41.
「えへへ~。悠理ぃ~」
「なっ、ちょっ。お前どうした!? アルコール入れたわけじゃないよな!?」
遊華はとつぜん――――おもっきし抱き着いてきた。まさしく恋人が――俗にいうバカップルというやつが、人目を気にすることもなく、またそれを視界にとらえた他所の人が吐き気を覚えていることなどにはさらさら気にも留めることなく、存分に世界を自己中幸せオーラで満たしてしまうような、そんな類の抱擁だった。
いくら華音の入れ知恵があったとはいえ、わざわざ危ない橋を渡ろうとするようなタイプではない。酒を入れたわけでは、ない……はずである。何より遊華はお酒が大の苦手であることだし、そもそも机の上にもそれらしき飲み物はなんら見当たらない。
――——ん?
「兄さまっ! あれ!」
桜香が指を付き立てて示した先にあったのは、まさに同タイミングでオレも目の焦点を合わせたものだった。
コーヒーだった。
「お酒が弱い人はコーヒーでさえ酔うという通説は……どうやら、本当だったようですね」
「いや……だとしてもこんな陽気な酔い方するなんて聞いた試しがな……っておい!?」
全身をぎゅーっと包み込まれた状況でさえ、オレの意識を乱すには十二分すぎるものだった。……だというのに――
耳元で息がこぼれる。
言うまでもない。遊華のものだ。
「ちゅーする?」
「――――!?」
「いい加減にしてくださいっ!!!!!!!」
…………。…………。
「……って、あははぁ。ちょっと調子に乗りすぎちゃったっ。ごめんね桜香ちゃ~ん」
「頭なでないでください。不快ですっ」
「んぁあもうっ」
…………。…………。
やばい。
やばいやばいやばいやばいやばい。
顔が熱い。脳みそも焼き切れたように発熱している。
――やばい。
遊華のことだから、きっと昔ながらの軽いノリでスキンシップしてくれただけなのだろう。いま思えば、数年前までこんなことしょっちゅうあったはずだ。
……心臓の音が……早い。
恋心を意識したがゆえなのか、身体が直感的に異常気象を起こしているのか、わからない。そしてそんなことなど死ぬほどどうでもいい。
――――ああ、好きだ。
他のなによりも。彼女のことが、オレは好きなんだ。
『その壱。瑠璃家は他の一族と仔を成してはならない』
『その弐。瑠璃家は同い年の年仔と仔を成ねばならない』
――――もう、いいのではないか。
こんな……誰が、なんのために作ったのかもわからない掟事。破ったら対称会は破滅を迎える? やれるもんならやってみろってんだ。
いまのオレは、もう誰よりも強い。たとえ相手が先祖だろうが神だろうが、確実に葬り去ってやる。
彼女と…………付き合いたい。
彼女と…………一生をともにしたい。
……こく……………は………
するという選択しか…………もはや考えられない。
遊華はオレの心を覗き見ることなどできない。できたらどれだけ……ラクな話だったろう。
逆でもよかった。オレが遊華の心を覗き見ることができたなら……どれだけ、気が楽になったことだろう。
相手も自分を好いてくれているのなら、自信をもって告白できる。
そうでないのなら、相手に無様な自分をわざわざさらさずに済む。
ああ。
神さまはどうして…………




