貴女にとって神様とは?
それじゃあ、作者によるRTAはっじめるよー!
今回の件、実は放置しておくと厄災化してしまいます。ファタモルガナ海域の幽霊船はそのエリアから出ないのですが、厄災化すると自由に航海するんですよね。
実はちゃんと手順に則り、ストーリーを進めると分かりますが、幽霊船は幽霊船ではありません。
あれは所謂擬似餌………即ち、魔物による罠だからです。簡単に言えばチョウチンアンコウのようなものというか、2章のボスですね。
本来は海域内で大人しくしていた魔物でしたが、人魚姫がのこのこやってきた事でさあ大変。レインの歌が更なる餌の確保に繋がると気づいた魔物は、彼女を利用します。
船内に済ませている元海賊の幽霊を操り、人魚姫の首を切断後、船首にくくりつけ、死んでなお彼女の魂を擬似餌に縛りつけ歌わせ続けました。
それに惹かれた魚や人間達は食われ、魂は擬似餌に縛られて永遠の苦しみを味わうのです。
「なので、解決手段はとても簡単。船には乗らず、深海にいる魔物を殺す。そうすれば、魂は解放され、幽霊船は消えるでしょう」
「でも、どうやって魔物を誘き出すんですかぁ?」
「本来なら、船に乗り込む事などせずに聖女が歌を歌えばいいんですが………美徳の楽譜の1枚、知恵の楽譜が船長が持ってるんですよね」
「つまり、先に乗り込まないと行けないわけかい?なら、僕が行こう。妹を助けるついでにそれも拝借してくるさ」
「よろしくお願いします。ウィズ。気をつけてください。船の中には骨となって尚、強欲に宝を求め続ける船長がいます。楽譜も恐らくは彼が持っているでしょう。だから………アグネス」
「嫌です」
「………神託です。アグネス。ウィズと一緒に船に乗り込んで楽譜を奪って来なさい。貴女がいて負ける事なんてないですからね」
「いやです!! ユア様! これもボクに対する罰ですか!? せめて! せめて! 魔物退治をボクの方に!」
「というわけなので、よろしく頼みますね。ウィズ。頼りないかもしれませんが仮にも女の子ですし、戦力としてはお釣りが来るレベルなので」
「まあ、嫌がる女性を1人行かせるのも可哀想だからね! 僕にお任せを! 今行くぞ! 我が妹よ!」
「やだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「それじゃあ、事態が動くまで港町で作ったサーモンサンドイッチでも食べましょうか」
「余りにも切り替えが早すぎませんかぁ?」
ウィズに抱えられたアグネスが霧の海域へと姿を消して行ったのを見送り、お手製のお弁当箱を開き、採れたて新鮮な野菜と鮭のサンドイッチを渡す。
寄生蟲が怖いのでちゃんと火を通しているが、その油をレタスらしき葉野菜が受け止めていい味を出している。
中世ヨーロッパと見せかけて、現代の食べ物が再現出来るのは乙女ゲーム世界に転移した利点ですね。私がしっかり、ファンタジー小説書いたら、野生味溢れる食事ばかりになりそうですから。
「ユア様ぁ。1つお聞きしてもよろしいですかぁ?」
「いいですよ。暇ですし、何ですか?」
「その………何故、私達亜人にこのような試練ばかり与えるのでしょうか。奴隷にされたり、厄災の生贄にされたり、私達の扱いが人間とはまるで違う。人間には聖女という守護者がいるのに、我々にはいないのは何故ですか?」
えっ? そうじゃないとストーリーが成り立たないからですよ?
