22.
『その壱。瑠璃家は他の一族と仔を成してはならない』
『その弐。瑠璃家は同い年の年仔と仔を成ねばならない』
『その参。瑠璃家は同い年の年仔を隔年で三組成さねばならない』
『【拾の掟】は未来永劫、厳粛に保たれなければならない。それは相対する牡丹家でも同じこと。万が一破られたなら、対称会は瞬く間に破滅を余儀なくされるだろう』
生まれたときから絶えず、教育されてきたことだ。
これ以外にもあと7つ、掟は残っている。しかしこの3つを見れば、大まかな内容が理解できるのだ。
【拾の掟】を守ることで、瑠璃家では、近親相姦のみで生命を繋ぐシステムが保たれる。一切の外因子をも組み込まない。たとえそれは、等しく強靭な肉体を誇る牡丹家であろうともだ。そうして初めて、瑠璃家の価値ある肉体が永続的に保存されていく。
――――――はずもない。
一見すると可能だ。このシステムに準じて、一家系のみで子孫を残していくというのは。同い年の年子――要するに、1年間で2人の子どもを産めということだ。これを隔年で3度繰り返す。5年のあいだに6つの【黒曜】が誕生し、そしてさらに年子同士で次の世代を育んでいく。
なぜ年子でなくてならないのか。歳が離れていれば起きてしまうバグでもあるのか。その点も謎と言ってしまえば謎だが、まずツッコむべきポイントはそこではない。
年子が男女1人ずつ生まれる保証などどこにもない、ということだ。もし2人とも男だったら? もし2人とも女だったら? 掟・その弐が果たせない。果たせなかったら対称会は家族もろとも破滅を余儀なくされるらしいのだが。死ねということか?
もう1つ。近親相姦を認めるならば——もはや認めるどころの話ではない気がするのだが——子を望めない人間が生まれたらどうする? 子を成す前に死んでしまったらどうする? 次の世代が残せないではないか。
――――――と、ふつうの一族なら困るはずだった。
瑠璃家、そして牡丹家はなぜか、これらの迷いごとが不要だった。
必ず年子は男女セットで生まれた。
必ず万事、健康体で生まれた。
いったいなぜなのか。もはやそれすらも瑠璃家・牡丹家がもとより有する肉体のおかげなのではないか。そんなふうに都合よく、解釈しなくては始まらない
では1番最初の人間たちは、どうやって――――――
「……?」
「悠理も気がついた?」
「つけられてるな。星羅か」
「そうみたいだね」
足音を聞けばクラスの誰なのか大まかに判定できる。昨日、そして今日という2日間もの時間があればそのくらいはいとも容易かった。数十メートルと離れた木の後ろに身を潜め、隠れた気になっている星羅のほうへ、オレたちはせーので振り向いた。
バレてしまったことに気がついたのか、てへぺろっといったご様子で星羅はぱたぱたと駆けてくる。
「いつからバレてた? 瑠璃悠理くん、だよね?」
「今さっきだな。その言い草だと、ワリと前からつけてたのか?」
「ううん。偶然きみたちを見かけたものだから、つい追いかけてみちゃおーって思ったら一瞬でバレた。ショックだった」
「それはお気の毒だな」
「でしょおー」
「ねえ星羅ちゃん。学生寮はあっちだよ? てっきり、みんなと一緒に帰ってたと思ったんだけど」
「え~。もしかしてなんか疑ってる? 別になぁんにも見てないよ。遊華ちゃんがヤバいくらいジャンプしてるところとか、結界作って壁キックしてるところとか……ね?」
「ガッツリ見られちゃってるじゃん」
「失態だな。遊華」
「うぅぅぅぅ……」
その場でしゃがみこんで、両手で顔を抱え込む遊華。
いくらなんでもなんでもオーバーリアクションが過ぎるのではないか……そんなふうには、正直思えなかった。オレには遊華とはちがってプライドがあるため、そのような情けのない醜態をさらすまいと必死にこらえてスタンディングポジションを保ってたわけではあるのだが、頭の中ではそれはそれはもう、両手で頭を抱え込むどころの騒ぎなどではなかった。地面に寝っ転がって、右往左往に転がり散らかしていた。もちろんあくまで頭の中では……の話である。頭の理性をつかさどる部分では、この窮地をどうやって乗り切ればいいか、そこにフルスロットルで神経を注いでいた。もとより、一般人に見られてもいいのはあくまで素の身体能力だけと散々忠告されている。【宝石】の力は一般人に知られてはならない。
この事態をより一層悪化めいたものにしている事実があった。それは、見られた相手がよりにもよってあの神代星羅だったということだ。いや、別に”あの”とか付けられるほどオレたちはこの女子を知っているわけでもないのだが……如何せん昨日はさんざん菫子をコケにしていたし、蓮杜相手にも一切後れをとることもなかったし、それに誰よりも早く天井の異変に気がついた。てきとうにホラでも吹いてりゃどうにかなる相手ではないことは、もはや火を見るより明らかだった。じゃあ、何を伝えればいいんだろう。潔く【宝石】について説明するべきだろうか? しかし【宝石】の概念まで説明してしまうのはうまくない。遊華は元より超人的な身体能力を持っていて、あろうことか結果術さえ使うことができる――的な感じで丸め込んでしまったほうが手っとりばやいだろう。異例には異例を、ってやつだ。
「星羅」
「んっ? なあに?」
「彼女は忍者の末裔でな。んでもって、オレはその家来。まあ、ボディーガードみたいなものだと思ってくれていい。あるときオレたちがのんびりと、それはもうのんびりと温泉にだぶだぶとつかっていたとき、3000年前から縄張り争いを激しく繰り広げてきた敵軍の奇襲を受けたんだ。そのときオレは全身全霊で彼女をお守りした。けれでも現実は残酷で――」
「いや悠理待って待って。ストップ」
「ん? どうした遊華……グフッ」
遊華はいきなり立ち上がったかと思えば、オレの口を両手で思い切り塞いできた。
そしてギリギリ星羅には聞こえない程度の囁き声で、こそっと耳打ちしてくる。
「ウソ下手すぎるでしょ。もうちょっとなんとかならないわけ?」
「もとはお前の失態が招いたことだろうに」
「くぅぅぅ……それを言われると何も言い返せないぃぃ」
「はは。あははははは。ちょっとなにお二方、超おもろいんですけど」
「「へっ」」
「見た目といい昨日の活躍っぷりといい、あの蓮杜とかいう男とちがってすっごい頭良さそうだからちょっと敬遠してたんだけど……中身はただの高校生って感じ? いやぁー良きですわ良きですわ」
「いや、オレたちは確かに優等生ではあるぞ。勘違いされても困る」
「ならもっとクオリティの高いウソついてよね。ププっ。なんというか……もう全部わかりやすすぎてどっからツッコめばいいかわかんないや。あっ、でもまず1個言いたいかな。男女でお風呂には入らないでしょ」
「えっ」
「「…………えっ?」」




