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第1話 婚約破棄からのプロポーズ(※主人公、一人称)

 結婚式は、華やかだった。王宮の大広間を使って、その中に様々な装飾品を置く。普段は使わないお祭り用のテーブルにも、テーブルの上に乗せられる食器類や食べ物、飲み物のグラスや造花にも、その工夫が施された。会場の奥には楽団が置かれ、楽団の前にはダンスを踊れる空間が、空間の隅々にもテーブルが置かれた。

 

 私は会場の奥に立って、目の前の光景を眺めた。来客の顔を一人一人、彼等が何を話し、何を見ているのか? その詳しい状況を眺めづけた。私は自分と同じくらいの少女達を見て、彼女達が自分の方をチラチラと見る目、羨望と嫉妬の混じった目でじっと睨む姿を見て、その本性に怒りと悲しみ、そして、憤りを覚えた。「ふざけている。そんなに代わりたいなら」

 

 そこから先は、言葉にならなかった。私は自分の運命を呪って、その人生が閉ざされる感覚を覚えた。「私が私でなくなる感覚」を。目の前の貴族達からお世辞を貰う度に感じてしまったのである。私は魂の抜けた顔で、彼等の祝福に感謝を返した。「ありがうございます」

 

 王子は、私の言葉に目を細めた。言葉の意味に苛立っているわけではないが、その調子が何となく気に入らないらしい。私が周りへのおべっかを振りまく横で、その様子をじっと眺めていた。彼は私の横顔をしばらく見て、今の場所から歩きだした。


「つまらない」


「え?」


()()()()()()()()()()()()


 王子は、私の顔を顧みた。まるで、自分の怒りを表すように。周りの人々にも「それ」を見せては、自分の不満を見せたのである。彼は私の顔に視線を戻して、文字通りの溜め息をついた。「やっぱりダメだ」


 君では、役不足。そう言って、周りの貴族達を見渡した。彼は貴族達の視線に微笑むと、その中から一人、私の親族に手を伸ばして、貴族達の中から彼女を引き抜いた。「僕は、彼女と結婚したい」


 私は、その言葉に思考を忘れた。王子が選んだ女性は、私の実妹。王子と同じ顔で笑う、()()()()()()()()()。ハイリは私への侮蔑、嫌悪、嘲笑を込めた顔で、王子の首に腕を回りはじめた。私はその光景にも衝撃を、衝撃以上の恐怖を覚えた。「なっ! え? どう?」

 

 ハイリは、「ニヤリ」と笑った。王子が「ふふっ」と笑う横で、私に侮蔑の笑みを向けたのである。彼女は私の顔をしばらく見て、王子の顔に視線を移した。「そう言う事。姉さんは、負け組」

 

 私は、彼女の威嚇に言い淀んだ。本音としては、「助かった」と思ったけれど。女としての部分が、今の挑発に劣等感を覚えてしまった。自分の相手がどうであれ、女の優越を付けられた事に変わりはない。「妹が上で、私は下だ」と。あの嫌らしい感覚に等級を付けられた、その感覚だけはどうしても消えなかった。私は「開放感」と「絶望感」、その間にある不満感を覚える中で、二人の顔をじっと睨んだ。


「いつから、なの?」


「え?」


「いつから……」


「それは」


 教えない。それが妹の、愚妹の返事だった。「姉さんにはもう、関わりない」と言う。妹が王子の頬を撫でる姿は、生まれついての強者を語る眼差しだった。ハイリは私の方を指差して、私に「追放!」と言った。「この人は、王家の家系に相応しくない」


 周りの貴族達も、それに「クスクス」と笑った。「背徳を至上」と考える彼等にとって、私の性格は不必要らしい。彼等はつまらない淑女に中指を立てて、私の人格、人生、人道を罵った。「綺麗な世界に居たいなら、教会にでも入れば良い。あそこは、君のような人間で溢れている」


 王子も、「クククッ」と笑った。次女も、「フフフッ」と笑った。二人は私の精神を蔑み、そして、罵った。「田舎の空気でも、吸いな?」


 私は、「うわん」と泣き崩れた。屈辱と恥辱、その二つに追いつめられて。周りの人達から笑われるくらいに「えんえん」と泣きつづけた。私は貴族達の嘲笑を受ける中で、その悪意に「もう、いや!」と叫んだ。「もう、死にたい。生きたくない!」


