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4、次の婿探し

 メイベルとの婚約を解消し、シャーロット・クラインと結婚したい。


 サイラスの訴えは、当然ながら波乱を呼んだ。教会のトップであるイヴァン教皇は大激怒して、絶対に認めんと青筋を立てていた。教会を支持する貴族側も、あんまりではないかと反対した。


 けれど最終的に、サイラスとシャーロットの結婚は認められた。彼の熱意がみなの心に通じた、というのではなく、陛下と宰相であるエヴァレット公爵が本人たちが納得しているのならば、それを尊重すべきだと口添えしてくれたからだ。教会はそれでも納得し難いようであったが、国王の意志に反するのかと脅され、渋々頷いたのだった。


 こうして、メイベルはサイラスの婚約者から外され、長い王妃教育を活かすこともなく、独り身に戻ったのだった。


「ありがとう。メイベル。本当にありがとう!」


 サイラスは満面の笑みでメイベルの手を握った。女性の手に軽々しく触ってはいけないというのに……まったくとメイベルはため息をついた。


(こんなんで本当に大丈夫なのかしら?)


 長年の婚約者と別れてすぐ別の女と結ばれる、というのはさすがに体裁が悪いので、一年間の婚約期間を経て結婚という形になった。


(その間に色々と臣下は画策するでしょうけど……私の知ったことじゃないわよね)


 メイベルはこれ以上王宮内のいざこざに巻き込まれるのは勘弁願いたかった。これからは修道院に引きこもり、神に身も心も捧げよう。


(そうよ。私はもともと聖女。神に仕える身。あるべき形に戻っただけだわ)


 むしろこのために神はシャーロットという女性をサイラスに用意した。だから自分はさっさとここを立ち去るべきなのだ。そう思ったメイベルだったが――


「メイベル! お前にも新しい、相応しい夫を探してやるからな!」

「は?」


 新しい夫? 相応しい夫? 何を言っているの?


「馬鹿じゃないの」


(あっ、しまった。つい本音が……)


「ば、馬鹿じゃない!」

「いや、馬鹿よ。なんで振られたけど、次探そうぜ、イエーイ! って考えるわけ? 頭の中綿じゃなくて綿菓子でできてるんじゃないの?」


 息を吸うように毒を吐くメイベルにサイラスはじゃっかん涙目だ。だが彼はなかなか根性のある男だった。


「お、俺はお前にも幸せになってもらいたいんだ! だから相応しい婿をお前に紹介したい!」

「あなたのせいで不幸になった、っていう自覚はあるの?」

「もちろんある!」


 当たり前だろ! とサイラスは叫んだ。どうやら彼は本気でメイベルのことを考えているらしい。だからといって素直に受け取る気にはなれないが。


「……気持ちだけ受け取っておくわ」

「メイベル!」

「私は別の誰かと結婚するつもりはない。もともとあなたの婚約者になったのも、亡き王妃様の頼みだったから……あなたがシャーロット様と一緒になるのなら、私はもう誰とも結婚する必要はない」

「メイベル……」


 湿っぽい空気が流れ、メイベルはもうと怒った。


「私のことはいいから、あなたは自分のことだけ考えなさい! シャーロット様にはまだ味方がいない状況なのよ? 頼りになる侍女はつけた? 王妃教育を担ってくれる優秀な教師も!」


 矢継ぎ早に質問すれば、自分の話は終わりだ。サイラスも諦めるはず……なのだが、今回の彼はやけにしつこかった。


「それはきちんと考えている。今はお前のこれからが大切だ」


 いつにない真剣な表情で言われ、メイベルは黙り込んでしまう。


「お前は結婚するつもりはないと言ったが、教会側がそれを許すとでも思ってるのか?」


 思っていない。彼らは何としても政治に介入する手立てを考えるだろう。


「俺はお前のことを婚約者としては見れなかったけど、それでも大事な人間だということに変わりはない。俺の納得のいく人間をお前の伴侶として紹介させてくれ」


 なっ、と肩を叩かれサイラスは笑った。メイベルはサイラス……と感激したように彼を見つめ――頬を思いっきり抓ってやった。


「元はと言えばあんたがこんな直前まで言い出さなかったことが原因でしょうが~~~!!」

「い、いひゃい、いひゃい。ちぎれる!」

「そのまま千切れてしまえばいいのよ! この馬鹿王子が!」

「ご、ごめんなさい。ゆるしてください!」


 散々抓って、引っ張り、真っ赤になった頬と、涙目になったサイラスにようやくメイベルは腹の虫がおさまった。


「はぁ、はぁ、もういいわ。それで? どんな人を紹介してくれるの?」


 こうなったら腹を括ろう。教会側が新たに見つけてくる相手より、サイラスの方がいい人間を見繕ってくれるだろう。


(なるべく中立の立場がいいわね。あとそんなに古い歴史を持たない家系……)


