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約束(セミオン目線)

振り下ろされたナイフが胸部と腹部にかけて深く切り裂かれた。傷口からは鮮血が溢れ出し、白いシャツは真っ赤に染まった。

兄を助けたかった。魔法も上手に扱えず、怯えてる自分にできることはそれぐらいしかなかったから。

セバスチャンは父上の様な立派な皇帝になる人だから。こんなところで死なせるわけにはいかない。


「そんな…!!嫌だ!!セミオン!!」


泣きそうな声で僕の名を呼ぶセバスチャンに大丈夫だよと言いたかったけれど、激しい痛みと息苦しさに言葉が出なかった。

刺客の男は僕にとどめを刺そうと再び血染めのナイフを振り下ろそうとする。

きっと、僕を殺した後はセバスチャンを殺すつもりなんだろう。そして、僕達の首を持って敵国に帰って勝ち誇り父上達を挑発し争いを生む。

最終的にフェシリア帝国を乗っ取り、僕達の大切な人を処分してゆく未来。きっと敵国の目的の一つがそれなのだろう。

そんな未来許せるわけがない。

虫の息である僕にもう一度ナイフが振り下ろされようとした時、僕の中で眠っていた聖なる力が完全に開花し、全身から強い光が放たれた。

今まで出したことない程の強力な魔法の波動だった。

その時だけ傷の痛みと息苦しさは感じなかった。


「セミオン!!」

「な、なんだ!!うあぁーー!!!!」


強い光の魔法の波動を受けた刺客の男が苦しみながら消滅してゆく。

隣にいたセバスチャンは僕を守る様に覆い被さりながら光が止むのを待った。

刺客の男は消滅したが、彼には害はなかったのが幸いだった。闇の魔法が兄を守ってくれたのだろう。

ようやく光が止んだ頃、再び傷の痛みと息苦しさが再び襲ってきた。


「セミオン…!!すごいじゃないか!!あの男を倒したんだぞ!」

「う……ん…」

「お前をこんなところで死なせない!!だから諦めるな!!絶対に俺がお前を助けてやるから…!!だから…!!」


死なないでくれ。そう言いたかっただろう。けれど、死にゆく僕を見てその先が言えなかった。

セバスチャンは自分を責めている。兄なのに、大切な弟を危険な目に遭わせてしまったと。


(大丈夫だよ。兄さん。僕は兄さんのことを守れたことを後悔してない。だから悲しまないで、自分を責めないで)


此処から城の秘密の通路の出入り口からは結構離れている。そこに着くまでに僕の命は尽きてしまうだろう。

父上と母上は悲しんでくれるかななんて思いながら空を見る。

せめてセバスチャンが皇帝になる姿が見たかったのと、父上達が言っていた僕の運命の番いという人に会ってみたかったなっと思っていたその時だった。


"エレナ!!早く!!こっち!!"

"この子を助けて!!"


聞き覚えがある声だった。精霊達の声だ。

聖なる力を授かった者にしか聞こえない精霊の声が耳に入ってきたのだ。それは僕だけではなく、セバスチャンにも聞こえてきたようだった。

セバスチャンが声がした方に顔を向けると、目の前に現れたのは僕と同い年ぐらいの少女だった。


「まさか、君がエレナって子?」

「そうだけど、どうして私の名前を知ってるの?まさかあなた達も精霊達の声が聞こえるの……っ!!その子どうしたの?!!すごい怪我してる…!!」

「俺の弟なんだ!!突然変な奴に襲われたんだ!!その時に俺を庇って…!!頼む!!助けてくれ!!弟を死なせたくないんだ…!!」


今の僕を見たエレナにセバスチャンは助けを求めた。精霊達の声が聞こえたからと見込んだからだろう。


「で、でも私、母様みたいに怪我を治せる力がまだ…」


僕と同じでまだ聖なる力を使いこなせていない状況だったのだろう。失敗したら僕を殺してしまうかもしれないと躊躇していた。

すると、精霊達がエレナに寄り添った。


"大丈夫。僕達が手伝ってあげる"

"怖がらないで。自分を信じて"


精霊達の声援を聞いたエレナは意を決し、僕の深い傷に向かって手を翳した。

翳された手からゆっくりと白い優しい光が放たれてゆく。

エレナは目を瞑り聖なる力を使うことに集中していた。


"その調子だよ。浄化の力が治癒の力に変わってきてる"

"この男の子を助けたいって気持ちを込めて"

「うん…!!」


治癒の力の光が少しずつ切り付けられた傷を癒してゆく。そばにいたセバスチャンは僕を安心させるように僕の肩を掴む手の力を強めた。

痛みと息苦しさがなくなってゆく。流しすぎた血も戻ってくるような感覚を覚えた。

傷が塞がり始めた頃にようやくエレナの顔を見ることができた。

頭がぼーっとしていて少し朧げだったけれど、一目に見た時に感じたのだ。


(この子だ。父上達が言っていた僕の運命の番は!!絶対にそうに違いない)


まだエレナの手を触れていないのにこの女の子が自分の運命の番なのだとそう感じてしまったのだ。数年後にそれが確実なものになるのだがその前に察知した。

治癒の力が傷を完全に塞いだ頃に光が止んでいた。エレナは安心した様子でほっと胸を撫で下ろしていた。

元の無傷の状態に戻った僕を見てセバスチャンは感激しながらエレナにお礼を言っていた。


「ありがとう!!エレナ!!弟を助けてくれて!!なんとお礼を言えばいいのか…!!」

「そ、そんなお礼なんていいわ!まさか、治癒の力が使えたなんて…聖霊のみんなが手伝ってくれたからかな…?」


僕もエレナも同じ悩みを抱えていた。

けれど、助けたいという思いが僕達の中で眠っていた力が応えてくれたのだろう。


「エレナ…あの…」

「セバスチャン様!!セミオン様!!!」


遠くから聞き慣れた家来達の声が耳に飛び込んできた。城を抜け出したのがバレたのだろう。

あの通路を使ってここまできたのだろうと僕とセバスチャンは察した。


「セミオン、俺の背中に乗れ。そろそろ帰らないともっと大事とになる」

「うん。でも、待って、少しだけエレナと話させて」


心配そうな表情を浮かべるエレナを見て僕はある約束をした。


「ねぇ、エレナ。僕が立派な皇子になったら君を迎えに行ってもいいかな?」

「え?皇子…?」

「それまで僕のことは忘れて。僕達が起こしたことにエレナを巻き込みたくないから」

「嫌よ。私、あなた達を忘れたくない。もう会えないの?」

「今はね。でも、僕が迎えに行く時に全てを思い出すから。その時まで待ってて。どんなに苦しくてもこの魔法が君を光の道に導いてくれるから」


僕とセバスチャンはお互いの考えが一緒であることを顔を見合わせて首を軽く縦に振って確認した。

そして、白と黒の優しい光がエレナと包み込んだ途端彼女は元いた場所に戻された。それと同時に僕達に会った記憶を封印した。

彼女を守る為に、すぐに見つけられる為に。

そして、ついにその日がやってきたのだ。

手が触れ合った途端、エレナが僕の運命の番であることが証明されたこと、そして、約束通り迎えに来れたこと。

後は、新たな約束が生まれたことだ。

もう、エレナを苦しませない。偽聖女達がエレナにしてきたことの代償を必ずアリーシャ・アクレストに払ってもらうことを。


「貴様が使っている聖女の力は全部エレナのものだ。貴様のものではない。お前の天下ももう少しで終わるぞ」


エレナの幸せとエレナから全てを奪い続けた奴等への復讐の鐘が鳴らされた瞬間だった。


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