 貴族達は、その声にも笑いつづけた。まるで、他人の不幸を喜ぶように。あらゆる善意を忘れて、私の事を見下しつづけたのである。彼等は結婚式の余興として、今の状況に盛り上がりつづけた。


 ……その人が現れたのは、彼等の中で悲鳴が聞こえた時だった。人々の間を縫って、私の前に現れた男性。顔の全面に仮面を付けて、黒衣のマントを羽織った少年。その少年がふわりと、私の前に現れた。彼は会場の静寂を睨んで、私の前に手を伸ばした。


「迎えに来ました」


「え?」


 迎えに?


「貴方は?」


 私は不安な顔で、相手の顔を見た。仮面の上からでも分かる、笑みに包まれた相手の顔を。私は間抜けな顔で、相手の視線を見つづけた。


「誰?」


「俺です、ずっと昔に」


 そう言って、顔の仮面を取った。彼は昔と変わらない笑顔、昔と変わらない動き、昔と変わらない優しさで、私の体をそっと抱き上げた。「シュリノさん」


 結婚してください。「あの時は、できなかった事を。俺と貴女が結ばれる約束を。今日、この日に結ばせてください」


 彼は王子の顔に視線を移して、その瞳をじっと睨んだ。相手の有無を言わせぬ眼差しで。「良いですよね?」

 私は、彼の目を見た。目を見て、それに「はい」とうなずいた。周りの視線を無視して、自分の気持ちに「yes」をかざした。「こんな世界はもう、嫌です!」


 彼は、私の手を握った。まるで、王子の存在に挑むように。彼は恨みの籠もった目で、王子の目に怒りをぶつけた。「よろしいですか?」


 王子は、それに応えなかった。彼の登場に驚いて、普段の思考を失ってしまったのである。彼の「王子?」にも「う、うっ」と怯んでしまった。王子は彼の目をしばらく見たが、隣の女に「良いのでは?」と言われると、それに「え?」と驚いて、女の顔を見た。「ハイリ?」


 愚妹は、私の顔を見た。彼女の視線に怯える、私の顔を。「何処の誰かは、存じませんが。せっかく引き取ってくれるんです。お祝いの言葉を添えて、譲り渡してあげましょう?」


 王子はまた、無言の世界に入った。少しの沈黙を入れて、今の考えを受け入れるように。彼は女狐の目をしばらく見て、私達の方に視線を移した。「そう、だな。そうしよう。我が汚点を引き取ってくれるなら、こんなに嬉しい事はない。彼の善意に甘えて、この遊びを終わりにしよう」


 少年は、ガリア君は、彼の返事に頭を下げた。普通なら侵入(と言って良いだろう)の罪を咎められる筈なのに。貴族達の間を堂々と進み、私の両親にも頭を下げて、大広間の中からゆっくりと出て行った。彼は王宮の廊下を進み、玄関の外に出て、城門の間を抜けた。「ふう」


 良かった。そう言って、私の方に向きなおった。彼は私の体を抱きしめて、その耳元に「ごめんなさい」と謝った。「遅くなりました」


 私は、言葉を失った。それにどう返して良いのか、分からなかったから。私は「混乱」の中に安堵感を覚えて、彼の腕に「ありがとう」と返した。「本当に、本当に」


 彼はまた、「ごめんなさい」と謝った。「俺に力があったら」と。彼は悔しげな顔で、私の体を抱きつづけた。「もっと早くに」


 助けられた。そう言ったのは……何処から居たのだろう? 私達の横に立っていた、フローラだった。フローラは彼の方に歩みよって、その顔から笑みを消した。


「優柔不断は、言い訳にならない。好きな女性が居るのなら、革命の一つでも起こすべきです」


「確かに。それは、俺の……」


「まあいい。ここは、目立ちます。通りに馬車を停めているので、ハネムーンでも何でもいって下さい」


 フローラは、私にも「行け」と促した。「ここから先は、私に任せてほしい」と言う風に。「後は、美味くやります」


 私は、その指示に従った。本当は、色々と聞きたい事があったけれど。有無を言わせぬ眼差しが、その疑問を打ち殺してしまった。私はガリア君の手に従って、馬車の中に飛び乗った。

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