全裸土下座されても、同性なので………
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「………この度は我が部下の」
「ごめんなさい。テイク3行ってもらっていいかしら? エリス?」
「もう、私、面倒なんだけどぉ?」
はろー。私、柚愛! 約束通り1日で解決したら、土下座されただけでも困惑しかないのに、その上全裸で頬を赤らめたアグネスがいます? 帰っていい? だめ? そっかー。
百歩譲って私が『ぐへへ、いい体してんなぁ、嬢ちゃん! 抱かせろ!』となると思ったんでしょうか? そんなのが女神だなんて、どう思います? 普通に怖いですよね?
え?別にいいじゃんって? ふふ、身長180cmの顔に傷跡がある顔のいいお姉さんに全裸正座で待ち構えられた事のあるやつだけ言ってなさいよ、こらぁ。
一応エリスを通じて、要求には応えていただけたようで、3回目には普通な服装になっていた。2回目なんて腹を切るつもりで剣を渡されましたしね。よし、まだ威圧感あるけど許容範囲内。
「………貴殿に対するさまざまな不敬をここに詫びさせて頂きたい。無論、貴女様の怒りが収まらぬのであればこの首すらも差し上げる所存。だが、どうかノイズを潰す事だけはご容赦願えないだろうか!」
だけど、完全に覚悟完了してるのだけはどうにかならないですかね。別に私は死ぬ事が決まってるキャラとはいえ、危害さえ加えなければ見逃しますのに。
それに彼女が働かなければ、私は地球には帰れませんしね。送還魔法もある以上、どこかで王宮を占拠するなり取引するなりしなくてはなりません。
そんな野蛮な事、体力赤ちゃん以下の私には到底不可能です。時間があれば、着実に侵略はできると思いますが。面倒ですし、やりたくありません。
「許すも何もありません………貴女達は私にそうであれと作られた存在です。貴女達が私に不敬を働くことも、疑う事も私が与えた役割に生きているのだから………全ての責任は私にあるはずですよ?」
「っ!? しかし、それでは………」
「それよりも貴女には優先すべきことがあるのでしょう? 厄災を自らの手で収めた成功を見せれば、反抗的なメンバーも貴女に従順を示す筈です。謝罪をしている暇があるならば──私を元の世界に帰す為に働きなさい。それを贖罪として受けましょう」
であるなら、女だからと舐められてるとはいえ亜人全体に意見を通す事のできる彼女を利用した方がいい。今回の件で彼女は私に歯向かうことはなくなるでしょう。
「だから期待していますよ。アグネス」
「──はいっ!!」
アグネスの目に光が宿る。闇の中に光明を見つけた彼女の瞳は今までよく見てきたそれ………私を信奉する者たちの目だ。
存分に働いてくださいね。さすれば、貴女にはきちんと報いてあげますから。
さてさて、結果として厄災含めてアグネスの信頼も得たわけですが、後始末も含めて3日は里に居座ることになりました。
妹の病が治ったとはいえ、すぐに他人の看病に行こうとする彼女から目が離せないことや、今回の件からアグネスに対する耳人族の印象変化もある事でしょう。
そして、私は………耳人族というかエルフの皆様に囲まれています。見渡す限りの美形。目の保養どころか視力が良くなりそうな始末。
「あ、あのユア様! うちの子に名前をつけてくださいませんか!?」
「でしたら、ロビンと。邪悪な王に立ち向かった勇敢な義賊の名です」
「ユア様! 過去の歴史において聞きたいことがあるのですが!」
「聖女の記載が間違っていますね。初代聖女は王族に嫁入りする前は地下アイドル………陽の光が届かない偶像だったようですよ」
「ユア様! こちら、本日のお供えになります。神々の国ではこちらの果物を沢山絞ったものをお飲みになるとか」
「わぁ、ありがとうございます。お礼に神々の知識を授けましょう」
滞在中、里で一番高いツリーハウスに案内され、毎日新鮮な果物や野菜などを頂きつつ、お付きの美男美女のエルフ達に世話されております。
ただ、彼女らに料理という概念はないらしく、神々の知識として果物と野菜を使った料理を幾つか伝授しました。
