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厄災1『御神木に取り憑いた蟲の討伐』

ブクマありがとうございます。

感想もあれば励みになります。

 さて、早速ネタバラシをすると、今回の件は御神木に取り憑いた毒蟲による影響である。

 御神木の内側に取り憑き繁殖した子供の蟲は肉眼でかろうじて見えるレベルで、それが御神木から近くの川に流れ込み、その水を飲んだ事で体内に毒蟲が宿り、蟲が成長するまでに発生した毒で人々は倒れていくのだ。


 詰まるところ、その蟲を殺せばいい話なのだが御神木の内側に母たる毒虫(1章ボス)がいる為、御神木を切り倒す必要がある。

 しかし、御神木を切り倒す!なんて真似をいきなり人間の聖女が提案しても、はいそうですか。なんて行かないのが人生だ。


 猛反発を食らった挙句、聖女と攻略対象は監禁されて舞姫が来るまで励まし合うというイベントもあるがさておき。

 結局、成長した毒蟲が御神木から飛び出してきた事で聖女たちは無事に倒し、毒蟲を規制された人間たちは聖女の歌によって浄化されるという結末だ。


 この章の役割は協力関係にある亜人達が人間を敵視しているところの描写と厄災の恐ろしさを教える事だ。

 ゲーム上、クリア時間がかかればかかるほど、死者が増えていく中、おつかいイベントばかりさせられるのはやきもきするだろう。


 なら、最初からこちらにその里の権力者がいたならば………?


「エリス。本当か? 御神木の内側に………蟲が寄生しとるじゃと?」


 森の中に作られた里のツリーハウスのような一軒家の中で、耳人族の姫君であるエリスが床に伏せたままの自分の祖父である長老と向かい合っていた。

 因みに私はベールを被らされ入口に待機中です。病で倒れた者たちが私の姿を見ればお迎えと勘違いするかもしれないからと。


「はい。長老様。貴方達は特にあの恵みを敬愛していた筈です。それが原因となり、まず貴方達から感染が始まり、7人もいた長老は貴方だけになってしまいました」

「………そうか。つまりは儂らは選択を誤ったのだな?」

「ですが、まだ間に合います。御神木を切り倒し、中の寄生蟲を殺せばいいのです。里の未来と御神木1本。どちらが大事かなど考える必要もないでしょう!!」

「しかし、エリスよ………主も分かっている通り、あの御神木はユア様から授かったものじゃ………神からの授かり物を切り倒すわけには………」

「なら、許しを乞いましょう。ユア様なら分かってくれる筈です」


 その言葉を引き出した時点でエリスは、入口付近で待機していた私に目を向ける。私はゆっくりと入口から中に入り、ベールを脱ぎ捨てる。

 長老の目が、大きく見開かれ、その瞳を涙が伝った。えーと、確か彼の名前は………


「よく頑張りました。ウィリアム。貴方の頑張りはずっと見ていましたよ」


 膝をつき、彼に目線を合わせたまま私は彼の手を握る。こんな皮ばかりの骨ばった手では弓の名手と呼ばれた彼の技量はもう消えているだろう。


「雪のような白髪に、血のような赤い目、ま、まさか………本当に、ユア様なのですか………?」

「ええ。貴女達の祈りを受けて、アグネスによる呼び出しに応じさせて頂きました。こんな手じゃ、息子の頭に乗せたリンゴを落とせるんですか?」

「おお………おお、その話は私と息子しか知らない筈………本当にユア様なのですね。ずっと見ていてくださっていたのですね………」


 感極まったウィリアムの瞳から涙が止まらない。そりゃ、自分達が死ぬ瀬戸際に神が救いに来ましたとか言ったら感激もするだろうとは思っていたが、ちょっとこちらの予想を超えるガチ泣きだった。


「本題に入ります。ウィリアム、さっさと御神木を切り倒しなさい。私が与えた苗木より私を信じてくれた貴方達の献身の方がよほど価値があります。選びなさい、ウィリアム。里の未来を!」

