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中編 初デート(※主人公、一人称)

 翌日の朝は、晴れだった。いつもの雲がすっかり消えて、青い空に太陽が浮かんでいる。太陽は町の中も含めて、遠くの地平線も照らしていた。


 私は、雄鶏の声と一緒に目覚めた。普通なら寝ている時間、家族の全員が寝ている時間に「う、ううん」と起きてしまった。私はベッドの上から降りて、自分の顔を洗い、鏡台の上に座って、自分の髪を整えた。「違う」

 

 こうじゃない、私が彼に見せたいのは……もっと。私は自分の焦りに驚いて、身体の奥に熱を感じた。これでは、恋する乙女。彼とのデートにドキドキする、お伽噺のヒロインである。


 普段は、気にならない服の乱れも気になって。髪の毛が(特に髪型が)少し崩れている(ような感じ)にも、変な焦りを感じてしまった。私は気持ちの焦りをどうにか抑えて、自分の身支度を調えた。「よし!」

 

 決まった、と思う。初めての髪型だけど。次女から聞いた流行りを真似た事で、普段の芋っぽさを抑えられた気がする。服も可愛い物を選んだし、身体の装飾品も美しい物を選んだ。


 私は朝食の内容を決めて、彼の部屋に活き、部屋の扉を叩いた。「おはようございます、シュリノです」


 彼は、すぐに起きた。私と同じ状態だったのか、二枚目のノックで扉を引きはじめた。彼は外出用の服に着替えて、私の来訪を心から喜んだ。「おはようございます、シュリノさん。今日は、よろしくお願いします」


 私も、すぐに「よろしくお願いします」と返した。案内するのは私が、つい条件反射で。彼に余所行きの返事を返してしまった。私は自分の失態に熱くなって、彼の目から視線を逸らした。


「ごめんなさい」


「え?」


 本当に驚いた「え?」だった。彼は私の顔をしばらく見たが、やがて何かを思い出したかのように「クスッ」と笑った。「朝食は、食べましたか?」


 私は、「いいえ」と返した。「朝からやっているお店があるので」と。「そこで朝ご飯を食べましょう」と促した。私は自分の提案に自信が持てず、彼の反応をチラチラと窺ってしまった。「いかがですか?」


 相手は、嬉しそうに笑った。「満面の笑み」と言うわけではないが、私の心を包むような返事だった。彼は私の手を握って、私に「連れて行って下さい」とうなずいた。「そう言う食事は、大好きです」


 私はまた、彼の言葉に赤くなった。私の事を「大好き」と言ったわけではない。家の外で食べる食事、特に朝の時間に食べる外食が、「好きだ」と言っただけだ。私自身を、異性として「好き」と言ったわけではない。


 私は自分の感情を抑えて、自分のお気に入りに彼を連れて行った。「()()()()


 そう指差した先には、一軒の料理屋さんが。封土の中で(特に若い女性の間で)人気のレストランが建っていた。私は店の中に彼を導いて、そこの店員に「二人です」と言った。「今日は、テーブル席に」


 店員は私の顔を見、それから彼の顔に目をやった。彼は店員の視線に対して、「おはようございます」と微笑んだ。店員は私の顔に視線を戻し、自分の方に手招きして、私の脇をニコニコしながら突いた。「素敵な彼氏ね?」


 そう言われて、思わず「カッ」となった。今の言葉は、どう見ても冷やかし。彼の事を誤解した、文字通りのカラカイだった。私は身体の火照りを誤魔化そうとして、店員の身体をポコポコ叩いた。「ち、違います! この子は、ただの旅行者で! うっ、勘違いしないで下さい!」


 相手は、「はい、はい」とうなずいた。どう見ても、信じていない。彼からも説明があったが、それでも「良縁、良縁」と喜んでいた。店員は、空いているテーブル席に私達を導いた。「ごゆっくりぃい」


 私は、テーブル席の上に座った。本当はあの店員を睨みたかったが、目の前に彼が座っているので、笑顔の中に怒りを隠すしかなかった。


 私は店の壁に掛けられているメニュー表を見て、彼にも「あの中から頼むの」と言った。「オススメは、ジャムトーストと紅茶のセット。セットの中には、サラダも付いている」


 彼は私のオススメをしばらく眺めて、私の顔に視線を戻した。「貴女は、何を頼むの?」と言う風に。「俺も、貴方の注文に合わせる」

 

 私は、今のオススメを選んだ。私自身も食べたかったし、彼にも「それ」を食べて欲しかったから。店のウエイトレスに「仲が良いね?」と笑われながらも、相手に「お願いします」と頼んだ。「さっさと作って下さい!」

 

 相手は、「はい、はい」と返した。私の顔(たぶん、真っ赤)を見て、楽しそうに笑っている。彼女は「少し待っていて」と言って、厨房の奥に言った。「モーニングA、大至急!」