転生してきた聖女達も王宮でこんないい目にあってるんですかね。聞いた話だと、今回で5回目らしいので受け入れ態勢や和食なんかも王宮では作られているようですが。
しかし、食って寝るだけでは威厳もクソもないのでそれなりに女神として活動してるわけです。
会合場所は大木に彫られた図書館ですが、エルフの図書館といえど馬鹿にはできない蔵書の量です。
長生きする種族だからか、歴代5人の聖女達についても記されている他、厄災の内容に加えて、私がこの世界でどう扱われているかも書かれています。
ご飯と睡眠以外は森の中をお散歩したり、ここで本を読んでたりします。今日はこの世界の歴史が私の設定したものと同じか、図書館の管理人を側に置き、調べ物中です。
「へえ、私ってこの世界を生み出した『運命神』に加えて、『文学』を司る女神として伝わってるんですね」
「ほっほっほっ………まさかユア様本人が私の書いた内容を読むだなんて思いませんでしたなぁ。長生きはするもんですじゃい」
「しかし、気になるのは何故人間からは邪教の女神として扱われているのですか? 私は唯一神として信奉されていると思ったのですが」
「それがですのう………どうも、初代聖女がいらっしゃるまでは人間もユア様を信奉していたようですじゃ。しかし、代を重ねるにつれて、ユア様よりも聖女、特に初代を王族が中心となって国教にしたようですじゃ」
「そうですか。まあ仕方ない事かもしれませんね。世界や法則を作ったあとは放置してましたから、愛想をつかれても文句は言えないですね」
「ユア様ともあろうお方が何をおっしゃるのですか!! 現にユア様は我らの祈りを聞き届け、助けて下さったじゃありませんか!」
「私は大した事はしていませんよ。私はただ、アグネスに神託を下したのみです」
管理人の賞賛に私は謙虚にアグネスに全て押し付ける。亜人は全体的に結果主義というか弱肉強食の種族だ。誰もが頷く結果、特に厄災の解決など尊敬こそあれど文句はでないはずです。
「ふむ、確かにユア様のお力添えがあったとはいえ、神託を受け取り被害を軽微に抑えた活躍は確かに賞賛すべきですな」
現に管理人のような老エルフ達も彼女に対する評価を変えているようです。病気で倒れていたエルフやその家族は言わずもがな。
聖女やその一味がいなくても厄災を退け、助かるという希望が出てきたのも背中を押しているのでしょうね。
それに、かつては鳴皇とも呼ばれたアグネスに舞姫候補まで行ったエリス、そして『泡沫の福音』と謳われたレインがいれば………あっ!?
「ど、どうなさいましたか!? ユア様!? そのように慌てまして!?」
「忘れてた!? まだ間に合う………? いや、間に合わせないと対抗馬がいなくなる………! アグネスを読んでください! 神託が降りました! 時間の勝負です! 急いで!」
「は、はっ! 直ちに!」
私の鬼気迫る表情に、管理人はすぐさま図書館を出ていくと、直ぐに慌てた顔をしたアグネスがエリスを引きずってやって来た。
「どうなさいました!? ユア様!」
「アグネス! 至急、あの霧が出る海域………な、何とかモルガナ………」
「『ファタモルガナ海域』ですか?」
「そう、そこ!! あそこに飛ぶ事は出来る!?」
「も、申し訳ありませんがボクの闇の回廊は行った事ある場所にしか行けないので………」
「そうよね、ごめん!! じゃあ、今すぐその霧の海に向かうわよ!」
「待ってください、ユア様ぁ! 理由がなければ幾ら神託だろうとノイズは動けませんよぉ!?」
「移動しながら話すわ! 簡単に言えば、聖女に対抗する歌声がもうすぐ消えるかもしれないの!」
私の言葉に2人は息を呑むとすぐさま闇の回廊を開き、私をつれて飛び込んだ。恐らくは船でその海を目指すしかないのだろうが仕方ない。
何を置いてもまずは、彼女を抑えなければ亜人達の勝ち目はぐっと低くなる。私とした事が色々な事ばかりですっかり抜けていた。
『泡沫の福音』レイン・サージェス。聖女の歌に対抗できる魔性の歌を持つ………人魚姫。
2番目の厄災を引き起こす原因になった彼女が、霧の海を行く──幽霊船に囚われているのだから。