35.
結論はもはや、1つしかなかった
奇しくも(?)同じ3000年の歴史をたどる唯一無二の組織――藤花学園。
そこで、なんでもいいから対称会の呪いを解く手がかりでも見つけられないだろうか――藁にも縋る思いを込めて、入学を決めた。
もとより総理大臣から、それこそ赤子のときからしつこくしつこく入学するよう
せがまれていたのだ。こちらとしても都合がいい。
入学してみて思ったのは、やはりどいつもこいつもダメだということだった。無論、生徒たちのことである。
〈拾の掟〉の無残さに怯えこそすれ、藤花学園の存在そのものを疑問視する、疑問視できる人間はただの1人もいなかった。
当然だ。
【黒曜】を有すことで卓越した頭脳を誇る対称会の人間でさえ……気づけないのだから。
大人しく遊華と桜香と一緒に、3人のみで手がかりを探そうと方針を定めたはずだった。
なのに…………
「私は……私の一生涯をかけて……この学園の正体を暴きたいと……そう、思っている」
この女は……藤花の現生徒会長にして、世界が認める英才は……こう、言ってのけたのだ。
「随分と驚いているな。当然だろう。生徒たちはなおのこと、世界のだれもが藤花の存在をまるで空気がように扱っている」
生身の人間が……これほどの高みにいる。
「しかし君たちが驚いている理由は、きっとそういう話じゃないんだろう」
【宝石】を持ちえない人間が、世界の核心にさえ迫りつつある。
華音なら、あるいは……
「私ごときがその事実に気づいてること――それに君たちは驚いている。ちがうかね?」
「……」
返事はできなかった。華音の指摘がぐうの音も出ないほどに正しかったからだ。
「そこにいる美桜も結衣も、もとは気づいていなかった。しかし私が絶えず説得を続けたことで、この話をひとまずは受け入れてくれるようになった」
「とはいえそれでも、あわわってなってるけどねぇ」
「美桜語を1年生相手に使うな。通訳すると、なろう系主人公が異世界転生をはたして間もない最中、突如あらわれたドラゴンのせいでびっくら腰をぬかしてしまって……」
「お前も大概だから黙ってろ、結衣」
「グハッチュウ」
容赦なく顔面を蹴りつけられてなお、結衣はペースを崩さない。
……なるほど。実に頼もしいメンツだ。
ふんだんに蹴りつけながら、加えて、スカートの奥底がチラリかけながら、華音は真の通った声で宣った。
「話を戻すが、悠理、遊華、桜香。私は2年前からずっとお前たちを待っていたんだ。なぜかって? それこそ簡単な話さ。私はこの学校を訪れてから2年間、あらゆる事実を発見した。学園の先生はだれもかも戸籍を有する一般ピーポーであるくせに、常人とはかけ離れた知識と運動能力を携えていること。先生を飲みに誘って、酔いつぶれてるスキをついて問いただしてみたはいいものの結局はぐらかされて、しまいには学園側に〈不正〉を叩きつけられてしまったこと。〈不正〉の罰はもちろん死刑……の割には、あまりにも死刑執行人が弱すぎることとか、な」
「どうしましょう。ツッコミどころが多すぎて、数年ぶりに頭がパンクしています」
「無理もないよ、桜香ちゃん。この生徒会長、ちょっと変だし」
「ちょっと? めちゃくちゃの間違いだろ」
「こらこら新入生。私の扱いがすでに雑すぎやしないか?」
「未成年のくせに先生と酒のんでるやつ相手にはむしろ丁寧すぎるくらいだと思うぞ」
「ははは。確かにそうかもしれんな。知ってるか? 〈不正〉にはなんとなんと、〈未成年飲酒〉も含まれている」
「知らずともわかるだろ……」
「罰がこれまた面白くてな。飲んだアルコール量×100グラム分のSP減少らしい」
「なんだそれ……」
ジョッキ1杯で20g程度のアルコールが含まれている。2杯飲むだけで400ものSPが消え去る算段だ。
「あんまり調子に乗ってると、卒業できなくなるんじゃないか」
「心配ない。私のSPはすでにGPを優に超えている」
「……試しに聞いてみても?」
「GPは26万。SPは35万だ」
「「「まじかよ(ですか)」」」
確か桜香のSPが現在147万とかだった。【宝石】なしでこれほどとは……まったく恐れ入る。
「案ずるには及ばなかろう? お前たちのSPと比べたら私などミジンコだ」
「どうしてそう思うんだ?」
「実力考査。大変だったろう。あれだけ多岐にわたる科目をやらされるんだ、慣れてないうちは体力考査と言っていい。無論、お前たちにとっては杞憂かもしれんが」
「それがどうかしたんですか?」
「多種多様な科目があるのには明確に理由がある。SPは複数のパラメータをもとにその人の能力を忠実に数値化する。単なる受験勉強ができたとて、人類が生き延びる上ではほど遠い。チームワークはもちろんのこと、武術も藝術もできて初めて人として”格”が生まれる。実力考査はいわば、SPをGPに引き上げるための材料にすぎないわけだ」
どうりで意味不明な科目ばかりおかれていたわけだ。藤花は端から生徒の人間レベルを高めることのみに重点を置いている。
卒業祝儀――卒業が認められた全生徒に対して、望む生理学的能力を付与する。
もしこれが【宝石】の力の一部を抽出して成される芸当なのだとしたら、生身の人間が受けとるにはあまりにも重すぎる。耐え切れず死ぬ者も大勢いるだろう。
卒業するより前に死んでしまうような者が卒業祝儀を受けとったとて、【宝石】の力に耐えきれることなく死ぬだけだ。3年の内に選別しきることで、【宝石】の力を有効に活用するのが真の狙いなのだろう。
「死刑執行人が弱すぎるってのは、どういう意味なんだ?」




