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短編

スライム狂いの冒険者

作者: 空途

 グルメ描写って難しい……。



 今日も俺は森に入る。

 一応冒険者なので、ギルドからの依頼を幾つかこなして、いつもの(・・・・)はそれからだな。


「お、よーす……って、お前かよ」


 森から出てきた冒険者。俺の姿を見た途端、すごく嫌そうな顔をした。知り合いではない。彼は依頼をこなした後なのか、服が土で汚れている。

 こんな朝早くから働いているのか。すごいな。素直にそう思った。


「よーす」


 俺は人だ。幾ら相手が野蛮な冒険者でも最低限の礼儀は示したい。挨拶が出来る冒険者なら尚更だ。

 なので挨拶を返した。フレンドリーに見えるように、片手を頭の位置にまで上げて。なんて偉いんだろう、俺。


 彼はそんな俺を無視すると明らかにわざと肩をぶつけてそのまま行ってしまった。性根も泥に塗れているらしい。困ったものだ。


 今から彼をつけて行きタイミングを見計らって裏路地に連れ込んで立場を『分からせて』やってもいいが、あまり時間を取られるようなことはしたくない。


 まあ、今日はいいか。顔は覚えた。これで次会ったときには友達だ。


 髭面のおっさんを頭の中で思い浮かべながら、森に入った。




 今日冒険者ギルドから渋々ながら請け負った依頼は『ゴブリン村の殲滅』『オーク三体の討伐』の二つだけだ。


 最低限依頼をこなさなければギルドから除名される。除名されれば魔物溢れるこの森に立ち入ることが禁止される。それは良くない。


「コノアクマッ、死ネェエエエエエエッ!!」


 死んだフリをしていたゴブリンの攻撃を即座に避け、首元に短剣を当てる。そしてなぞる。それだけでゴブリンの首元からは鮮血が噴き出た。


 ピクリ、ピクリと痙攣するゴブリンを見下ろしながら俺は思う。


 さっきから聞いてて思うんだが、人を悪魔呼ばわりは酷い。酷すぎる。殲滅されて当然だな。あ、死んだ。これで真の悪魔は滅びた。


 すっかり静かになってしまったゴブリン達から片耳を切り取って、腰にある魔法袋(マジックバッグ)にポイポイと入れた。これは異次元に物をほぼ無限に収納できる優れものだ。いつもお世話になっている。


 オークの依頼はゴブリン村の前に済ました。オークはゴブリンよりも強めだが、動きが鈍いのでやりやすい。


 よし、集め終わった。


 俺は血溜まりに沈んだ村を後にし──ようやくいつものこと(・・・・・・)をする。


 森の中を探索すること数分。俺の両目は不定形の魔物の姿を捉えた。


 それは──


「ぷりゅ〜」

「スライムちゃん今日も可愛い可愛いねフヘヘ」


 ──スライムだ。


 俺はハァハァしながらこの森ではよく見かける水色スライムに詰め寄る。


 大きさは、俺の拳のサイズほど。まだ生まれて日にちが経ってないのかな? 可愛いね。ハァハァ。


 俺は過去のある出来事によってスライムに……恋してしまった。いや、恋では説明がつかない。もはや愛だ。


 とにかく、俺はこの世にいる全てのスライムを愛している。これは胸を張って言えることである。


「ぷ、ぷりゅりゅ〜!」


 詰め寄る俺にスライムはまるで警戒するかのように、怯えているかのように後退りする。


 俺はそれを見て、自分の感情の堰が外れるのを感じた。


「……なんで? 俺はこんなにも君を愛しているのに。なんで受け入れてくれないんだよッ……!」


 視界が怒りのあまり赤に染まる。俺はつい溢れる激情に身を任せてしまった。


 ……ハッ。


 気づくと、手には太陽の光をキラキラと反射して輝くゲル状のものが。見回すが、さっきのスライムはどこにもいない。


 あぁ、まただ。また、やってしまった。


 いつもこうだ。スライムは俺と他の冒険者とで反応が違う。他の冒険者には嬉々と触れ合いに行くのに、俺には来ない。それどころか避ける。悲しい。

 そうなると、我慢できない。どうしても、愛が暴走してしまう。嫉妬心が芽生える。

 なんて身勝手な想いなんだろう。


 君達がいなければ、俺は今、ここに立っていないというのに。


「ごめん、ごめんな……」


 俺は、動かなくなってしまったスライムに話しかける。さっきまでプルプルしていた君は、もういない。


 だけど、不思議と手の中のスライムの気持ちが伝わってきたように感じた。俺はどうにかして笑顔を作り、それに応える。


「……いいのか?」


 動かないはずのスライムが、頷いたように思えた。


「そうだな」


 今度こそ、心から笑顔を浮かべた。


「俺と君で、一つになろう」


 俺には、スライムがこう言っているように感じた。


 ──私を食べて、と。



 ◇



 スライムへの愛を自覚してからは、その感情は日増しに大きくなった。


 今では食べちゃいたいぐらい愛している。


 なので食べる。当然のことだ。


「なんて愛おしい」


 俺は、清潔な布の上に寝かせてある、これから一つになるスライムに熱い視線を送りながら魔法袋(マジックバッグ)から調理器具を引き出した。


 さて……今日の君は、どう食べてほしい?


 声には出さず、心で問う。俺とスライムは好き合っている。だから分かる。心が通じているのだ。


「……そっか。今日は王道に焼く、か。大丈夫。残したりなんかしないさ。愛してる」


 スライムはその水色の体を赤面させた(ように俺は感じた)。


「赤くなってる。照れてるのかな? 嬉しいな」


 そう軽口を叩いている内に準備ができた。


 即席バーベキューセット。火魔法で生み出した火炎が熱を放っている。そこにスライムをそのまま乗っける。


「火加減はどうかな? 気持ちいい? 良かった」


 途中で火力を抑えたり、強めたりすること十分。


 俺の眼前にはカリカリに焼けた愛しいスライムがあった。


 スライムは種類が多く(だが俺は全てを愛している)それぞれ微妙に違ってくるが、体の構造はほぼ共通で、大きく分けて二つある。


 体の大部分を占めている、粘液。

 大体真ん中にある、丸くて固めの核。


 以上だ。


 粘液部分は熱を通せば、海にいるというクラゲ?に似た食感となる。動いているときは水だ。


 核は石みたいな感じだ。味もそんなにしない。だけど愛するスライムの一部であることは変わりないので食べる。


「それじゃあ、いただきます」


 俺は簡易テーブルセットに座ってから、そう断って、焼けて色の濃くなったスライムにナイフを入れる。少し抵抗があった。


 一欠片をフォークに突き刺し口に運ぶ。


 はむ。


「あぁ」


 俺は思わず嘆息した。


「美味しい……」


 一口入れると広がる濃厚な土の味。

 コリコリと楽しい食感。


 五感全てでスライムを感じられる。なんて幸せなことなのだろう。


 俺は我慢できなくなり残りを勢いよく口の中に掻っ込んだ。


「……ふぅ」


 長く余韻に浸った後、満足のため息をつく。


 これで、君と俺は一心同体の存在だ。


 愛する者と一生を共にする、これほど嬉しいことはないだろう。


 ふと空を見ると、橙色に染まっていた。森に入ってから十時間ぐらい経ったのか。


 俺は腹を撫でながら囁いた。


「ごちそうさま」


 お粗末様でした、そう聞こえた気がした。



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― 新着の感想 ―
[良い点] スライムを愛しすぎてスライムを食す。 周囲からすればゲテモノ食いにも見えてしまうかもしれませんが、 これもまた一つの愛の形なのかもしれませんね。
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