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サイエンスの宝石  作者: はましょ。
壱_慟哭
15/57

14.

「あんた……まじでぶっ飛んでやがるな」

 最初にコメントしたのは蓮杜だった。遊華に圧倒されて久しく言葉を発してなかった彼ではあるが、もはやこの次元にくると、苦笑いするしかなかったんだろう。

「やばい? 遊華さんの言っていた仮説は、Aクラスの作戦の核となり得る重要な論理です。これが正しいと証明できたなら、今回のみならず今後もさまざまな局面で同じように学園の意図を読み解くことができるでしょう。全く同じロジックになるとは限りませんが、ベクトルは同じになるはず。この学園が私たちに求めることは何なのか。真理に近づけば近づくほど、有利に立ち回れるのは疑いようもありません。ならば手段を選ばない余地などあるはずもない。どうやって確かめるかって? そりゃあもう、買収でも色仕掛けでもなんでもかまして他クラスから1人ぼったくってくるのが手っとり早いでしょう。というか、それ以外の合理的手法が思いつきません」

「……ま、まあ。そうだな、うん。今後も期待させてもらうぜ」

 唖然というかドン引きというか、そんな類の周りの視線には一切合切焦点を当てることもなく、桜香は元居た場所に落ち着いた。かなりの大活躍だったはずなのに、なんというか、すでに浮いている。やはり瑠璃家の人間だなぁと、我ながら思ってならない。

 そのとき、パチンと両手を打ち鳴らした人間がいた。遊華だった。

「まっ……まあ。なにはともあれ、これで一件落着だよね!」

 なんにも一件落着じゃない気がしてならないが、とりあえず水に流しておく。

 遊華が会話を求めて視線を投げた先には、リーダーの蓮杜がいた。

「ああ。じゃあ、〈宝石〉はここに置いておく……ってことでいいんだな?」

 〈ここ〉とは言うまでもなく教卓のことだ。そこに〈宝石〉を置いて帰れば、教室にはロックがかかる。それが証明された今、わざわざ〈宝石〉を持ち帰る必要はないわけだ。

 しかし……

「ううん。それはちょっとちがうかな」

「……なに?」

1()()()()置いてく。それでトビラのロックには十分でしょ? わざわざ一獲千金のチャンスを与える必要はないもの」

 おっしゃる通りだろう。もっといえば、Aクラスのもつ〈宝石〉ポイントは他クラスと比べても抜きんでている可能性が高い。さっき、まだどのクラスも〈宝石〉を教室外に持ち出していなかったとき、蓮杜が1つ手にとって、一瞬だけうちのポイントが4億になった瞬間があった。……が、それでもAクラスは首位から陥落しなかった。それが指し示す内容はシンプル。2位たるBクラスとの間にさえ、少なく見積もってもおおよそ1億の差があるということだ。

「なるほどな……。残る4つはどうするつもりだ?」

「家に持ち帰るのはやめたほうがいいだろうね。結局、この教室が1番安全なんだもの。教卓に1つ置いてあれば、それがブラフになって他の場所への意識も薄れるはず。たとえば……そうだね、後ろのロッカーとかに隠しておくのがいいかも。バッグとかの中にしまっておいてさ。Aクラスは23人しかいないから、けっこう空きがあるよね。みんながそれぞれいくつも使うことにして、すべてのロッカーに荷物が置いてある状態にしておけば、仮にロッカーに〈宝石〉を隠してるってバレてたとしても見つけるのには相応の時間がかかる。時間稼ぎとしては十分だと思うよ」

 ロッカーというのは、なにも服を縦にかけられるような豪勢な類ではない。小学校にありがちなら、いわゆるランドセルロッカー。格子状をなしているタイプだ。しかし一面構成というわけではないらしい。奥にも2、3列、ロッカーが続いていた。優に100人分はあるだろう。

「あんた……本当にすごいな。頭どうなってやがるんだ? それとそっちの女の子――桜香、って言ったか? まじでいったい何者なんだ。ふつうに生きてたら到底思いつかねぇような発想を、ことごとく出してきやがる。もちろん褒めてるんだぜ? でもまあ、少しはムカついてくるだろ」

「あはは……。まあ、シンプルに今回は調子がよかったってことで……」

 ここにきてなんの説得力の欠片もない弁明をする遊華だったが、蓮杜相手には、効果絶大だったようだ。()()()()()()()()()。そんな警鐘を肌で感じとってくれたなら、ありがたい。

「じゃあみんな、とりあえずここいらでお開きとしようか。長い間つきあってくれてありがとう。なんというか、大変な学園生活になるとは思うが、せめてもの救いはあるわけだ――卒業祝儀。物騒な掟にとらわれすぎて気づいてすらなかったかもしんねぇが、もしこれが本当なら、がんばる価値はあるだろ? だからがんばろうぜ。ぜったい、23人で卒業しよう!」

「「「おーーー!!!」」」

 初めて、藤花学園1年Aクラスが一致団結した瞬間だった。まだ互いに顔を合わせてものの数十分しか経っていないというのに、すでに何年も衣食住をともにしたかのような具合だった。通説によると極限の緊張感は、体感時間をも極限にするという。およそ数週間が経過したといっても過言でないほどに、この数十分間、生徒たちはみな、張り詰めた空気を絶えず飲み込み続けた。高々15年の歳月しか経てない若人にとって、それがどれほどまでに精神的苦痛になっていたのかは想像にも難くない。けれども、脱却した。少なくとも1日目は、ポジティブなエンディングを迎えることができた。明日からの4日間は――テスト、テスト、テスト、テスト。それでもこのクラスなら、互いが手をとり合うことできっと、どんな壁でも乗り越えられる。そんな希望を胸にして、オレたちAクラスは教室を後にした。

 そして、数時間後…………



 Aクラスのトビラは、破られた。



 ()()は、〈牡丹〉を速やかに回収した。



 Aクラスはたちまち、最下位と化した。

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