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サイエンスの宝石  作者: はましょ。
壱_慟哭
19/57

18.

「なんというか……思ってたより高くて、つらい」

「なんでだよ!? 勝手に聞いといて勝手に落ち込むなよおい」

「おそらくSPステューデントポイントは単なる頭の良さだけで決まってるわけではないんでしょう。そうでなければ、赤羽あかばさんが優秀な成績を収められるはずもありません」

 まだ学校が始まって2日目だというのに、随分と仲がいいな。そんな風に思った。オレとは大ちがいだ。昨日部屋で集まってワーワーとビデオ通話の邪魔をしていた連中がいたような気がしてならないが、もしやこいつらだったりするのだろうか。

「おい睡蓮すいれん。おまえ、自分が頭いいからってバカをけなしていいってわけじゃないんだぞ。私だってちょっとくらいは傷ついちゃうかもしれないんだかんな」

「いいじゃありませんか。私のSPステューデントポイントは33,000。赤羽さんよりも下なのですから」

「ん~。そこまであっさり言われると、それはそれでなんというか釈然としないんだよなぁ……」

「あら。そんなむつかしい言葉を知っていたのですね」

「だまらっしゃい!」

 ポコスカのポコだけをとりいれたかのような軽いグーパンチを、赤羽というらしき快活女子は睡蓮というらしき文系ティック女子にお見舞いしてやる。

「ですがGP(ゴールポイント)は83,000のようです。別にGP(ゴールポイント)に達したらそれ以上SPはあがらない……なんてこともないのでしょうが、私は赤羽さんを超える勢いで頑張らないといけないようですね」

「おうっ! がんばれよっ!」

「痛っ……。背中を叩かないでください。自分がもっとゴリラなのだと自覚してください」

「てめぇぇ言わせておけばぁぁぁ!!!」 

 と言って、湊赤羽みなとあかば天野睡蓮あまのすいれんめまわす。無論、舌でベロベロと舐めているわけではなく、嘗めまわすようにしてコチョコチョの刑を全身に浴びせてみせた、が正確な説明だ。さっきまで冷静沈着な様子だった睡蓮から、「きゃあっ」とかわいらしい声が漏れ出した。どうして突然フルネームを知っているのかって? 蓮杜はすとの言葉を借りるなら、〈生徒名簿〉ってアプリがあるだろ? てやつだ。

「ちょっとあんたたち、声うるさい! 勉強してる人だっているんだよ?」

「てかそうだよ、金木犀。お前が最初に聞いてきたんじゃねぇか。お前のSPはいったいいくつなんだよ」

「話を勝手に変えるなぁぁぁ!」

「いいじゃねぇかよ別に。今のお前の声量だって十分デカかったぞ」

「くぅぅ……」

「んで、いくつなんだ?」

「……言いたく、ない」

「コチョコチョコチョコチョ~」

「キャァァァ!!! やめてっ、やめてってば! ちょっと睡蓮、あんたまで参加しないでよ!」

「私たち6人のグループの仲を一気に深める好機と判断しました。さっさと白状してください」

「わかったっ――わかったってば! にまんっ!! ……26,000ですぅぅぅ!」

 こちょこちょをなんとしてでもやめさせるべく、銀金木犀しろがねきんもくせいはSPを白状する。いや、ムリやり白状させられる。

  というか金木犀そのものが名前だったのか。しろがねの名字にそんな名前をつけるとは……まったく、親の顔が見てみたいものだな。遊び心が見え透いている。

「なぁんだ。別にそこまで悪くねぇじゃんかよ」

「そうですね。あんまり見せたがらないものですから、てっきり2とかかと」

「いや、流石にバカにしすぎだろそれは」

「うぅ……」

 金木犀は、めちゃくちゃ恥ずかしそうにしていた。両手で真っ赤っかな顔をおもむろに覆い隠している。いや、もちろんここからでは女子S(ジョシーズ)に囲まれて、なにより金木犀自身の手に阻まれてしまってるため、顔色についてはあくまで憶測の域を出ないが、まあ、たぶん当たっているだろう。

「そもそもSPステューデントポイントが悪かったらAクラスにいねぇだろ。このクラスにいる時点でお前は学年トップクラスだって認められてるようなもんなんだ。もっと自信持てよ」

「赤羽にだけは言われたくない。このクソムキムキ筋肉ゴリラぁぁぁぁぁ」

「てめぇぇぇ! 慰めてやったのに、何て言い草だぁ!!」

「――なんだお前ら、随分とにぎやかだな。SPの話か?」

「あっ、蓮杜くん達じゃん。やっほ」

 返事をしたのは、ここまで3人のやりとりを比較的おとなしく聞いていた菫子だった。一方、その女子グループに臆することもなく悠々と手を振っていたのは2人の男だった。蓮杜ともう1人、宮寺琳みやじりんという男だった。金髪なのは、蓮杜と同じ。チャラついてるところも相違ない。だが、支配・お金・大人な世界を全身に漂わせる蓮杜とはちがって、宮寺琳からは高校生にふさわしいオーラが感じとれた。サッカー部のエースでもしてそうな具合だった。

「ねぇねぇ、蓮杜くん、SPめちゃくちゃ高そうじゃない? なんたってあの光華学園出身なんでしょ? 菫子、ちょっと聞いてみてよ」

「えっ……でもいきなりそれは……さすがに失礼じゃない?」

「なんだ。俺のSPが気になるのか? 別に教えてやってもいいぜ。ほらよ」

 そう言うと、蓮杜はまったくためらうことなく手にもっていたスマホを菫子に差し出す。議論するまでもなく解釈ド一致な行動だ。「あっ、ありがとう……」と少しだけ遠慮がちに受けとった菫子は、6人の女子全員に見えるよう、机の真ん中に置いた。


「「「――――――まじ!?」」」


 ハモッた。これ以上ないくらいに、きれいにハモッた。1つだけ少しずれた声が聞こえた。その人だけは「まじ」と言った後に続けて「ですか」を付け加えていた。トータルして、「まじですか」と言っていた。天野睡蓮である。

 しかし困ったな……。もしかしたら誰かがこっちにも聞こえるくらいの――それこそ赤羽あたりがバカデカい声で蓮杜のSPを漏らしてくれるんじゃないかと踏んでいたんだが……核心的なことは、誰ひとりとしてつぶやいてくれない。「やばくない?」だとか「天才ってこういうことか」だとか、「光華学園ってレべチなんだね」みたいな、フワフワとしたことしか言ってくれなかった。なんだかんだでAクラスにいる者たちだから、やはり一味も二味も、ふつうの人とはちがうんだろう。処世術がきちんと成っていることの表れだった。オレにも見せてくれないか? なんてことでも言って見たいのは山々なのだが、今のところ、沈黙すること林のごとしなオレにそんなムーブメントが許されるはずもない。別に蓮杜のSPどうこうというのは必ずしも必要な情報というわけでもないのだが、もし知ることができれば、藤花学園がどういう目的で運営されているのか掴めるかもしれない。さて……では、どうしたものか……

「兄さま。何をそんなに悩んでるのですか。遊華さんにでも頼めみたらいいのでは?」

「ん? どうしたの、悠理。 ああ、そういうことか。聞いてきてあげるね」

「お願いします……」

 ペコリと会釈しておいた。やはり彼女たちは、頭が良すぎて助かる。

 遊華は昨日、蓮杜にも認められている。彼女であれば、まずまちがいなく聞き出してくれるに違いない。

 


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