13.
後ろには、桜香のハンカチで目隠しされた男が1人。他クラスの生徒だろう。
「今から私の言うことを忠実に守ってください。わかりましたか?」
「……はっ、はいぃぃ!!」
男のテンションがやけに高い。ふつう、突然他人のハンカチを顔に巻きつけられたらイヤだと思うんだが……そうではない、ということは……
少し、冷や汗をかいた。
桜香は目くばせした。その意味をすぐに察せた蓮杜は、教卓にあった〈宝石〉をすべて取り払った。そしてそのすべてを、菫子の机の上へ。
一時的に、Aの順位も同率最下位となった。
「いま、あなたの目の前にはトビラがあります。開けてみてください」
恐る恐るといった具合に、男は手を差し向けた。
ふつうに開いた。
「ありがとうございます。では、外に行きましょうか」
2人は教室を後にした。一応、〈外から内〉の場合も確認するつもりなんだろう。
数秒後。
ふつうに開いた。
男と桜香は再度、教室の中へと戻ってくる。
桜香はトビラを閉めながら、再び蓮杜に目くばせをしてみせた。
〈宝石〉はすべて、教卓の上に戻った。
「ではもう一度、開けてみてください」
ここからが本題だ。
遊華の読みが正しければ、教卓上に〈宝石〉が置かれてあるこの状況なら、トビラは開かない。
またも恐る恐るといった具合に、男はトビラに手を差し向けた。
「……!?」
「「「――!!!???」」」
驚きの波は、二重に巻き起こった。
1つ目は、トビラを開こうとした男によるものだった。2つ目は、Aクラス生徒たちによるものだった。
理由については、言うまでもなかった。
扉が――――開かない。
見たところ彼は、自分の体重をしっかり乗せて開けようとしている。
それでも、トビラはピクリともしなかった。
遊華の読みの1つは、正しかったということだ。
もう1つ、確認するべきことがある。
「いったん扉から手を放してもらえますか? 次にあなたには、このトビラを通過してもらいます。開いてないじゃないかって? いいえ。私がいま空けましたのでご安心を」
教卓上に〈宝石〉が置いてあれば他クラスの生徒はトビラを開けることができず、Aクラス生徒だけが開けられるという事実は今の一連の流れから確認された。まだ〈外から内〉のパターンを試していないわけだが、おそらくはその場合でも同じことが起きるだろうと想定するのには十分だった。しかしそれでも、Aクラス生徒が入室している間を狙って無理やり侵入することができないとまでは言い切れない。そのことについても、検証する必要があった。
首をかしげながらも、男は大股でトビラに歩み始めた。
桜香が開けてくれたらしき、くぐれるはずのその門を。
ビリビリビリッ――――!!!!
「があああぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!」
突如、男は床に崩れ落ちた。膝からではない。背中からだった。
理由は明白だった。門の、そこには決して空気以外の何物もあるはずがない、そんな空間から脱兎のごとく姿を現した、雷撃。
青白く煌々と光を放つそれは、1秒と待たずして男の全身を襲った。
見たところ男に外傷はない。電圧自体はそこまで高くないのだろう。
そんな哀れな男に桜香は一瞥もくれてやることもなく、まるで自分は襲われないと確信しているかのように堂々と、通過を試みた。
通れた。
遊華の読みは、すべて正しかった。
「さあ、立ってください。次です」
先ほどと同じように、今度は〈外から内〉のパターンを試す桜香だった。
トビラは開かれた。桜香が開けたらしい。
そして次の瞬間、教室の外から空気を裂くがごとく耳に届いた、阿鼻叫喚。
一切合切無視して、桜香はトビラをくぐりぬける。
今回も、桜香は雷撃の威力を受けなかった。
廊下の先にいるらしき彼に対して、見下ろす形でこう言った。
「協力してくれてありがとうございました。もう、帰ってくれて構いませんよ。お金と写真についてはすでにお振込み済みです。あぁ。それと、いま起きた一連の流れはくれぐれもご内密に。約束を違えた場合は……わかりますね?」
男の様子は、ここからじゃ見えない。図らずもゲッツできたお金と写真とやらに満足して喜びの表情を浮かべているのだろうか。それとも、およそ人間の所業とは思えない仕打ちをとつぜん浴びせられて、あくまでも見るような顔でも浮かべているのだろうか。
しかしやはり桜香は男のことなど甚だ興味が内容で、静かにトビラを閉めて、肩をすくめて、ひとこと。
「とまあ。こんな具合です」
「「「…………」」」
一同、沈黙の瞬間だった。
桜香に感謝するべきなのは疑いようもない。遊華の仮説が確かなものとなり、他クラスを大きく引き離すだけのアドバンテージを得ることができたのだから。
しかしなんというか……男を連れてきて、従わせて、なんかやばそうな契約を結んでなんか強引にいろいろとやってのけたというのが……まさか、まさかこうも清楚な少女から行われたとは思えないわけなのだ。〈半ば〉どころか〈全力で〉困惑気味なクラスメイトを、捉えることに成功した。