 後ろ盾が大きすぎると、何かと面倒だ。ほどほどがよい。


「ヴィンス・ラザフォードだ。どうだ? イケメンだし、騎士団長でもあるから腕っぷしも強い。紳士で正義感あふれる二十六歳! ご令嬢が結婚したい相手ナンバーワンだ!」


 ヴィンス・ラザフォード。もとは平民出身ながら騎士の選抜試験をトップで合格し、若輩ながらめきめきその実力を発揮し、騎士団長の座を見事勝ち取ったエリート中のエリート。


(功績が認められ、陛下から爵位を賜った。一代限りのものだけど、逆にそれくらいがいいかも……)


「な? どうだ? 俺には負けるが、イケメンだぞ?」

「そうね……一度、会ってみるわ」


 別に顔の良し悪しは気にしないが、せめて常識人であってほしい。


「よし! さっそくお見合いをセッティングしよう!」


 結果として、ヴィンス・ラザフォードは申し分のない好青年であった。


 サイラスが言った通り、正義感あふれる紳士で優しい、凛々しい顔立ちのイケメンであり、騎士服の上からでもわかるほどの鍛え抜かれた逞しい身体つきは、抱きしめられたら胸がきゅんと締め付けらそうで、大変魅力的に映った。結婚相手として、これ以上ないほどの相手。なのだが――


「婚約者いるじゃない!!!」


 だんっ、とメイベルはテーブルを叩いた。お見合いの場として用意されたお茶会の席。和やかな雰囲気で進むかと思いきや、青い顔でやってきたヴィンスが申し訳ありませんと唐突に頭を下げたのだ。


「私には将来を誓い合った女性がいます。ですからどうかお許しください」


 と言って。一緒の席に着いているサイラスも真っ青だ。


「お、お前、なんでそんな大切なこと事前に言わないんだっ……!」

「す、すみません。まさか聖女様との結婚を勧められるとは思っていなくて……」


 どうやらサイラスはサプライズのつもりで何も話していなかったようだ。本当にこの王子は……とメイベルは用意された紅茶をぶっかけたくなった。


(でもそうよね。こんな素敵な人なんですもの。周りが放っておかないわけないわよね……)


「あ、相手はどこの誰なんだ?」

「……ガルス商会の娘です」


 なんだ、とサイラスは露骨に安心した表情を浮かべた。


「俺はてっきり貴族の娘かと思ったぞ。商会の娘か。ならその娘とは別れてメイベルにしておけ。教会の恩恵も受けられるぞ」

「この馬鹿ッ!」


 スパーンと手にしていた扇でメイベルはサイラスの頭を叩いた。いたっ、とサイラスが頭を抱え悶絶する。殿下っ! とヴィンスが思わず席を立つ。


「~~~~メイベル。さすがにそれは痛いぞ!」

「お黙りっ! あんたの言葉の方がずっとヴィンス様を傷つけてるわよ!」

「なっ、俺はお互いのためにと思って!」


 何がお互いのためだ。ただ権力を盾に恋人たちを引き裂こうとしているだけじゃないか。


「あなたがしていることは、あなたとシャーロット嬢を別れさせて、私と無理矢理結婚させるようなものよ」


 サイラスは目を見開き、傍らにいるヴィンスを見上げた。


「ヴィンス。その娘を愛しているのか?」

「……はい」


 ヴィンスは目を伏せ、躊躇いながらもしっかりと頷いた。サイラスもそれでようやく自分のしようとしている非道さを自覚したようだ。


「そうか。俺はてっきり政略結婚だと……それはすまないことをした……」

「いえ。私も今まで何も言わなかったので……」


 昼下がりの実によい天気なのにまるで土砂降りのような重苦しい雰囲気。がっくりと肩を落とす男二人に、メイベルはやれやれと思った。


「もういいですわ……ほら、殿下もヴィンス様も。いつまでもそんな暗い顔していないで、せっかくのお茶会なんですから楽しみましょう」

「だがメイベル……」

「一生を共に歩む相手なんだから、そんな簡単に出会えるわけないでしょう?」


 メイベルはそう言って、不安げな顔をするヴィンスにもにっこり微笑んだ。


「ヴィンス様。お見合いの件はきれいさっぱり忘れて、婚約者の方とどうか幸せになって下さい」

「メイベル様……」

「さっ、暗い話はここまで。せっかくこんなに美味しいお菓子を用意してくれたのよ? 食べないと料理人たちが泣くわよ?」


 ほらほらと二人を席に着かせ、食べるよう勧めた。


「メイベル……本当にすまない。次はもっときちんと調べてお前に相応しい相手を見つける」

「わ、私も騎士団にそれらしい相手がいないか探してみます」


 男二人の憐れむような表情にもう放っておいてくれと言いたかったが、メイベルはやっぱりにっこりと笑ってありがとうと答えた。


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