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9話 医学の輪



「治せる……指を?」


フレハラウ様は懐疑的に眉をひそめた。


間髪入れず師匠がジゲンへ問う。

「おかしいな。

 ジゲン、お前は治癒魔法は使えないはずだが?」


私は告げる。

「ジゲンはこう見えて里一の薬師だったんですよ」


「魔法で治療など、行えません。外科医療です。

 見る限り、神経が傷ついているのでしょう」


「私たちは今、少しばかり金銭に難儀しております。

 賢者様の指を治療すれば――対価をお支払いいただけますね?」


意味はわからなかったが、私は自信ありげに相槌をうった。


「いや……もう弓を打たんし、別に必要ない」

フレハラウ様は悲し気に首を振る。


ジゲンは瞳の輝きを消し、ルカに寄り添った。

“ゲカイリョウ”

……お師匠様以外も、異世界語を使い始めてしまったわ。


「あ、でも……そうさな。最近腰痛が酷くてな……」


ジゲンの目が再び輝いた。


「これは……神経の圧迫によるものです。

 薬草の湿布を貼れば和らぎます」


懐から袋を出し、薬草を練り込んだ湿布を取り出す。


鼻をつく独特の香りが漂う。


幼い頃、傷を負った時に塗られた記憶が蘇る。

とても凄まじくヒリ付き、耐えられず悲鳴をあげて泣いた。


効果は確かだが、身を切るような刺激に耐えねばならないはず。


――だが、患部に湿布を貼ると、痛みを感じるどころか、

フレハラウ様の顔が和らぎ、そして――腰を優雅にくねらせる。


確かめるように、私は指に薬草を付ける。

驚くほど痛みはなく、恐ろしいほどの効き目だけが、はっきりと残っていた。


「な、なんと……素晴らしい!い、いくらだ!?」

声は震え、長年の痛みから解放された喜びが滲む。


「セイメイ様、いくらの値を付ければよろしいですか?」

ジゲンがひそひそと、問う。


「100万シバ」

聞いたことのない単位だった。

法外に思えなくもないが、優しいお師匠様のこと、きっと破格に安い金額なのだろう。


「セイメイ、それで何泊できるのですか?」


ジゲンの問いにお師匠様が冷静に答える。


「一人で1泊だけだな」


「……なら湿布1枚、1000万シバで販売します」


思わず吹き出しそうになる。

お師匠様が提示した額より桁が一つ多い。


だが、フレハラウ様は全く気にしていないようだった。


「その湿布あるだけ買うばい!」


「湿布ではなく、施術も行えます。効果は永続です」


「起きるのも辛い腰の痛みが、消えると言うのか――!?」


賢者フレハラウは息を呑んだ。


「なんと……こ、この機を逃せば、儂は一生腰痛に苦しむかもしれん。

 ……ぐぬぬ。――その施術はいくらなのだ!?」


「――全員が一か月、宿をお借りできるほどの金額で、ご納得いただければ」


「それだけでいいのか!?ぜひに願いたい!」


「まずは湿布で経過を見てから、本格的な治療と参りましょう」


「経過の見守りまでしてくれるというのか!」


「もちろんです。ただし――」


ジゲンは笑顔を向けながら一呼吸置いた。


「最善を尽くすためには、"お支払いとは別に"食事と宿を用意して頂きたい。

 診察には適切な環境が必要ですので」


「それくらい容易いばい!」


「さすが賢者様です!」


思惑がうまく行ったと言わんばかりに、

ジゲンは――とても悪い顔をしていた。


口元に浮かんだ笑みは、まるで獲物を捕らえた狩人のよう。


私は背筋に冷たいものを感じた。


「クオン、人の生き様って時に恐ろしいわね……」


返事がない。衣がすれる音に、ふと見上げると――


ルカがクオンの頭へ抱きつき、

輪廻する糸車のようにすさまじい速さで振り回されていた。


私はその光景を目撃し悲鳴をあげる。


「クオォオオオン!?」


「ルカァアアアア!!」


同時にジゲンの怒声が落ちた。


「ご、ごめんなさーいっ!」

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