的な答えにたどり着いた。

「驚いている者も多いようだな。私も長年ここに努めているが、こんなに早くクラスが消滅するのは初めてで少々面食らってしまっている。とはいえお前たちに対する影響は実質的には皆無なので、まずは安心することだ」

「なにがあったのか、聞かせてもらえますか?」

 真剣なまなざしで先生を捉えたのは、定知だった。

「ああ。まずG7クラスにはそもそも117人の生徒がいた。昨日、試験結果が公開されただろう? 内87人が赤点をとってしまったことで、即死刑の手筈となった」

「「「――――!?」」」

 クラスの中には息をのむものや、信じられないと言ったふうにして両手に顔をあてがう者など十人十色だったが、オレとしてはそんなものか……という感想しか出てこなかった。

 そもそも入学試験の成績で最下位クラスの実力しか示せなかった者たち。もとより試験で好成績を収められるはずもなかった。この学校の実力考査は、ふつうの学校とは大きく異なる。科目数は30あるし、そしてなにより1つ1つの難易度があまりにも高い。常人では得点率3割であればそれはそれはもう大健闘であることを、この学園の生徒会長にして高校生ながらノーベル生理学・医学賞を受賞した華音が手ずから証明していた。よって、赤点となる得点率1%というのは、数値だけを見れば易しく見えこそすれ、決して易々と乗り越えられる壁とも思えなかった。ゆえにオレとしては、いっそ全員が赤点をとって消滅したのでは? と思ったほどだった。どうやらそうではないらしい。

「えっ……じゃあ、残りの人たちは……」

「残る30人は……全員〈昇格〉したようだ。今日からG6クラスの仲間入りというわけだな。G7クラスの生徒たちは、今回赤点をとったにせよとってないにせよ、このまま〈宝石〉ポイントで最下位にくすぶっていれば死刑は免れない。この学園ですぐに成績をあげるのは決して容易ではないはずなんだが……まったくもって、大した連中だ」


『その。生徒は一定基準のSPを上回ることで上位クラスに移動することが可能である。ただしそれは逆もまた然りであり、なおその場合は強制的に移動することになる。従わなかった者には、死んでもらう』

 

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