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お茶会

突然始まったセミオン皇子とのお茶会。

目の前にある机には上品な3段のティースタンドに置かれている皿の上に可愛らしいケーキやサンドイッチ等が並べられている。それを間に置いて私達は向かい合っている。

やっぱり直視できない。助けてくれた恩があるのにあまりにも失礼だけれど、今まで父様やアリーシャ達に受けた対応を思い出してしまう為セミオンの顔を見ることが怖かった。

継母が言っていた言葉がトラウマになっている。


「本当にアンタは母親に似て可愛げがないわね。アンタなんか結婚してもすぐに捨てられる。いい雰囲気になった男に可愛いって言われても嘘よ。心の奥底じゃブスな生意気で無能な馬鹿だって思われてるわよ。可哀想に」

「お母様。ちょっと言い過ぎじゃない?まぁ、お母様のいうとおりなんだけど♪」


血の繋がった父様も同様のことを言っていた。テレンスも本当は私のことを嫌っていたのだろうと今なら思う。

でも、セミオンは違う。何故か彼のことなら信じられてしまう。

それはあの夜に狼の脅威から助けられた恩があるからなのかどうなのかまだ分からない。

私は不安を隠す為に紅茶を一口飲んで落ち着こうとする。

それにこのお茶会が終わったら村に返されてしまうだろう。

勝手にいなくなった私をアリーシャ達は面白がりながらお仕置きという名の拷問をすると思うと恐怖で震えが止まらなかった。

村に返してほしくない。せめて別の知らない土地に放り出して欲しい。そう願っていた時だった。


「エレナ」

「え、あの、なんでしょう?」

「もしかして君の実家に返されると思ってる?」


セミオンに私の考えてることがバレていた。もしかして心の中を読んだのかと思ってしまった。

驚いて思わず飲んでいた紅茶を吹き出しそうになってしまった。


「ゴホッ…!!な、なんで…知って…?!」

「だって不安そうな顔してたから。このお茶会が終わったら偽聖女がある村に返されちゃうって顔に書いてあった」

「……確かに。貴方の言う通りよ。でも、いつまでもここにいる訳にはいかないわ。だって迷惑じゃない。それに私は…って…偽聖女?」


セミオンが発した偽聖女という言葉に引っ掛かりを感じた。どうしてそんな言葉が出てきたのか。


「聖女の一族の血も一滴もないくせに、エレナから聖女の力を奪い続けてあたかも自分が聖女だと触れ回ってる。しかも、自身が持っている魅了の異能を使ってね」

「ちょ、ちょっと待って。アリーシャが本当の聖女じゃないの?!」

「そうだよ。だって本当の聖女はエレナなんだよ」

「どうしてそんなことが分かるの?」

「僕も君と同じ神から授かった聖なる力を持つ皇族の生まれだから」


セミオン曰く、聖なる力を授かった一族の者は誰がその力を持っているかの真偽を見分けることができるのだという。

魔道具を使っても偽ることはできない。聖女の力を奪えてもいずれボロが出るとも。


「今現在、僕の親友に村に潜入させてる。さっき報告が来たんだ。君の義妹アリーシャ・アクレストは腕輪型の魔道具を使って聖女の力を使っていることをね」

「つまりそれって…」

「君の聖女の力が枯渇した原因はアリーシャが引き起こしたこと。アリーシャだけじゃない。君の継母も糸を引いているのかもね」


私の中に眠っていた聖女の力をアリーシャが身につけている腕輪に奪われていたのだ。唯一使えていた浄化の能力さえも。

村のみんながアリーシャを崇めるのは、彼女が持つ魅了の異能がそうさせていることも知って私は言葉が出なかった。

テレンスもその術中にハマったことで私を捨てたのだと察することができた。それ知ったからと言って彼を許せるわけがない。

術にかかる前からきっとそう思っていたのだろう。だからあの婚約披露の時にあんな下品な顔をしていたのだ。


「そんな…」

「だから君をこの帝国から出すつもりはさらさらないよ。アイツらが君を取り戻しにこようと絶対に返さない。それに行ったでしょ?迎えに来たって」

「迎えに…?」

「僕の手に触れた時の衝撃。覚えてるでしょ?あれは僕と君が運命の番である証。運命の番いは強い絆で結ばれ、お互いの聖なる力を強める特別な存在。それが君なんだよ。エレナ」

(私が…セミオンの運命の番…?)


セミオンが私の右手をそっと触れた。触れられた途端、ほんの少しだけど、浄化の能力を使っていた時の感覚がしたのだ。


「セミオン」

「アリーシャに力を奪われ過ぎて、元に戻すのには僕の力だけじゃ足りないけど少しだけ感じたでしょ。聖女の力が戻ってきたことが」

「ええ…でも本当に…」

「運命の番はお互いを助け合う聖なる存在。エレナの聖女の力の器に完全に力が満たせばさらに強力になる」


いろんな真実についていけない。アリーシャが偽聖女だったことも、私がセミオンの運命の番だってことも。

母様の形見は私が持っていいという事実も。


「セミオン。私、アリーシャから聖女の力を奪われただけじゃないの!!私の母様の形見のペンダントさえ奪われたの!!聖女じゃないお前にこれを持つ資格がないって言われて…!!だから、早く力を取り戻してアリーシャからペンダントを…!!」


あの母様の形見だけは是が非でも取り戻したい。聖女の力が戻らなくてもいい、聖女という肩書きが戻ってこなくてもいい、けれどせめてあのペンダントだけは取り戻したかった。

こんなに声を荒げるのは久しぶりで自分でも驚いていた。

セミオンはそんな私を見ても背かずしっかりと耳を傾けてくれていた。


「ごめんなさい。本当は私がやるべきことなのに」

「大丈夫。エレナの母上のペンダントも必ず取り戻す。エレナが奪われていた全てを取り戻すと誓うよ」

「いいの?貴方にもっと迷惑をかけてしまう」

「迷惑なんかじゃない。エレナのことが好きだから、これ以上悲しませたくないからやるんだ。エレナの為ならなんでもする。もし、エレナが僕の運命の番じゃなくても同じことをしてた。だからもっと僕を頼って」


セミオンの嘘偽りのない声と表情を見て私の目から一筋の涙が溢れた。テレンスのプロポーズの時に感じなかった安堵がそうさせているのだろう。


「さぁ、お腹空いたでしょ。一旦お茶会の続きをしよう。話はそれから」

「…ふふ。そうね」


私は涙を拭い改めてセミオンとのお茶会を開催した。

こんなに穏やかな時間を過ごしたのは久しぶりだった。母様とのお茶会を思い出す。

まだ、私が本当に聖女でセミオンの運命の番である自覚があるのか分からない。まだ、セミオンと交わした約束の記憶も思い出せていない。

それでも今だけはこの時間を楽しみたいとそう願ったのだった。


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