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3/10

作者だから知ってる事。

 さて、改めてストーリーをおさらいしよう。

 『聖女の伴侶はラブソングが歌えない』という乙女ゲームはある日、異世界に呼び出された主人公が聖なる歌姫(聖女)として異世界を救う話だ。


 親友枠兼好感度管理役の『舞姫』と共に4人の攻略対象を連れて、『ノイズ』という世界の流れを乱す邪教と闘うのだが、ノイズはノイズで流れを乱す理由がある。


 ノイズはいわば人間のはみ出しもの。角や爪、獣や龍などが入り混じった人間…………すなわち亜人と呼ばれる種族から出来た50年毎に発生する『厄災』への対抗組織なのだから。


 つまり、目の前にいるエリスはエルフ(耳人族)であり、アグネスもまた亜人である。とはいえ、黙っていれば美形の男性と思わせる顔立ちなのだが。


 いや、本当に顔がいいですね。

 イラストレーターの方、ありがとうございます。


 とはいえ、ただ顔がいいだけでノイズの女教皇を勤めているわけではない。彼女は亜人の中でも唯一の特別な種族なのだから。


「さて、それじゃあ脱出しましょうか。早く、闇の回廊を出してください」

「それすらもご存知でいらっしゃるのですね、ユア様。それではボクの種族も………」

「当たり前でしょう? あらゆる種族の母にして、欲望から生まれた性なる存在──サキュバスの女王。そういう風に設定したんですもの」


 男性の振りをしていても意味はない。彼女が本気を出せば、溢れる色気が世の男性を虜にするのだ。逆に言えば、だから男装をしているとも言えるけど。


「亜人の種族は5種類。耳人、龍人、鬼人、獣人、魚人。ただし、稀に人間から生まれる亜人………魔人がいる。貴女はその生まれで、世にも珍しい闇属性の魔法が使える。違いますか?」

「流石です、ユア様。いかにも、ボクは闇属性の魔法を扱えます。種族ごとに決められた魔法属性………中でも光と並んで唯一とも言える闇を」


 口元は笑っているが、目は笑っていない。私を怪しんでいるようだけど、当然ですね。むしろ、女神を名乗りだした女を無条件に信じる程馬鹿ではない事が分かって嬉しいくらいだわ。


