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サイエンスの宝石  作者: はましょ。
壱_慟哭
21/57

20.

「はいっ。ということで、テストおつかれさまでしたー! パチパチパチ~」

「終わったっつっても……まだ1日目だけどな」

「そういうこと言わないの。何事も気分から入るのが大事なのです」

「それもそうだな……」

 1日目の全日程が終了した。時刻はすでに22時を過ぎていた。オレと遊華は夜風にあたりながら、静かに電灯のともる道路を進んで学生寮を目指していた。昨日も通った道なのに、クラスの連中がいないからか随分と広く感じた。少し遅れて教室を出たため、周りにはもう誰もいない。桜香にも先に帰ってもらった。〈大切な話があるから〉――と。

「どうだった、テスト」

「満点は無理だねぇ。ペーパーテストであの難易度なんでしょ? 明後日から始まる実技なんてもう、死人が出ちゃいそうだよね」

「まちがいない」

 この学園のテストは、はっきり言って地獄よりキツかった。いや、別に地獄がどのくらいキツイのかなんてことはどうでもよくて、いまここで重要だったなのは、そんな突飛な軽口さえたたきたくなるほどに試験が過酷だったということだ。

 まず、そもそもの試験難易度があまりにも高すぎた。オレと遊華には【宝石】がある。生まれたときから左腕にごっそりと埋め込まれていた【宝石】がある。【宝石】は保有者に、並外れた神経活性を付与する。だからオレたちは常人とは比べものにならないほどに卓越した頭脳を持ち合わせていた。この世に解けない問題など、もはやほとんどない。一般人にとっては未解決とされてる問題だろうが、難病指定された病だろうが、解決するなどほとんど造作もなかった。それがフタを開けてみればこれである。解けない問題が、まじでワリとあった。7割前後が関の山。()()()()()()解いたとしても、たぶんそのくらいしかとれなかった。遊華は本気で臨んだらしいが、実際、彼女であってもおおかたその程度に落ち着くことだろう。桜香や竜胆の得点はまちがいなくもっと低いだろうし、【宝石】を持たない人間だったなら……もはや、3割もあれば十分すぎるくらいだった。

 そしてもう1つヤバイ話があった。試験科目、これが30あった。国語、数学、理科、社会、歴史、英語、英会話、保健、体育、美術、音楽、技術、家庭科、情報、事務、金融、政治、医学、プレゼンテーション、倫理学、哲学、心理学、柔道、剣道、プロジェクト実践、戦略思考論、創発思考法、適応学、迅応演習、ファッション。


 ――――は? 

 

 と言った具合である。なんだこれは。人間がもっとも苦しむためにはどうすればいいか教えてやろう評論家でもいるのか。情報、まではよかった。義務教育でもふつうに勉強する科目だっただからだ。事務、くらいからだんだんと雲行きが怪しくなってきた。人生のすべてを仕事に注ぐ社畜でも醸成するつもりなのか。ここはエリートを生み出す学園ではないのか? エリートというのは、社畜のエリートという話だったのか? なるほど、実に日本らしい。戦略思考論、ここらへんからはもはやギャグだった。なんだそれは。日本で1番いらない科目ではないのか。ここ数十年、間もなく本格的に戦争がはじまりそうな気配がどこかしこから伝わってくる。にもかかわらず、いまだに戦争しないことばかりを考えて、肝心の、もし戦争が起きたらどうするかについてはこれっぽっちも考えない。()()()が動くのは、あくまで自分たちにまで損害が及びそうなときだけだ。今までも、そしておそらくこれからも、オレたちが直接この手で戦争を終わらせるような真似をすることは決してない。オレたちは常に中立。たまたま日本に身を置いているだけなのだ。で、なんだったろうか。そうだ。この学園の実力考査があまりにもカオス過ぎるって話だったのだ。さて、1番最後は……ファッション? もはや、ツッコむ真似はすまい。

 1日目と2日目はペーパーテスト、3日目と4日目は実技だった。3日目までの試験時間は7時から22時までだが、4日目だけは18時で終わってくれるらしい。いや、何の救いにもなっていない。

 重要なのは赤点ラインだった。羽那葉うなば――慈共寺の代わりにAクラスの面倒を見てくれると言っていきなりカラフル白衣で参上してきた理科教師がいうには、各教科それぞれについて赤点という概念があるわけではなく、あくまで合計点1本で決めるそうな。1科目1000点満点で、合計30000点。赤点は300点未満ということだったので、1%でももぎとることができれば退学しないらしかった。いやはや、生温すぎるだろ。という考えがよぎらなかったわけではない。しかしそんな考えは、すぐさまゴミ箱に投げ入れた。

「赤点ってさ……何人くらい出ると思う?」

「試験が難しいとは言っても、全部が全部、難しいわけじゃない。解きさえすればそうそう赤点をとることはないだろうが……体力勝負になってくるだろうな。これだけの過密日程。すべての科目を万全な状態で乗り切るのは難しいだろう。今日の時点でも、けっこうな早退者・欠席者がいたみたいだ。ああいう連中はたぶんもう、赤点は回避できないだろうな」

 無論、早退者や欠席者がいたという話は聞いていない。事情が事情だ。他クラスの生徒とはほぼほぼ絶縁関係にあった。何かしゃべろうとした拍子にひょいっ――とスマホを奪われるかもしれない。かといってそれが〈不正〉と見なされるかどうかは、実際に起きてみなければわからない。試してみようとあえて盗まれてやった結果、実のところは〈不正〉でもなんでもありませんでした――なんてことになったら奪われ損である。蓮杜は〈不正〉を見つけ出せれば優位に立ちまわれると言ってたが、同時に相応のリスクも踏むことになることを、理解せねばならなかった。

 ……というのはまあ、いいとして。

 そろそろ()()に移ることにしよう。

「そろそろ()()の話をしないか」

「周りにだれもいないよね」

「ああ」

「んじゃ、お願いします」

「オレの()()は、当たってた……ってことで、いいよな?」

「……うん。そうだね。悠理の考えは……正しかった」



 大切な話をするときは、オレたちの間に約束事がある。


 それは互いの目をちゃんと見て、両手をぎゅっと繋ぐこと。


 その瞬間、前方から鋭い風が巻き起こり、オレたちの身体を襲った。


 日ごろから鍛え上げられた見事な体幹のおかげで姿勢が崩れることはなかった。しかし、彼女のポニーテールをつくるヘアゴムは遠い彼方へと飛んで行ってしまった。


 喋り声しか聞こえてなかった静かな空間は、風の轟音で瞬く間に崩れ去る。


 しかし思いのほか、中心だけは静かだった。


「藤花学園の創設者は、私たちの()()だ」

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