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政略結婚だなんて、聖女さまは認めません。  作者: 真白燈


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11、初夜……?

 夕食にはハウエルの親類だという人間も同席しており、探るような目つきで色々尋ねられたが、メイベルは王宮で鍛えられた愛想笑いで何とか乗り切った。


「こんなに美味しいものが食べられるなら、二人には毎日結婚式してほしいや!」


 場の空気を読まないレイフの無邪気な言葉だけが、癒しであり、救いだった。両親に早くに先立たれた彼は兄であるハウエルを親のように慕っており、そんな姿にメイベルは年下の聖女たちを思い出した。


(みんなちゃんとやっているかしら……?)


 ラシャドやミリアがいるから平気だろうとは思うが、離れていると不安になってくる。きちんとお別れもできず王都を出てきたのだ。落ち着いたら一度様子を見に行っていいか、ハウエルに訊いてみよう。


(なんて、今は自分のことよね……)


 やっと夕食が済んだと思っても今度は部屋を移しての談笑である。これが一番きつかった。頼みのレイフも就寝の時間だと部屋へ連れて行かれ(彼は最後まで拒否したが)、張り付けた笑顔のまま、メイベルは話を聞き流し、ようやくお開きの時間となった。


「やっと終わった……!」


 湯浴みも済ませ、寝室に放り込まれると、メイベルは耐え切れず寝台に突っ伏した。疲労は限界に近く、もうこのまま眠ってしまいたいのが本音だった。


(でも、この格好はどうみても……)


 むくりと起き上がり、しげしげと自分の身体を見下ろす。身に纏った夜着はメイベルの豊かな胸元と細いくびれをはっきりと強調し、薄く頼りない布地の作りは脱がせやすいとも言える。――つまりはそういうことのために着せられた服だと思われる。


(やっぱり、その、するのかしら……?)


 正直、メイベルは気が重かった。夫婦の営みがどういうものか、王妃教育としていちおうの知識はある。あるからこそ、あんな綺麗な人が自分を――


(うわあああああ……)


 羞恥心やら罪悪感に襲われ、耐え切れず顔を覆った。難易度が高すぎる。


(顔がよすぎるのも、問題だわ……)


 とんでもなく罰当たりなことをさせているようで気が咎めるのだ。


(でもお飾りの妻じゃなくて、本当の妻にしてくださいって頼んじゃったし……後にはもう引けないわよね)


 一度決めたら、潔いのがメイベルの性格だった。どんと来いと彼女は腹を決め、大きな寝台の上で夫を待ち続けた。そして――


「お待たせしました」


 いつもより簡素な服を着たハウエルが、部屋へと入ってきた。普段決して肌を見せまいとする服を着ているだけに、鎖骨などが見え、メイベルはどぎまぎしてしまう。見てはいけないものを見てしまった気分になり、慌てて目を逸らした。


「どうかしました?」

「いえ、大丈夫です……!」


(しっかりするのよ、メイベル! 女は度胸よ!)


 ぎしりと、寝台が軋む。覚悟していたはずなのに、メイベルは思わずぎゅっと目を瞑った。くすりと笑う、ハウエルの声が鼓膜を震わす。妻の緊張をほぐすように夫の手が伸ばされ――


「おやすみなさい」


 ることはなかった。


「……え?」


 ハウエルはメイベルの隣にいる。ふかふかの掛け布団の中に身を滑り込ませ、今にも寝ようと横になっている。……寝ようとしている?


「あの、ハウエル様?」


 恐る恐る呼びかけるメイベルに、上目遣いで優しく微笑むハウエル。


「今日は貴女もいろいろあって疲れたでしょう? 明日は休みにしていますので、ゆっくり休んでください」


 いや、それはありがたい。ありがたいけれど、いいの? というのがメイベルの今の心情だった。


(これは……気を遣われている?)


 仰向けになり、じっと目を閉じるハウエル。睫毛が長く、女である自分でも見惚れるほど美しい寝顔。しばらく魅入られたように眺めていると、すやすやと寝息が聞こえてきた。彼は驚くほど早く眠りの世界へ旅立った。


 いびきなんて絶対かかないんだろうな、とどうでもいいことを思ってしまう。


(……うん。私も寝よう)


 きっとハウエルも疲れているのだ。うん、そうだ。こういう初夜があってもいいじゃないか。メイベルはそう思い、同じく布団に入り、ハウエルの隣で眠り始めた。


 疲れは何よりの睡眠薬。ふかふかの寝台の上ということもあり、夫婦となった初めての夜、メイベルはぐっすりと眠ったのだった。


 夢にサイラスが出てきて、それでいいのか!? と何やら喚いていた気がするが、起きた時にはきれいさっぱり忘れていた。


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