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短篇

七夕の日に会いに行くよ

作者: 蒼本栗谷

 6月24日。(かなえ)が死んだ。事故だった。現場には俺の誕生日ケーキが崩れた形で落ちていた。

 叶は俺の家に来る途中だった。目撃者によると叶は暴走したトラックにはねられた。

 はねられたあと最初は意識があって、スマホに手を伸ばしてたらしい。そして救急車が着く前に、亡くなった。

 亡くなる最後に叶は俺の名前を呼んだらしい。スマホの電話に手をかけた形で亡くなったと俺は警察から聞いた。

 渡された叶のスマホを開くと、画面に出てきたのは俺の電話番号。俺は、それを見て涙を流すしかなかった。


「かな、かなえ……」


 付き合って五年の彼女。事故当日、誕生日おめでとう、ケーキ買って家に行くね。のメールを送ってくれた。

 あの時俺が家に行くと言えばこうならなかったのか。そう何度も考えてしまう。だが失ったものは戻らない。

 叶にはもう、会えない――


<>


 叶がいなくなってもうすぐ1年が経つ。いつものように仏壇にお供えをして俺は日々を過ごしている。

 叶がいなくなってから俺の生活はどんよりになった。大学の友人は俺を慰めてくれたけど、叶が亡くなった悲しみは取れなかった。

 友人もそれを気遣って色んなとこに連れ出してくれた。だが、俺の悲しみは取れなかった。

 愛していた。この世で一番愛していたんだ。それを奪われた。

 

 心が抜けたように毎日を過ごして、七夕が来た。

 街中で短冊を付けれるイベントがあったのを見た俺は思わず『叶にもう一度会いたい』と書いた。

 どうせ叶うはずなんてない。鼻で笑って短冊に括り吊るす。


 その日の夜。いつものように仏壇に手を合わせて眠りにつこうとした時、インターホンが鳴った。

 

「誰だ……? こんな夜中に……」


 そう思いながら俺は玄関の扉を開ける。そしてそこにいた人物を見て俺は驚愕した。


 ――叶。叶がいる。


七瀬(ななせ)くん。久しぶり」

「か、なえ――?」

「うん。七瀬くんが大好きな叶ちゃんだよ」


 ショートの髪にクリッとした目。あの時と変わらない叶がそこにいた。

 俺は抱きしめようと手を広げる。だが、目の前にいる叶は幻覚なのではないかと思って触れられなかった。


「七瀬くん、動揺しすぎだよ?」


 叶が俺の体に飛び込む。――触れる。だけど、冷たい。叶が死んでいるのが分かってしまった。

 俺は叶を抱きしめながら震える声で言った。


「なんで、叶は、死んだんじゃ……」

「神様がね、七瀬くんが短冊で祈ったから、最後に会いに行きなさいって」


 叶はそう言って俺を抱きしめ返す。

 俺は涙を流す事しかできなかった。会えないと思ってた叶と、もう一度会えたのだから。


「七瀬くん。誕生日おめでとう」

「――!」

「最後ぐらい、言いたかったんだけど、その前に死んじゃってごめんね」

「いい、いいんだ」

「これだけは絶対に言いたくて、未練が残ってたんだ。だから、言えてよかった」


 そう言う叶の姿は光に包まれていく。そして光の粒が叶の体から出ていく。叶が少しずつ薄くなっていく。


「叶っ!!」

「もう時間切れみたい。七瀬くん。愛してる」

「っ――! う”ん、う”ん! 俺もあいしてる!!」

「ばいばい」


 叶は最後にそう言って完全に光の粒になって消えた。叶が居なくなったあと、俺は涙を流す事しかできなかった。

 そして同時に、頑張ろうと思えた。


 ありがとう。叶。永遠に愛してる。

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