表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/16

14話 神と虚の宴

なぜ、こうなったのだろう。


母上――クシナが炎をまとった扇を手にし、

ジゲンが見守る熱狂の舞台の上で――


母上とジゲン、そして私は――なぜか――神楽を踊っていた。


神楽って……。

あんなに激しく踊るものではないでしょう?


母上の酔いが回って、おかしくなっているのよ。


それに合わせて舞う、舞う――母上は。


ミセフの民が奏でる笛に合わせ、

どんどん加速していく。


速い。

速すぎる。


もうこれは神楽じゃない。


目で追うことすら難しい。

――まるで戦闘だ。


その異様な光景に、

ミセフの民と冒険者の群れが地を揺らしていた。


「おおおおお!!」

「すげえええ!!」

「なんだあの舞!!」


違う。


そんなものじゃない。


あれは――酔っぱらいの暴走だ。


息が続かず、私は舞台の裏へ逃げ出した。


「はぁ……はぁ……」


壁に手をつく。


そしてもう一度思う。


どうして、こうなったのだろう?


――少し、時を遡る。


部屋と結界を荒らした私たち一行は、

フレハラウ様を筆頭に、

ミセフの民と冒険者たち全員から剣を向けられていた。


「恐ろしきかな、婦人ども」

「なぜ、結界を壊した?」


温厚な賢者――フレハラウ様が、杖を片手に語気を強める。


周囲では杖と剣がこちらへ向けられている。


きっと二人の轟音と、結界の破砕音で呼び出されたのだろう。


完全に犯人扱いである。

私まで怪しみの目で見られていた。


こんな事態になるなんて、

私の方が母上を問いただしたいくらいなのに。


母上はジゲンから何かを手渡され、

そのままフレハラウ様へ歩み出した。


母上の掌を見たフレハラウ様が驚愕する。


「これは!? どういうことだ!」


私はすぐに駆け寄り、

“それ”を見た。


禍々しく睨む目玉。

黒い粒子が周囲を漂っている。


完全に不気味だった。


どう見ても普通じゃない。


そして――


見覚えがない。


「鬼の使い魔が潜んでいました」


母が静かに言う。


……そんなもの居た?


しかしジゲンは頷いた。


「危うく喰われかけるところでしたが――」


母上がすぐ続ける。


「私とジゲンが力を合わせ、魔物を退治いたしました」


さらっと言った。


「なので、ご安心ください」


知らない事件が、

二人の口から実話のように語られている。


「母上? そのような――」


「ひゃぁっ!」


私の口に瓢箪が押し付けられた。


ほんの一滴。


それだけなのに――


舌が燃えた。


「っ!?」


視界がぐにゃりと歪む。


なにこれ。

お酒!?


しかも――めちゃくちゃ強い。


「母上~」


私は思わず母上に抱きついた。

足がふらつく。


「あらあら」


母上は楽しそうに笑う。


「まだ眠ってはいけないわ」


優しく頭を撫でられた。


嫌な予感しかしない。


「あなた、神事を行わなくては」


神事……?