なんて言った証には邪神扱いされて、討伐ルートに入りますね………実際、ストーリーの都合でしかないんですけど、どう答えますか。
「人間達が余りにも弱すぎるからですね」
「弱すぎるから、ですかぁ?」
「ええ。亜人である貴女達は全員が人間より優れていると言えます。エルフなら遠距離からでも撃ち抜ける射撃技術に森の声を聞く事もできる。魚人は水中では魚より早く、陸上でも活躍できます。これは人間にはできない事です」
「だから、聖女という守護者が必要だと? なら、何故私達ばかり試練を与えるのですか?」
「考えてみて下さい。今の人間を。厄災が起きたら、聖女を呼ぶ。この流れで成功して来た余り、聖女を考えなしに崇拝してるのが今の国じゃないですか。そんな時、召喚された聖女が我儘な傾国の女ならどうしますか? 少なくとも国は傾くはずですよ」
というか私ならそうしてます。まず召喚された時点で立場と知識を利用し、厄災を抑えつつ、亜人達と交渉を重ねます。
厄災を抑えた功績から、風当たりが弱い種族から落としていき、今後100年不利な条約を結ばせます。亜人達は長期の寿命持ちが多いですから、100年単位なら問題ないはずです。
そして、人間は100年も生きられませんから新たな問題に対峙する頃には死に逃げ出来るはずです。まあ、ここまでは上手く行かないでしょうけど。
「人類皆、鳥頭では世界は滅びます。酷い状況を定期的に与え続ける事で、危機対応能力は磨かれますし、社会も成長していくのです」
「つまり、厄災も聖女もこの世界に必要なことだと」
「私はそう思いました。でも、それは女神のお節介。余計なお世話と思われても仕方ありません。貴女達が望むなら平和な世界を作るのもいいでしょう」
でも、そんなほのぼの日常ストーリー乙女ゲームを作るなら、異世界ものじゃなくて現代を舞台にしますけどね。わざわざ異世界にする意味がないので。
「私は貴女達の世界がどうなろうが知ったことではありません。私はただ世界を維持するだけ。世界をより良くするのも悪くするのも貴女達次第なのですよ」
「薄々思ってはいましたがぁ………ユア様は私達の興味や情を抱いてなかったんですねぇ。神様らしいと言えばそうですが」
「作ったものに愛情を抱くのは間違いです。愛玩ならともかく、情愛を抱けば公平ではなくなりますから」
「それにしてはぁ、随分と私達に肩入れしてくれますねえ?」
「だって、人間が私の味方をしてくれませんでしたし、聖女もいるなら公平さを持って亜人に味方するに決まっているでしょう?」
最後のサーモンサンドを口に入れれば、エリスは暫く目を閉じた後、どこか納得がいったように頷いた。
「理解はできましたが、やはり納得は出来ません。私は私の妹が死にかけたように、いつか取り返しのつかない事が起きるくらいならずっと平和なままの世界がいいです」
「なら、頑張りなさい。私が堕ちてきてるせっかくの機会を無駄にはしないように」
「──はい!」
よし、いい感じに誤魔化せましたね。北風と太陽のように人間や亜人に甘い太陽が聖女で人間や亜人に厳しい北風が私と思ってくれたようです。
とはいえ、油断してると後ろから刺されますからね。好感度管理はしっかりしないと………何で私はリアルに乙女ゲームしてるんですか??
「あっ、ウィズ達帰って来ましたよぉ」
「ああ、ほん………と」
ちょっと頭痛がして来た私はゆっくり、エリスの指さす先に目を向ける。なんて事でしょう、ウィズの背中にアグネスが仁王立ちしながら、人魚を抱えているじゃないですか。
しかも、物凄い速度で追いかけてくる船とちらほら波間から見える鰭や牙。魔物まで引っ張って来たようですね。このままだと死にますね!?
「エリス!!」
「はいはい、ユア様! 捕まってくださいね!」
「ちょ、待て! エリス! ボク達を見捨てるな!涙なしには語れない戦いして来たボク達を置いていくな!!」
「くっ、流石に早いな。だが捕まってな、兄妹! この腕が千切れようとお前たちは助けてやるからな!」
「君も妹さんも助かるんだよ!! ユア様! 頼みますからレインだけ受け取ってください!!」
帆船にエリスが風をぶつけ、一気に加速する船。そして、それを追いかけてくるアグネス達。猛追してくる厄災の魔物。
さあ、鬼ごっこの始まりです。とはいえ、結末は見えていますが。