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政略結婚だなんて、聖女さまは認めません。  作者: 真白燈


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31、お人好し

「あの、わたし化粧を直してきます」

「じゃあ、メイドか誰かをこの部屋に呼びましょうか」


 メイベルの提案に、ふるふるとシャーロットは首を振った。


「一人で構いません。誰かに見つかると……面倒なことになると思いますから」

「それはそうだけれど……」


(あなたを一人にさせる方がもっと不安なのよね)


 メイベルの心配が伝わったのか、シャーロットは大丈夫ですと困ったように微笑んだ。


「それにサイラス様の様子も見に行こうと思っていましたから」

「そう、それを聞きたかったの。彼、今どこにいるの?」


 たしか最初の方はシャーロットと一緒にいたはずだが、いつの間にか忽然と姿を消していたのだ。本日の主役であると言ってもいいのに。婚約者をほったらかして。


(ほんっとにあの馬鹿王子は……)


 メイベルはイライラした気持ちで眉根を寄せた。それを見たシャーロットが慌てたように説明する。


「急な客人がいらっしゃったそうで、その方のお相手をしているそうです」

「客人?」

「はい。その、とても気難しいお相手のようでして……」


 尻すぼみになっていく彼女の口調に、あまり聞かれたくない、ごく内密の出来事であるのだろうと思われ、メイベルはそれ以上追及することはやめた。もう自分は王宮の関係者ではないのだから。


「わかったわ。でも本当に一人で大丈夫?」

「ええ、大丈夫です。後ほどまたお会いしましょう」


 シャーロットはそう言うと、部屋を出て行った。


(あとでまた、か……)


 メイベルは内心どっと疲れた気分だった。


(シャーロット様もサイラスも、大丈夫かしら……)


 二人にこの国の将来を任せていいものか……メイベルは非常に不安だった。


「――貴女って人は本当にお人好しであられる」


 メイベルはそこでようやく、と言ったら失礼であるが、ハウエルの存在を思い出した。彼は途中から一言も口を開かず、ただじっとメイベルの背後に突っ立っていたのだ。


「えっと、なにか怒っています?」

「いいえ」


 と言いながらも、自分の隣に腰かけるハウエルからはひしひしと不機嫌なオーラが伝わってくるのがメイベルにはわかった。


「シャーロット様への対応、甘いと思いますか?」

「思います」


 間髪入れず答えられた。


「でも、ほら、彼女の気持ちもわからなくもないんですよ。環境ががらりと変わると、人間ってものすごくストレスがかかりますし。身体にも、精神的にも。彼女の様子からして、すごく大切に育てられた箱入り娘なんだなってわかって、だからその……」

「私が理解し難いと思っているのはそこではありません」


 許してやってくれないかというメイベルの言葉を遮って言うと、ハウエルはメイベルに向き直った。


「どうしてメイベル様が、自分が不幸になる原因になった女性に対してあんなに真摯な対応をとれるか、心底不思議なだけです」


 メイベルはハウエルの顔を見てあら、と思った。それはいつかレイフがメイベルにおかしいと物申した時の顔とそっくりだったのだ。


(やっぱりご兄弟なのね……)


「メイベル様。聞いていますか?」

「聞いているわ」


 メイベルは微笑んだ。そんな彼女の表情にますますハウエルは疑わしそうな目つきをする。


「だったらどうして」

「さぁ、どうしてかしら」


 ただ辛くないと思ったのだ。シャーロットの口から元婚約者の名前を出されても。本来なら自分がいるはずだった場所をとられても。


 そうなの。大変ね、ってきちんと距離を置いて同情することができた。


(どうしてかしらね)


 答えはおぼろげながら出ていて、たぶんきちんと考えれば正解は導きだせる。


「どうしてかしら、って……メイベル様までシャーロット様のような曖昧な返事をしないでください」

「ふふ。ごめんなさい」


 にこにこ笑うメイベルに、ハウエルは苛立ちを通り越して困惑している。


「……とにかく、嫌だと思ったら無理に付き合う必要はないんですからね」

「ええ。わかっています」


 ありがとう、メイベルはそっとハウエルの肩に頭をのせた。ぴくっと彼は反応するも、言葉では何も言わなかった。


「怒らないんですか」

「……私もそうしたいと思っていましたから」


 それは嬉しい。メイベルが口元を緩めると、そっとハウエルが手を絡ませてきた。


(ああ。私は――)


「ハウエル様。私、あなたのことが……」


 コンコンとその時扉を叩く音がやけに大きく響いた。二人は顔を見合わせて、ぱっと手を離した。なんとなく気恥ずかしく、それを隠すようにメイベルは立ち上がる。


「たぶん、シャーロット様よ。やっぱり一人だと不安になったんだわ。それとも恋人を連れて戻ってきたのかしら」

「あ。メイベル様。お待ちください。私が――」


 ハウエルが止める前に、メイベルは扉を開けてしまった。そしてそこにいたのは、知らない男性だった。


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