10.
かぼちゃ大の〈牡丹〉5つでおおよそ5億の〈宝石〉ポイント。菫子の計算通り、1つあたま1億ポイントの価値がある計算だ。メリットはいうまでもない。大量のポイントを保有することができる。しかしそれと同じくらいのデメリットもあった。首位にいるから自分は大丈夫、そんな安堵を抱きたくなる気持ちもわからなくはないが、甚だまちがいだった。
一発大逆転の可能性。
「私たちは一気に数億って持ってかれるかもしれないわけじゃん? ポイントが多いクラスほど、盗まれたときの代償も大きいってことなんじゃないの?」
「菫子ちゃんがワリとまともなこと言っててウケる」
「はぁぁぁぁぁ!? さっきから私のこと無能無能みたいな感じで言ってくれるけどね、私だって一応、青華学園出身なんだからっ! 見くびらないでよね!?」
「なにその学校わかんなぁ~い。菫子ちゃんみたいなドジっ子ばっかりいるトコなのかなぁ?」
「キィィィィィ」
ハンカチにかじりつくみたいな金切り声をあげだす菫子。
教室が混沌になりかけたところで、蓮杜によって静止がかかる。
「おい星羅、いちいち喧嘩をふっかけるな。今のはふつうに菫子のファインプレーだろうが」
「そんなこと言ったってなぁ。私だって気づいてたし。逆に蓮杜くんは気づいてなかったのぉ?」
「……」
蓮杜はアンサーすることなくクラスに向き直った。気づけなかったのか、気づいていたけれども菫子を慮ってあえて答えなかったのか、これについてはおおよそ半々くらいに伺えた。おもむろにため息をついて、〈つまんないの~〉と身体で表現した星羅だった。
「話を戻す。菫子ちゃんの言う通りだ。もし、自分はAクラスだから安心だ……なんて甘い考えを持ってるやつがいるなら、すぐに考えを改めることだ。俺たちの〈牡丹〉は、たった5つで5億ポイント。言い換えれば、下位クラスにとっちゃあ格好の餌食だってことだ。5つ盗むだけでトップに躍り出られるんだからな。場合によっちゃあ、明日にはAとG7の位置が逆転するかもしれない。だからこそ、スマホも、〈宝石〉も、絶対に盗まれるわけにはいかねえ」
「そんなこと言ったってなぁ。どうやって盗まれないようにするんだ、そんなバカみたいにデカい上に重そうなやつ。家に持って帰るにしても鞄に入らなそうじゃねぇか?」
「……それなんだよな」
蓮杜がすぐに回答できなかったのも無理はない。節々に散りばめられたヒントだけでは、この手の解決には及ばない。ほんの少しの憶測を、織り交ぜてやる必要がある。
盗まれない方法は、ある。オレはそう確信していた。〈攻め〉の手段だけでなく、〈守り〉の手段も用意されていなければならない。そうでなければ、このゲームは単なる殺し合いになってしまう。頭脳は必要ない。肉体にアドバンテージを持つクラスが勝つことになる。それでは、何の成長も見いだせない。
クラス丸ごと消滅するのは、あくまでその月の最終日。具体的に何時何分に月のランキングを確定するつもりなのかは知らないが、そんなことは先輩に聞けばわかること。学年ごとにランダムになってる可能性も否定はできないが……流石にそれはやりすぎだろう。いずれにせよ、何時何分何秒というリミットを迎えたその瞬間、ある条件を満たした〈宝石〉だけがクラスのポイントとして反映されるのは間違いない。
ではその、〈ある条件〉とはなんなのか。いま、蓮杜の手は〈宝石〉に少したりとも触れていない。そしてAクラスのポイントは相も変わらず5億のままだ。よって〈宝石〉に触れることは、ポイント反映の条件にはならない。他クラスの生徒がオレたちの保有するその〈宝石〉に手をかけようと、きっとそれだけで盗まれたことにはならないだろう。では〈盗む〉とは何なのか。自クラスの教室内に運ぶことで、所有権がそのクラスに移るのだろうか。
ここまで考えたなら、話は早い。今、オレたちが確認するべきことは――
「ちょっと、いいかな?」
遊華が手を挙げた。
「……なんだ?」
「今って行き詰ってるってやつ……であってるかな? ひとつ確認したいことがあるんだけど、いいかな?」
「……言ってみろ」
「〈牡丹〉ってさ、……私の苗字も牡丹だから、なんかちょっと照れちゃうね。〈宝石〉って呼ばせてもらうよ。〈宝石〉ってさ、何をされたら盗まれた判定になるのかな? もっとわかりやすく言うと、何をされたら私たちのポイントは剥奪されることになるのかな?」
「そりゃあ、この教室の外に持ち出されたら――なんじゃないのか?」
「でもそれってさ、なんというか変じゃない? だってさ、教室の中にある〈宝石〉だけがポイントとしてカウントされるんだとしたら、家に持ち帰って保管するクラスは等しく0ポイントになっちゃうってことだよね。 じゃあ……このアプリが、わざわざリアルタイムでクラス順位をモニターしてるのはなんでだろう。ほらっ。たった今、D4クラスも最下位になった。これで〈宝石〉をお家に持ち帰ることに決めたクラスは5つ目だね」
〈ランキング〉を見てみると、確かに5つのクラスが同率最下位に沈んでいた。もともと同率のクラスが1つもなかったことを鑑みるに、5つも同率になる可能性はほぼ0とみていい。”最下位”という事実も踏まえれば、5つのクラスが〈宝石〉を教室の外に持ち出したことは想像に難くない。それが意味するところは、十中八九、家に持ち帰って保管する方針を定めたということだ。
「確かにそうだが……だからなんだっていうんだ? お前はいったい何を言いたい」