「お前たちは怪しい! これ以上何をするつもりだ!」


フレハラウ様の取り巻きが怒鳴る。


母上はきょとんとした顔をした。


「まぁ怪しいだなんて」


心外そうに言う。


「私たちは、か弱い、ただの女の子なのに。ねぇジゲンちゃん」


ジゲンは即答した。


「その通り」

真顔だった。


「何もやましいことはありません」


嘘である。


「ご覧ください。私などこんなに幼い女児なのです」


それはそう。

……鬼だけど。


「貧弱極まりないでしょう?」


大嘘である。


酔っていたけれど、

二人の目が泳いでいるのは見えた。


「私たちにできることと言えば、神楽くらいなもので……」


「神楽だと?」


あ。

お師匠様から――

神事は必ず毎日行うようにと……。


忘れてはいけない。


母上がにこりと笑う。


「どうですか? 冒険者の方々も」


嫌な予感。


「どうぞ、娘の神楽をご覧になりますか」


「は?」


フレハラウ様の眉がぴくりと動いた。


「神楽を……?」


「はい」


母上はなぜか胸を張っていた。


つい先ほどまで戦闘していた人物とは思えないほど、堂々としている。


「この地には精霊がおわしますのでしょう?」


「……それが、どうした」


「でしたら」


母上はさらっと言った。


「鎮めの舞を捧げるのが礼儀です」


私は母上の袖を引いた。


「母上……」


「大丈夫よ」


小声で囁かれる。


何が。

何が大丈夫なの?


フレハラウ様は腕を組み、考え込む。


周囲のミセフの民がざわめく。


「鬼の使い魔が潜んでいたなら……」

「穢れが残っているかもしれない」

「神事は必要では……」


平和主義の民らしい反応だった。


一方、冒険者たちは――


「で? 戦いは終わりか?」

「つまらんな」

「強い奴いねえのか?」


まるで別の会話をしている。


その中から、一人の大男が前へ出た。


五人は飲み込めそうな巨体。

目は完全に戦闘狂。


男は叫んだ。


「ここに血沸き、肉躍るほどの強者がいる!!」


群衆がざわめく。


男の指が母上を指した。


「お前か!!」


母上は首を傾げた。


男の指がジゲンを指した。


「では、お前か!!」


ジゲンが即答した。


「ただの幼女です」


(また嘘……)


男は腕を組む。


「ふむ……両者とも、ただ者ではない気配を感じる」


(……私は?)


「気のせいでしょう」


ジゲンが即答した。


フレハラウ様が再度問う。


「今は黙っていろ! オルフェウス!」


巨体の赤髪オルフェウスは舌打ちし、布の下から光る眼で賢者を睨む。


「婦人どもよ。邪か否か、己の潔白をその身で証明なさい」


(あれ……この流れ、つい先刻見たような……)


母上は扇を広げた。

鉄扇ではなく――

クオンが懐に入れていた黒の扇。


「鬼の使い魔が潜んでいた以上――」


ミセフの民が息を呑む。


「穢れが残っています!」


そして扇を閉じる。

ぱちん!


「ですから――」


母上は言った。


「鎮めの舞を捧げましょう」


沈黙。

フレハラウ様が杖を鳴らす。


「……良いだろう」

ざわめきが広がる。


「もし欺きなら、その場で処断する」


母上は笑った。


「もちろんです」


横でジゲンが咳払いした。


「では舞台を借りましょう」


そう言うと、母上は歩き出した。

皆で外へ。

完全に流れができている。


私は呆然と立ち尽くす。


ジゲンが肩を叩いた。


「行きますよ」


「え?」


「主役はあなたです」


「わ、私!?」


私は慌てて首を振った。

半狂乱の大男たちの前で踊るなんて。


「む、無理です!」


「神楽など見たことがない者ばかりです」


ジゲンは平然と言う。


「多少違っても誰も気づきません」


「そういう問題じゃ――」


「それに」


ジゲンは前を見た。


「あなたの母上は止まりませんよ」


私も見る。


広場の開けた舞台の中央に母上が立っていた。

すでに扇を振り回している。


誰かが笛を取り出した。

「ヒュー」


その音を皮切りに――


母上は、もう一つの瓢箪を開け――一気に飲み干した。


母上――クシナの毛が逆立ち、飛び跳ね、奇声を上げる。


まるで赤子が高らかに産声を上げるかのように唸るように叫び、

火の粉が舞った。


その様に、舞台が静まり返る。


沈黙を破り、母上が扇子を勢いよく広げる。

まるで剣舞でも始めるかの所作に、

ミセフの民と冒険者たちの興奮が爆発する。


歓声が、地を揺らす。


母上は私を見つめて笑い、

人差し指と中指で手招いた。


「……嘘……でしょう?」


母上の舞台――

もとい、狂演が始まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