 

 料理人のおじさんも、楽しそうに「はいよ」とうなずいた。子供の頃から知っている私が「男(言い方は、悪いが)」を連れて来た事に「あの子がねぇ」と喜んでいるらしい。「時間の流れは、恐ろしい」

 

 私は、彼等の会話に「ムッ」とした。「失礼な連中」と言うよりは、「恥ずかしいから止めて」と言う風に。ある種の恨みを抱いてしまった。


 私は自分の羞恥心に沈んだが、ガリア君の笑みを見て、その気持ちをすっかり忘れてしまった。


「ごめんなさい」


「え?」


「あんな所を見せて」


「寧ろ、嬉しいです。貴女の素顔が見られて」


「そ、そうですか? それなら」


「貴女は、身分のそれを忘れられる人だ」


 私は、「え?」と驚いた。「そんなのは、普通」と思っていた所為で。彼の視点に思わず黙ってしまった。


 私は彼の目をまじまじと見、それが示す思想を考えた。「ガリア君は、それを考えるんですか?」

 

 彼は、「はい」とうなずいた。私の質問に苦笑するように。「押し付けはしませんが、線引きはしています。封土の秩序を守るために、彼等はあくまで、農奴ですから。対等以上の関係になると」

 

 悪い事が起こるかも知れない。私個人の思想は別にして、それが本来の秩序だった。領主への服従を第一に考える。私が彼等にしている事は、その秩序を破る愚行だった。


 私は自分の思想を悔いて、それを「改めるべきか?」と考えた。「私もいつか、大人になるし。大人になったら」

 

 彼は、「変わらなくて良い」と言った。私の「え?」を無視して、その続きを遮った。


 彼は店の人々を見渡して、私の顔にまた視線を戻した。「俺が『そうだから』と言って、貴女もそうなる必要はない。貴女には、貴女の価値観がある」


 私は、彼の目を見つめた。本当は何か、反応を見せるべきだったのに。彼の言葉が胸に刺さって、その何かを失ってしまった。私は彼の目から視線を逸らして、自分の精神に眉を寄せた。


 彼は、大人だ。歳は私と同じでも、その精神はずっと進んでいる。私と同じ物を見ている筈なのに。その精神や見ている物は、私よりも広く、そして、ずっと大きかった。私は、彼に尊敬を抱いた。「凄い」


 彼は、その声に「ぜんぜん」と返した。無表情の裏に恥ずかしさを隠して。「俺も、まだまだ勉強中です。知らない事が、山ほどある」


 私は「そんな事」と言い返したが、私が彼の目を見た所で、店員が二人分の料理を運んできた。店員はテーブルの上に料理を置いて、私達に「ごゆっくり」と微笑んだ。


 私は相手の笑みに「ムッ」としながらも、意識の方は料理に、彼の精神に向いてしまった。「私も……」


 彼も、その続きを遮った。「食べましょう」の言葉と共に。彼は不器用に笑って、自分の漁師を食べはじめた。「せっかくの料理が、冷めてしまう」


 私は不本意ながらも、彼の提案にうなずいた。このまま「違う」と言いはっては、流石の彼も「困るだろう」と思ったから。自分の本音を消しながらも、それが決して不快でないながらも、自分の注文品をゆっくりと食べはじめた。


 私は「いただきます」の声に合わせて、自分の料理を食べきった。「ご馳走様」


 彼も、「ご馳走様」と微笑んだ。(私の想像で)私よりも食べるのは速そうだが、私に合わせて、食事の速さを抑えたらしい。店員が二人分の食器を片づける時も、私よりも先に「ありがとう」と笑っていた。


 彼は少しの休みを入れて、私に「次のオススメは?」と訊いた。「何処ですか?」

 

 私は店の中から出て、次の場所に彼を誘った。店の前から少し進んだ所にある橋、その上から見られる川が、次のオススメポイントである。


 私は彼の前を歩いて、その場所に彼を連れて行った。「今日は、ラッキーです」

 

 そう言って、眼下の川を指差した。太陽の光に照らされた、美しい川を。それがキラキラ光る様子に合わせて、彼に「川の底が見える」と言った。


 私は川の底に見える草や藻、その上に舞い降りる水鳥や昆虫を指差して、彼に自分の興奮を伝えた。「ここは、デートスポットでも有名で……あっ!」

 

 しまった。つい、余計な事を。橋の上から見られる景色があまりに綺麗で、自分の本音(らしき物)をボロっと漏らしてしまった。「ごめんなさい」

 

 彼は、「大丈夫」と微笑んだ。まるで、私の頑張りを労うように。温かな顔で、自分の正面に向きなおった。彼は私が指差す風景を見つめて、その世界に「綺麗だ」と呟いた。「こう言う景色、もっと見せてください」

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