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サイエンスの宝石  作者: はましょ。
壱_慟哭
24/57

23.

「なんで男女でお風呂に入らないんだ?」

「いやいやいや。何言ってるの悠理くん。遊華ちゃんとはきょうだいでもなんでもないんでしょ?」

「そうだが」

「なら入らないしょ、お風呂は」

「確かにお前と入れと言われたら断じてお断りということになるが……オレと遊華は幼馴染だ」

「えっ、怖っ、なにその言い方。今も一緒に入ってるの? まさか」

「家が違うからな。なかなかそういう機会はないが――」

「お前はもう喋るなぁぁぁぁぁ!!!!!」

「ぐはっ」

 今のは【宝石】の力は使っていない、純粋なパワーパンチだった。とはいえ遊華のパンチだ。オレが()()に飛ばされてしまったのも、致し方ないことだった。


 そのときはじめて、藤花学園の全貌を捉えた。


 わかっていたことだが、やはりとてつもなく広い。敷地はものの見事なまでにきっちりとした正方形をなしている。一辺の長さはおおよそ……10キロといったところか。

 すでに夜おそいというのに敷地のあらゆる場所がいまだ明るい。なのに体をひねって夜空を見渡せば、それはそれはもう本当によく星々が光輝いて見えている。地上にいたときより星との距離が近くなったから――というわけでもないはずだ。空気が、粒子が、なにか膨大なエネルギーによって制御されている心地がする。それに伴って不自然に変化した光の屈折率のおかげで、自然現象とは思えないほどの神秘な夜空が創られているのかもしれない。

 このまま重力にただ身をゆだねるだけでは、遊華たちの場所に戻るまでにそこそこ時間がかかってしまう。仕方ない。オレも()()を使うとしよう。


 オレは左腕に巻かれた()()をほどいた。


 下に眠っていたのは【黒曜】……などではない。


 なぜオレと遊華が対称会からこうも嫌われているのか。


 その理由は至極明快だった。



 瑠璃唐草を思わせるあおの石――【瑠璃るり】。



 【黒曜】や【雪柳】のように、光輝くわけではない。


 藤花学園のゲームで使っているような、ツヤツヤとして丸みを帯びているわけでもない。


 それは、まるで今さっき土の奥底から掘り起こされたとでも言わんばかりの鈍い青光せいこうを放っていた。


 ひし形状で、ゴツゴツとしていて、縄文時代にあったとするならそれそのものが武器にさえなりかねない、そんな石だった。


 繰り返そう。


 この世界には飲み込んだ者に力を与える3種の【宝石】がある……はずだった。


 2046年4月15日。それは翻った。



『瑠璃の唄 ろ長調 海《うみ》」



 【瑠璃】が放つ輝きをわずかながら()()()と、同時、右手人差し指を囲う瑠璃色の指輪が()()()()()()()


 そして一度――パチンと指を鳴らしたことで、それは、瞬く間に平面に形を変えた。


 先の遊華と同じ要領で、オレはその壁状結界をキックして降下スピードを最大限に高める。


 このまま着地してしまえば、地面が粉々になるのは避けられない。


 星羅も衝撃に巻き込まれて死んでしまう。



 なのでオレは再度、指を鳴らすことに決めた。



 同時、今度は立方体の足場が形成される。これも、結界の1つだ。着地の圧力で周囲の空気が思いのほか強く、乱れる。


 すでにここからひとっ跳びしても構わない高さまで来ている。が、やはりそれでも星羅にダメージを負わせない保証はどこにもなかったので、仕方なく、何度か段階を踏んでゆっくりと降りて行った。


「あっ。おかえり悠理くん。てっきり二度と生きて帰らないんじゃってどきどきわくわくだったよ」

「わくわくすんな」

「はぁ」

 遊華が深く深くため息をついた。

「なんか喋ってたのか?」

「どうもこうもないよ。悠理がハチャメチャなこと言っちゃうせいで、説明大変だったんだから」

「それは苦労をかけたな」

「タダじゃ許しません」

「肩たたきでいかがでしょう」

「まだ物足りないですね」

「それではアイスを奢りましょう」

「それで手を打ちましょう」

「あのぉ~、イチャつくのは構わないんですけど、せめてお家に帰ってからにしてもらえます? 目に毒なんで」

「えっ……今のもイチャつく判定……それ桜香ちゃんにもよく言われるけどさ、みんな判定厳しすぎない?」

「桜香ちゃん……ってああ、昨日エゲついことしてた女の子か。瑠璃桜香……あれ、もしかして悠理くんの妹?」

「よく気がついたな」

「年子ってこと?」

「どうしてそう思う」

「誕生日ちがかった」

「ああ、なるほど」

 〈生徒名簿〉には誕生日まで記載されていた。ギリ、プライバシーを侵害してる気がしてならないが、この学園に全うな法律を叩きつけることなどできないのは、今さらオブザイヤーというものである。

「星羅ちゃんもふつうに頭いいよね。所作とかも一般人とは思えないほどキレイだし。どこか有名なトコ出身だったりするの?」

「う~ん。別に有名ってことはないかなぁ。多少お母さんは優秀だったような気がしなくもないけど、一般家庭の域を超えることは流石になかったと思うし。そういう遊華ちゃんたちこそどうなの? さっきのアレを見ちゃった時点で聞くのはなんか申し訳ないけどさ、ふつう……ではないんでしょ?」

「……そう、だね」

「でも中学校はふつうの公立だったよね。それこそ遊華ちゃんたちなら〈名門十選〉出身だったとしてもなんらおかしくないと思うんだけど?」

「あれ。確か星羅ちゃん、青華学園のこと知らないんじゃ……」

「アレは方便ってやつだよ」

「そうきましたか」

「星羅。それ以上の詮索はやめてもらいたい。お互いのためだ」

「えー。別にいいじゃーん。さっきのコトはだまっててあげるから……っ!?」


「いま優位なのはお前じゃなくオレだ。分をわきまえろ」


 オレは瞬時に背後に回り込み、深海のごとき青光せいこうを放つ()()()を星羅の喉元にあてがった。


「瑠璃の唄 ハ長調 蒼凪あおなぎ


 ()()()詠唱を繰り返す。せめてものリップサービスだ。


「……へぇ。わざわざ教えてくれるんだ。優しいんだね、悠理くん」

「一応これでも育ちは良い方なんだ。紳士な立ち居振る舞いはわきまえてるつもりなんでな」

「じゃあ私も立場をわきまえることにするよ。調子にのっちゃってごめんね」

「ああ。だがそこまでしゅんとする必要はない。世のなかには、()()()()()()()()()()()()()()()だってある――」

「――ねえ」

 日本刀――蒼凪を解除して指輪に戻そうとしたその矢先、遊華からなにやら不満げな声をかけられた。

「早くそれどかして」

「それ?」

「わかんない? いま星羅ちゃんの腰に巻き付けられてる、あなたの左腕のこと。切り落とすよ?」

 いつの間に詠唱していたのやら、遊華もまた、おもむろに赤く燃え尽きる日本刀を右手に携えていた。

「怖いよ」

「じゃあさっさと星羅ちゃんから離れてっ!!!」

 本気で切りかかってきそうだったので、音速を超える速度で離れた。ついでに遊華の背後に回り込み、刀を持つ右手を優しくなだめながら左の肩をトントンと叩く。

「悪かったって。な? ごめんな?」

「……もう。膝枕もしなきゃゆるさない」

「仰せのままに」

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