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サイエンスの宝石  作者: はましょ。
壱_慟哭
32/57

31.

 華音の場合、そのことにも気づいたうえで公言したと見るべきか。

「それに、だ。そもそも疑問に思わないのか? すでに〈宝石〉を教卓きょうたくに置いてるお前たちなら、誰かがツッコんでくれると思ってたんだがな」

「「「……?」」」

 皆の衆はキョトン顔。もっとありふれた展開でもあれば確かに()()()()にも気づけたかもしれないが、如何せん、状況が状況だ。あまりに突然の展開が嵐の如く襲いかかってきているせいで、()()()()にたどり着けるほどの脳のリソースはもはや、残ってないに違いない。

「どうして私がこの教室に入ってこれたのか、だ。〈瑠璃〉は机に置いたままだったろう?」

「「「……た、たしかに」」」

 一同、納得の嵐。

「さっきチラリと漏らしてしまってし、別に重要な話でもないから説明してやるが、そもそも学年ごとに奪い合う〈宝石〉の種類は異なるんだ。お前たちは〈瑠璃〉に〈牡丹〉だろうが、2年生は〈山吹〉に〈雪柳〉、そして私たち3年生は〈藤花〉に〈黒曜〉を血気盛んに奪いあっている。〈黒曜〉だけ花の名前じゃないのには何か特別な意味があるのか……そこらへんについてはいまだによくわからんが、少なくとも価値自体は〈藤花〉のほうが高い。ともあれ、学年ごとに争う意味なんてまるでないというわけだ。他学年の教室には、〈宝石〉によるロックがかかっていようと自由気ままに侵入できる」

「ちょっと意見してもいいですか?」

「構わんぞ、宮寺琳」

「それってルールとして欠陥じゃないですか? 裏を返せば他クラスの〈宝石〉も、他学年の力を借りれば盗めちゃうってことですよね?」

「その通りだ。だからその実いまの私も、誰かほかの1年生に依頼されてこのクラスの〈宝石〉を盗みに来たやからかもしれん」

「「「――――!!!」」」

 瞬く間に、教室内に緊張が走った。

 しかしオレ的には、華音にはそんなつもりなど微塵もないことが肌感覚で伝わってきた。

「はははっ。そう身構えるな。盗むつもりなど毛頭ない。長い目で見たときに悪手なのでな」

「長い目……?」

「ああ。宮寺琳の言った通り、他学年の力を借りれば〈宝石〉を盗み得るのも事実だ。しかしそのためには、力を借りた側もまた、相手に貸すことが求められる。世のなかはギブアンドテイクだ。一方だけが得をする契約など、成り立つはずもなかろう。力を貸すのは不可能じゃないが、そのためには自分たちも相手に力を課さなくてはならない。そしてそのリスクは、あまりに大きい。だから多くの場合こんな契約は成立しないんだ。そのためにあるんだぞ? 〈掟・そのしち〉は」


『その漆。他学年教室のトビラに接触する際は十二分に気をつけよ。万一その証拠を押さえられ、学園側に届け出があった場合、死んでもらう』


「だから先輩に相談ごとがあるときはそのクラスの生徒にトビラを開けてもらうべきだろう。事実、私も今回そうさせてもらった」

「そういうことなのか……」

 華音のためにトビラを開けたと思しきAクラス女生徒がペコペコと、華音の後ろに半分くらい身を隠しながらAクラス全体に謝っている。まあ、誰もあの女子を攻めてやることはできないだろう。蓮杜や桜香のようにキモが座りすぎてるやつならともかく、ごくごくふつうの1年生――それも女生徒ならなおのこと、これだけ威圧感の強い生徒会長を前にして逆らえるはずもない。

「光華学園出身だろう? 期待しているぞ、宮寺琳」

「はっ……はぁ」

 琳は比較的、華音との会話も慣れているようにうかがえた。九分九厘そうとは思っていたが、おそらく華音も光華学園出身なんだろう。

「それと……」

 華音は短い――と言っては失礼極まれりなのは承知の上だ――脚を大股に動かしながら、蓮杜のほうへとドカドカと詰め寄った。内に秘めたワイシャツというか胸ぐらというかをめちゃくちゃ強く引っ張って、身長差を埋める。そして、耳元で囁いた。


『〈成績表〉の話――瑠璃と牡丹の名字に関する話は、まだこのクラスに流布するな。わかったか?』

『……なぜです?』

『いま貴様に求められてるのは〈はい〉の2文字だけだ。たがえた場合には死ぬことになる。文字通り、な』

『そんなことが認められるとでも? 俺はもう気づいてますよ。学園側には俺たちにも与えられてない裏ルールを持っている。〈不正〉もそのうちの1つですよね? 殺人がそれに引っかからない保証なんて、どこにあるんで――』

『私はすでに67名の同級生をすでに()()()()()。意味が分からないか? ならば平易に答えよう。()()()()()、と言ったんだ』

「「「「――――!?」」」」

 オレと遊華、それに桜香以外は知る由もないだろう。2人の間で、どれだけ物騒な会話が繰り広げられているのか。

 〈拾の掟〉を見たときから、絶えず疑問に思っていた。意味の分からない掟が1つ、あったからだ。

『お前もまだまだだな、漆花蓮杜。光華の首席がこの程度とは、まったく気が呆れることよ。掟・そのはちが意味するところはある意味で()()()なんだ。お前が私に追いすがれるのは、どうやら夢のまた夢らしい』


 逆説的……か。実に言い得て妙だ。

 掟・その捌が意味するところは、実に単純明快だった。


 それは……


 殺人の、許可だった。


『その捌。生徒は死んではならない。死んだ者には、死んでもらう』

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