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7話 円環の底で

雲が近い。

地平線が、遥か果てまで広がっていた。


その崖の頂で、お師匠様が告げる。


「あれがムーの谷だ」


「谷……?

 ここは、崖の上では……?」


雲の向こうに、山を三つ重ねたような峰。

そのさらに先まで、世界が続いている。


「見る場所が違います、姫様」


崖を覗き込んだクオンが、言葉を失った。


ルカの背から身を乗り出す。

遥か下、豆粒ほどの影――昨日居た滝壺の平地よりも遥かに低い。


円環を描く崖の内側に、集落が抱かれている。

だが、ここからでは、人の営みは砂粒ほどにしか見えなかった。


「さぁ、降りるぞ」


お師匠様が言い終わると、

心の準備をする暇もなく、ルカは跳んだ。


眼下には足場が無く、遥か下まで落ちて行く。


「きゃあああああああああああ!!!」


私の悲鳴が空に散る。

ルカは楽しげに身を弾ませ、

段を下るように軽やかに下降していった。


幾度か叫んだのち、私たちは平地へ降り立った。

全身が軋む。


クオンですら震えている。

――彼女から「きゃあ」という悲鳴を聞いたのは、初めてだった。


「楽しかったね――っ!」


ルカが興奮した様子で囁く。

先ほどまで可愛らしいと思っていた姿は消え、

その声は、悪夢のように耳へ残った。


やがて、崖の窪みに

三日月の形をした巨大な集落が現れる。


「……死ぬかと思いました。

 こんな場所に――人が?」


「それに日差しはほとんど入ってこないのに、

 ここはとても明るいのですね」


「理が違う。

 何もおかしいことではない」


風は穏やか。

見上げれば、空の果てにぽっかりと穴が開いている。


剣を下げた者たちが、笑いながら歩いていた。


「あれは兵ですか?」


「冒険者――旅人だ」


「……百余りの旅人が、こんなにもいるのですか?」


「姫君、これまでの物差しで量る必要はない。

 この世では、見たままを受け入れよ」


「……わかりました」


その時、奇妙な存在が視界を横切る。

白く、丸く、ずんぐりした体。

人のように振る舞い、日常を生きている。


「ミセフの民だ」


胸を撫で下ろし、クオンを見る。


――いない。


ジゲンも、ルカも。


「……え?」


「姫、こちらです」


声の方を見ると、

クオンとジゲン、小さくなったルカが空に浮いていた。


「なぜ浮いているのですか?」


そう問うと、すぐにクオンから答えは返った。


「我らにも分かりません」


その時、すぐ近くに影が降り立つ。


帽子を被り、

顔の前に透明な枠を置いたような異形。


紙を束ねた見慣れぬ綴じ物を抱え、渋い声を落とした。


「あなたたちは――何者、ばい?」


私は、教えのままに名乗っていた。


「わらわは姫と申す者にて……そうろう、ばい……?」


少し変わっているが、

これが異世界の挨拶なのだろう。

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