28.
「ど……どうしたのかな、蓮杜くん」
「おいおい、とぼけてもらっちゃ困るぜ遊華ちゃん。俺がいま何を聞きたいかなんてとっくにわかってるだろ? 成績の話だ」
「いま公開されたやつのことだよね?」
「ああ。説明してもらうぜ。これは俺のためじゃねぇぞ。クラスみんなのために、だ。周りを見てみろ。全員ドン引きだ。ただでさえ不利な1年生が3年生を押しのけて上位Top3を独占、それも4位の御影華音――生徒会長にさえ圧倒的大差をつけてな。知ってるか? ウチの生徒会長、100年に1度の逸材と謳われてるんだぜ? 17歳にしてノーベル生理学賞・医学賞を受賞した天才中の天才だ。100年に1度? ウソだろ。1000年に1度のまちがいだな。この学園でも当然いままで1位しかとったことないらしいしな。それこそ今のお前らみたいに、1年のときからずっとな」
「へぇ~。そんなにすごい人がいたんだ……この学校に」
「知らなかったのか? 去年めちゃくちゃニュースになってたはずなんだけどな」
「生憎と私たちはニュースは見ません。興味とかないですから」
いやウソつけ。下手すぎるぞ、桜香。
「その割に社会は653点もとるんだな、桜香ちゃん。生徒会長でさえ294点だってのに」
「くっ……もう、そこまで調べあげてたんですか」
「お前たちが凄いのなんて初日のアレをみりゃわかることだ。言い合うつもりなら念入りに準備をしとくのは当然だ」
「蓮杜くんは……何がしたいのかな? 私たちと……ケンカでもしてみたい……のかな?」
「したくはないな。正直勝てる気がしないからな。それはたとえ口ゲンカだろうと、ガチのケンカであろうとだ」
「私たちは女の子だよ?」
「生憎と体育の成績が700点を超える女の子を女の子と呼べるほど俺は脳天気な男じゃなくってな。俺もけっこう自身があったんだが、いいとこ235点どまりだ」
〈成績表〉は過去の成績も公開しているようだった。何年前までさかのぼって閲覧できるのかは知らないが、少なくともオレが事前に見ておいた直近3回の試験では、誰ひとりとして1科目でさえ3割――1000点満点の3割なので、300点である――にとどいてる者はいなかった。それこそ天才と謳われる御影華音でさえ、だ。しかし今回の生徒会長の点数は30,000点中9,000点。合計点において3割を超えている。それだけでも、生徒会長がこれまで相当鍛錬を積んできたことが伺えた。鑑みるに、一般人の閾値《Threshold》はおおよそ3割なのではなかろうか。2割とるだけでも十二分にすごいし、3割を超えてみせた生徒会長はそれこそ、特異点と言って差し支えない。
「俺は試験の間、〈成績表〉を100年さかのぼって解析していた」
「「「――――!?」」」
「お前たち、牡丹遊華に瑠璃桜香だろ? なあ、みんなもおかしいと思わねぇか? 俺が今まで生きてきた中で、こんな名字にお目にかかったことはただの一度もありゃしねぇ。極めつけはアレだ。藤花学園でいまも血気盛んに行われてる〈宝石ゲーム〉。そん中で使われてる〈宝石〉の名前も、〈瑠璃〉に〈牡丹〉だ」
「たしかに……言われてみればそうかも……」
「えっ、つまりどういうこと? もしかして遊華ちゃんと桜香ちゃんは、この学校とグルになってなんか企んでるってこと?」
「いいトコつくじゃねぇか、金木犀。その通りだ。実際に何を企んでるのかまでは、まだわからねぇがな」
「えーっと。ちょっと妄想がたくまし過ぎるんじゃないかな、蓮杜くん。私たちはただの高校1年生。それ以上でも、それ以下でもないよ」
「じゃあこれはどう説明する? 20年おきにこの学園に現れてやがる、それこそ20,000点近くの成績を収めてやがるバケモノの名字が全員――」
「それ以上は――」
「おやおや? なにやら随分と揉めているようだね。どうかしたのかな?」
蓮杜が公にしようとしたその事実は、いま広まるにはあまりに早すぎるものだった。無理やり口を抑えつけてでも阻止するに値するものだった。しかし教室を掌握してみせたのは、オレではなかった。
「生徒会長……」
「蓮杜か。生徒会入りを希望してるんだろ? すでに美桜から聞いてるぞ。せめてクラス内の揉め事くらいは自前で対処できるようになってから来てもらいたいものだな」
「くっ……」
美桜? いったいだれだろうか。
文脈から鑑みるに、現生徒会の3年生の内のだれか。蓮杜が生徒会入りを志望した際に受付を担った人物か。
「ところで……クククッ。もう気づいたのか。大したものだな、今年の1年生は」
御影華音――生徒会長は、その小さな背丈を微塵も感じさせない仁王立ちと腕組みの元、Aクラス教室の天井に目をやった。
「コレに気づいたのは君かね?――瑠璃悠理」
「は?」




