15.
2062年4月9日。
オレたちが学校に到着したのは比較的あとのほうだった。
別に寝坊したわけじゃない。ただ、いろいろと話し合いが必要だっただけだ。
今日からの4日間はテスト期間。生徒たちはみんな静かに腰を下ろし、黙々と自主学習に励んでいた……はずもなかった。
クラスの〈牡丹〉が、盗まれた。
幸いだったのは、盗まれたのが教卓の1つだけだったこと。
複数のバッグを持っていた生徒たちのおかげでロッカーに隠ぺいすることのできた〈牡丹〉は、どうやら、盗まれずに済んだらしい。
いま、教卓の上にはAクラスの連中がこぞってたむろしていた。その上にたたずんで輝きを放っていたのは、紅く煌めく4つのかぼちゃ大〈牡丹〉――だけではなかった。
〈瑠璃〉とはどうやら、これのことらしい。
夕凪が止んで、星がぽつんぽつんと見え始めたころの澄んだ夜。
そんな美しい光景を思わせる蒼色の光を、これでもかとばかりに放っている。
ビー玉大からかぼちゃ大にいたるまで、大小さまざま存在していた。
昨日は結局、学園を散策するのはやめにして、みんなで一緒に帰ろうという話になった。言わずもがな、危険だからだった。確かにAクラスの〈牡丹〉は絶対安全な教室内。仮に下校する最中に盗人が現れようと、生憎と盗まれる財産を持ち合わせていない。しかし如何せん、物騒な学園だ。〈拾の掟〉に触発された幾人かが、物騒な思想で襲ってこないとも限らない。西暦2062年。すでに都市開発は終焉を迎えつつあった……はずだった。藤花学園は、そんなのは戯言だとでも言わんばかりの発達を遂げていた。十年、ともすれば数百年、先を行っていた。下界の人間がそれを見て、探検したくないはずがなかった。23人もいたのなら、だれか1人くらいはクラスの輪から外れても仕方がない。そう思っていた。けれどもチームワークをかき乱すような人間は、このクラスにはいなかった。一致団結の証明だった。
住宅街にたどりついた。学生寮は、超がつくほどの富裕層がゴロゴロと住んでそうな風貌だった。もはや100つ星ホテルだった。先日、学園宛てに郵送しておいたスーツケースは自分の部屋に届いていた。どうやってここまで運んできたのか、それについては考えないようにした。キリがないからだった。速やかに部屋を整理して、一刻も早く、明日から忙しくなるだろう学園生活のための準備を整える。ひと通り終われば、お茶でも入れるなり買ってきたポテチの袋を開けるなりして優雅なひとときを過ごそう。
――そんなふうに、思っていた。しかしスマホを開けてみればこれである。
クラスチャットは大がつくほどの賑わいだった。賑わいというのは語弊を生むだろうか。兎にも角にも、大騒ぎなのは間違いなかった。ビデオ通話さえ始まった。誰かの部屋にお邪魔して参加する者もいたものだから、大勢が内在する画面も見受けられた。もはやそれ、わざわざ電話する必要もないのでは? なんてツッコミが、どこからかともなく出てきてもおかしくない具合だった。
騒ぎを生んだのはこうだった。どういうわけか、Aの順位が突如として最下位に沈んだ。Aだけが1位、残り全クラスは同率最下位という状況から、あるクラスを除いた全クラスが同率最下位という状況に陥った。
もしやAクラスのだれかが下校する最中に途中ではぐれて、スパイ活動でもしでかしたのか。そんな風に考えた男どもがいたせいで、学生寮の内部で点呼までもが行われた。慌てて女子の部屋に押しかけた男子が、どうやら盛大にけちょんけちょんにされたらしかった。
クエスチョンだった。教室内は安全だったはずでは? そんな疑問をただただ互いにぶつけ合うようなチャットのやり取りだけで、たぶん100件くらいあったと思う。
まもなく、カラクリが公のものとなった。学園側から送られてきた1通のメールだった。
『G7クラスのとある3人が、天井を突き破ってAクラス教室に侵入した。彼らは〈牡丹〉を盗んだが、〈不正〉により処罰対象となる。まもなく〈牡丹〉はAに返還される。〈ランキング〉を見て確認しておくように。天井もたった今、修復が完了した。なお、3人の生徒には罰として、死刑宣告を執り行うこととする」
クラスチャットの議論は、これを機により一層、激化した。もはやテスト勉強どころではなかった。あまりに通知音がうるさいものだから、無慈悲にもオフにさせていただいた。そしてオレと遊華は速やかに、寮をあとにした。




