11.
「〈ランキング〉がリアルタイムで更新されるシステム。もし〈宝石〉を学生寮に持ち帰って保管するのがセオリーなんだとしたら、これおかしいんだよね。教室内にある〈宝石〉だけがクラスポイントに換算されると仮定して、どのクラスも盗まれるのを恐れてお家に持ち帰っちゃったなら、〈ランキング〉は常に全クラス同率最下位を示す。そうなることが鼻からわかってるんだったら、わざわざリアルタイムで更新する必要なんてないよね? それに、私たちも私たちで毎日〈宝石ゲーム〉に参加する必要もないってことになる。だってAクラスは1位なんだもん。消滅クラスが決定する月末付近だけ、奪われないように気をつけるだけで簡単にクリアできちゃう。それって、楽しいかな? ゲームを謳うにしては……なんというか、あまりにもつまらなすぎない?」
「……理屈はわかる。だけど他にどうすることもできないだろ。それともなにか? お前の言う考えってので、絶対に他クラスから盗まれないようにすることができるとでも?」
「できるよ……と、言いたいところだけど、絶対といえる保証はないね。でも断言できることはある。少なくとも……そのことに気づけてない他クラスよりかは、格段に有利にゲームを運べると思うよ」
「……なんだ。言ってみろ」
思ってたよりけっこうたくさんヒントを出してやるものだな……。そう思ったのはきっとオレだけではなく、少なくとも桜香は同じように思っただろう。瑠璃家と牡丹家はなにがいちばんちがうのかと聞かれたら、まずまちがいなく献身性の有無にある。多寡ではない、有無だ。瑠璃家にはそういった概念がおよそ存在していない。一方で、牡丹家では幼いころから他者に尽くすよう叩き込まれる。のは頭の中で理解しているつもりだったんだが……いくらなんでも助けてやり過ぎなんじゃないかと何度か目くばせしてみたものの、横目スレスレで捉えた遊華は手話で『問題ないよ』と返してくるばかりだった。
「廊下にはけっこう人がいるみたいだね。今ごろはどのクラスも下校ラッシュかな」
廊下からは教室の内部を覗けない仕組みになっている。無論、教室から廊下を覗くことも叶わないわけではあるものの、しかしさすがに防音機能まではついていないようだったので、雑談らしきガヤガヤ音がよく聞こえてきていた。当然、こちらも大声でしゃべればあちらに伝わってしまいことになる。
遊華は、声を半音低くした。
耳元で囁くがごとく、しかしながら、確実にクラスメイト全員に聞こえる絶妙なテンションで、それを物語った。
「教卓に〈宝石〉が乗ってるときだけは、他の生徒は教室のトビラを開けることができない」
「「「…………」」」
だれかが息をのんだ音が聞こえてきた。
アニメや漫画でそんな描写がされることが、ときたまある。
聞こえるわけがなかろう。そんなふうに、思ってやまなかった。
どうやらそれは、まちがいだったらしい。
漆花蓮杜は、ただただ目を見開くばかりだった。
そして数秒のラグを伴って、自分が言葉を失っていたことに気がついた。
ハッとした。
そんな一連の動作が、流れるように汲みとれた。
「――のではないかなっ!」
「……根拠は?」
「すべてのつじつまが合うから。それだけのことだよ。ほとんどのクラスは最初、〈宝石〉を持ち帰ってお家で保管しようと考える。それが1番安全だと思うから。でも、あるクラスがこのことに気がつけば、たちまち情勢は大きく変わる。だってわざわざ〈宝石〉を家に持ち帰らなくたっていいんだもん。月末も争うこともなく安心して登校することができる。もちろん開け閉めするときだけは十分気をつけなきゃだけれども……たぶん、それも対策されてるんじゃないのかな。たとえば、『その教室に在籍する人がトビラを開けているあいだ、他クラスの生徒は侵入できないようにバリアが張られてしまう』的なやつ? そしていま私の言った内容が正しかったと仮定する。当然、時間が経てば他クラスもだんだんとそのことに気づいてくことになるよね。いずれどのクラスも、〈宝石〉を教卓に置いてトビラにロックをかけるようになる。たぶんここで初めて、本当の意味でゲームスタートになるんじゃないのかな。教室内の〈宝石〉はそれこそ、基本的には奪うことができない。だからどこかで手に入れる必要がある。それはどこか道端に落ちてるのかもしれないし、なにかしらの〈報酬〉って形でもらえるのかもしれない。〈報酬〉の場合はともかくとして、道端に落ちてるような〈宝石〉はどこのクラスのものでもないから奪いあいになる。いち早く見つけた上で、他クラスには見つからないように気をつける。これってすっごくチームワークが求められるよね。藤花学園の入学試験を思い出してみて? 理念がわかりやすくテストに出てたと思わない? 藤花学園は〈心身ともに強力で、発想が豊かで、心理戦に長けていて、それでいてチームワークを大切にする〉ことをもの凄く意識してる気がするの。明日から始まる実力考査を〈基礎〉とするなら、〈宝石〉ゲームは〈応用〉。そんな位置づけに、なってたりするんじゃないかって思うんだ」