「………これが聖女風情やアグネスの小娘なら一笑に伏していたじゃろう。じゃが、貴女様の言う事に反対するものなどおりますまい。エリス!」

「はっ!」

「お主の采配で御神木を切り倒せ! 今、里にいる強きものはお主しかおらん! 我が里を蝕んだ元凶を必ず殺すのじゃ!」

「お任せを! 長老様!」

「………そして、無事に帰ってくるのじゃ。儂は孫娘達まで失いたくないのじゃからな」

「──私は死なないわ、お爺ちゃん」


 ウィリアムは最後の力を振り絞って、体を起こすとエリスに指示と激励を下す。エリスはウィリアムを安心させるように笑って長老の家を出ていくのだった。


「流石はユア様ねえ………あの頑固なお爺ちゃんが、こうも簡単に首を縦に振るとは」

「エリスのおかげですよ。『姫君であるエリスが連れてきた』この事に信頼という箔がついたんですから。私だけでは、アグネスみたいに疑われますからね」

「あ〜そのぅ。アグネスの事は………」

「分かっています。貴方を含めた5人の枢機卿から認められておらず、手柄ばかり焦り、今の彼女には余裕が無いことも。その程度で目くじらは立てませんよ」


 私の言葉にほっと息を吐いたことから、かなり心を砕いていたらしい。自分達の主人が信仰する女神に喧嘩を売っているのだ。

 そんな所を他の枢機卿が見れば、反旗を翻されてもおかしくは無い。


「それにしても、今からすぐで大丈夫ですか? いくら貴女が『魔弾の射手』と呼ばれる弓の名手でも単独は結構厳しいと思いますよ?」

「分かってますよぉ。だから、アグネス様のお力を借ります。まず単独で私が削り、いい感じに危機になったらアグネス様が助けに来る。手筈になっていますので」

「おや? 私が1日で全部解決する話ではなかったんですか?」

「アグネス様なら、お爺ちゃんに喧嘩を売って御神木を切り倒す事すら出来なかったのでぇ。それにユア様には既に感染してる同族達の対応をお願いしたいのですがぁ」

「それなら簡単です。毒蟲を倒した後、御神木から『信仰の楽譜』が出てきますから」

「っ!? あの『美徳の楽譜』の1枚がですかぁ!? しかし、それは聖女が歌わなくては効果を発揮しません。ですが聖女は………」

「それを使うとは言ってませんよ。考えてみて下さい。聖なる力を持つ楽譜が何故御神木の中に入っていたのかを」

「それはユア様から頂いた御神木は聖木と呼ばれる存在でぇ………まさか!」

「そう。母たる毒蟲はその聖なる力を吸収し、成長してましたが、幼体に取ってはそれこそ猛毒。故に御神木から逃げ出し、川に流れ込んだのでしょう」

「なら、その御神木から汚染箇所を除去し、薬に煎じれば虫下しとしては使える筈ねぇ!!」

「聖女の歌ほど即効性はないでしょうが、今の段階ならまだ間に合う筈ですよ。聖女がこの国に来る頃には汚染が進みすぎて間に合わなかったでしょうけど」

「よかったわぁ! それなら、妹も救えるわぁ!」


 エリスの妹はあの御神木の巫女たる存在だった筈。そのせいか聖なる力を浴びていたおかげで毒蟲の耐性も高く、他の病人の看病に回っていた。

 だが、耐性があるだけで無効にはできず、病人からさらに毒蟲が移り、彼女は倒れてしまった。


 原作だと聖女の歌でも間に合わず、エリスは聖女を逆恨みし、立場を奪われた舞姫と共に命を狙うようになるのだが、それは別の話。

 

「それではユア様はこちらで待機をお願いします。ここから先は戦場なのでぇ、その木の影から飛び出さないように」

「ええ、気をつけてくださいね?」


 私が手を振れば、エリスはどこからか弓を取り出し、風を編んだ矢を番える。耳人族は風属性が得意だと設定をつけたが、果たしてどうなるか。


 まあ、結果としてはエリスによる風の弓矢が御神木を撃ち倒し、出てきた毒蟲の山を台風でまとめ上げた所をアグネスが全て闇で飲み込んだので無事解決したのだが。


「………許しを乞うのが楽しみとは言いましたが、これは予想できていませんでした」


 なんでアグネスは全裸で跪いているのでしょう。

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