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8話 傷負いの賢者

ミセフの民――白く、ずんぐりとした体をしたお方。


近くで見ると生々しい質感で毛皮を被った人のよう、

されど、本当に衣を着ているのか疑わしい。

背は私より小さく可愛らしいが、

どこか肥えた貴族のような風格があった。


目つきも、仕草も、品位に満ちている。


――きっと、高貴な出なのでしょう。


「この身、姫君の従者。

 クオンと申すにて……そうろう、ばい」


宙に浮いたまま、クオンが名乗る。

語尾を付けているせいか違和感を覚えた。


見知らぬものにクオン自ら名乗るなど、

――どこか彼女らしくない。

いつもなら口を開かず、まず睨めつけるのだ。


「あ、はぁ……これは、どうも」

ミセフの民は、なぜか困惑していた。

こちらが何か失礼をしたのだろうか。


ジゲンが空に浮かびながら、低く呟く。


「――言葉が通じるのですね。

 異世界の民というのですから、

 知らぬ言葉を喋るのかと思っていました……ばい」


言葉が通じるということは、

文化も私たちと似ているのかもしれない。


「……。

 お前たちは、語尾に“ばい”を付けるのをやめろ」


「お師匠様。彼をご存じで?」


「……。

 俺はミセフの民ではないが――

 ここは、何度も訪れた地だ」


(この……ムーの谷に、セイメイ様が?)


フレハラウ様が問う。


「その胸の竜門!おぬしは、もしや――」


お師匠様は指を一本立て、

自らの口を塞いだ。


すると、ミセフの民も同時に口を閉ざす。

――まるで、呪文のような沈黙だった。


「お初に目にかかります。

 よもや、賢者と呼ばれる、あなたがこのような街におられようとは。

 ――フレハラウ様」


それは、

お師匠様が発したとは思えないほど、

丁寧な声音だった。


「賢者など、よしてくれ。

 今は、ただのしがない教師でしかない」


「教師?

 冒険者を引退されたのですか」


フレハラウ様は、

腫れた右手の指を静かに掲げた。


「この指では……

 もはや、弓を引くこともできんばい」


その言葉に、ジゲンが反応する。


「ほう?

 あなたは、弓使いだったのですか」


「そうです」


宙を漂いながら、ジゲンは問う。


「セイメイ様。

 この方は――当時、

 どれほどの腕前だったのでしょう?」


「この世で、最も偉大な弓師だったと聞き及んでいる」


「……その指を、

 少し見せていただいても?」


ジゲンの声音が変わった。

いつもの飄々とした雰囲気は消え、

真剣そのものだ。


フレハラウ様が手を差し出すと、

ジゲンの浮力が消え、地に足を下ろす。


それを無言で、観察する。


獲物を狙うような鋭い眼差しで、

指、手首、肘、肩――

身体のあらゆる部位を見ていく。


――まるで、透視しているかのようだった。


「非常に興味深い。

 形は違えど、構造は人間と大差ありません」


「そうなのか」


ジゲンは、淡々と告げる。


「私なら――彼を

 治せるやもしれません」

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