 まあ、見抜かれているのだから私の掌の上なのには違いはないのだけど。


「ふふ、それじゃあ移動しましょうか。早くしないと見回りがきてしまいますからね」

「それではお手をユア様。道案内はボクが勤めましょう。エリスは殿を頼む」

「り、了解!」


 にこやかな笑顔で私の手を取る彼女の目に、漆黒の意思が見えた。いざとなれば、自分と差し違える覚悟を持った黒い意思。

 毒を食らわば皿まで。毒を以て毒を制すると言わんばかりの対応に私もまた笑みを返す。


 貴女が理知的に私に対応するならば、貴女の悩み全てを解決してあげましょう。そうでないなら、死の運命が貴女を待っていると伝えるために。


「なんか、空気寒くない? 2人とも怖いんだけどぉ」


 エリスへのアフターフォローはきちんとしましょうか。後ろから刺されたりしたら嫌ですからね。


 そう決めた私はアグネスに手を引かれ、黒く渦巻く空間に身を委ねる。目を開くが、真っ暗闇だ。これは手を離されてしまえば迷子になるのは間違いない。


 しかし、アグネスは手を離せない。離したくないではなく、離せないのだ。何せ、今の彼女は全員が敵とも呼べる状況なのだから。


 私が書いたゲームの話に戻そう。『厄災』とは亜人の里で起きている謎の現象である。

 曰く、病が流行り魔法をかければすぐさま死ぬ。

 曰く、魚が取れなくなり、仲間たちがどんどん消えていく。

 曰く、砂漠のオアシスが枯れてしまった。

 曰く、火山で眠っていた怪物が目覚めた。

 曰く、弔っていた死者たちが蘇る。


 これら全てを解決するのが聖女の歌であり、舞姫の踊りで、鳴皇の演奏なのだ。

 しかも、聖女は別世界の女性でないと成立しないという謎のルールもある為、この世界の人はそれは聖女を崇め祭る。


 その結果、人間が厄災が起きる度に鎮めた事で次第に対等であった6種族は人間の国を起点に5つの配下として国、というか里を築くようになった。


 そうなれば必然、差別が生まれる。下等種族だと人間が調子に乗り出したのだ。亜人を奴隷に、作物や海鮮物すら交易という名の搾取をして、あの国は大きくなっていった。


 まあ、誰が悪いかと言えばそんな歴史を設定した私が悪いのだけど、そんな歴史を変えようと立ち上がったのがノイズという組織だ。


 『聖女に、人間に頼らず厄災を抑える』


 綺麗な信念だった。輝くような目標だった。

 それが1度も為されることはなく、聖女の邪魔ばかりする邪教と謳われるのに時間はかからなかった。


 アグネスもまたその信念に矜恃を持つが、その結果が芳しくない事や女である事が舐められる原因にもなり、結局種族の心を1つにまとめる事は出来なかった。


 結果、歴史は繰り返すように人間に亜人たちは救われ、ノイズを裏切り、女教皇アグネスは失意のまま、聖女と対決し、僅かな救いを得て眠りにつく。


 かわいそうだなんて、私が言えるはずもない。そうなるように仕向けたのは私だし、メインストーリーじゃあ決して明かされない話だ。


 一応、DLCとして書いたはいいが発売はまだ先だったので聖女としてちやほやされている彼女ですらこの事は知らない。


 そこが私にとっての有利な点。

 作者にしかわからない裏設定という奴だ。

 

「もうすぐ、着く。手を離すなよ」

「離しませんよ。私達は一心同体ですから」


 その設定を持って、貴女のスピンオフを書いてあげますよ。アグネス。

 貴女が正真正銘、世界を救った女教皇として歴史に名を残す為のね。


 目の前が黒から白へと変わる。眩い陽光が目を焼くようだった。目が慣れた頃に見渡せば木々の隙間から漏れた光に照らされた暖かな森林に私達はいた。


「つきましたよ。ここがボク達の拠点です」

()()()()()()()()()()()()()。ここは貴女の里ですよね? エリス。まずは力試しという事ですか? 流行病に晒されたこの里を救ってみせろと?」


 肩を振るわすエリスに、眉を顰めるアグネスに私は咳払いをして、あえて強気に出る。少し、釘を刺さないと、流行病にかかったら見殺しにされそうだ。


「求める事も、やらせたい事も貴女の全てが語っているんですよ。私を怪しむのも分かりますが………不敬である事。それも理解しておきなさい」


 ちょっと、低い声が出た。あ、エリスの体が可哀想なくらいに震えてる。アグネスがいなければ、土下座してそうなくらいだ。

 

「………失礼を承知で言わせていただきます。ボクは貴女を認めてはいない。この身は確かに神から授かったものではありますが、貴女が神である保証はない!!」

「まっ! ちょっと!? アグネス様!? 私達も巻き添えにして殺す気ですか!? 自殺なら1人でやって下さい!!」

「いいですよ。エリス。その程度では揺らぎませんよ、私は。ですが、私の力がその程度だと見積もられるのもむかつきます。だから、賭けをしましょう」

「賭け? 何を賭ける気だ?」

「私が流行病を1日で解決したならば、貴女は私を神だと認めなさい。逆に私が失敗したなら、その時は好きにしていいですよ? 売るなり焼くなり、孕ませるなり、なんなりと」


 瞬間、空気が重くなった。少なくとも、エリスは膝をつき、息すら出来なくなるほどに。

 並々ならぬ敵意ですが、それでも殺意がなければ、私を屈服すらさせられません。


「神とはいえど、二言はないな?」

「今から楽しみですよ──貴女が許しを乞う時が」


 さあ、始めましょうか。

 第1章『御神木に取り憑いた蟲の退治』をね。

ブクマ、評価ありがとうございます。

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