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「あべこべの国」(Reverse Country):鈴×蓮

#記念日にショートショートをNo.34『あべこべの国~美しい世界で本当の望みを編~』(Reverse Country:Find Real Hope in a Beautiful World part)

作者: しおね ゆこ

2020/5/5(火)こどもの日 公開

【URL】

▶︎(https://ncode.syosetu.com/n6911id/)

▶︎(https://note.com/amioritumugi/n/nb9c7c3d5505e)

【関連作品】

「あべこべの国」シリーズ

➖「ねえ、オタマジャクシさん。」

髪が、風に揺れる。

「何で、その名前なの?」

風の音が、強い。

「何で、真っ黒なの?」

風を抑えて、振り返る。

「何で、お尻が小さいの?」

風が、止んだ。

音が、消える。

「あ〜あ、バレちゃったかあ。」

ポン、と音がして、オタマジャクシさんが消えた。そして、ルエカが現れる。

「何で。」

ルエカのオタマジャクシさんに問いかける。

「あなた、ルエカでしょう?」

疑問と幽かな恐怖で燻る心の隅に、あえかな悲しみがうずくまっていた。

「……僕を、殺してほしかったんです。」

「…ルエカとしての、僕を。」

オタマジャクシさんが、話し始めた。

「ルエカの僕は、いつも食べ物を横取りしたり、お金を盗んだり、他のルエカと同じように、好き勝手に生きていました。」

「でも、そんな自分に、ある時耐えられなくなったんです。」

「過去は悔やんでも、なかったことには出来ない。ルエカのままだと、リセットすることは出来ない。」

「そんな時、〝人間ならルエカをカエルにすることができる〟という研究結果を耳にしたんです。」

「………」

「もし、カエルに生まれ変わることが出来たなら、新しい自分に生まれ変わって、リセットすることが出来るんじゃないかって。…だから人間であるあなたを、呼んだんです。」

「……リセットはダメだよ。」

いつの間にか、地面を見ていた顔を上げる。

「…リセットしたら、ルエカの時の自分を、なかったことにする、ってことでしょ?過去の過ちから逃げる、ってことでしょ?」

オタマジャクシさんを見据える。

「私は、あなたをカエルにはさせてあげられない。」

沈黙が流れる。

「私は、あなたの身勝手な行動の、巻き添えになっただけだったの?知らない間に、悪の片棒を担がされていたの?

…知らなかったとはいえ、いま、ものすごく後悔している。」

目から、涙が零れた。

「……もしも、あなたが…」

「待ってください!」

オタマジャクシさんの声が、私の言葉を止める。

「ごめんなさい。結局、僕は過去の自分から逃げていただけだった。過去をなかったことにしようとしていた。でも、あなたのおかげで、ようやくいま、それに気付くことが出来た。」

「カエルになったルエカは、もうルエカに戻ることは出来ない。でも、ルエカだったカエルは、僕には匂いでわかる。だから、自分の過去の行動を省みて、本物のカエルたちに➖寸志としか受け取られないかもしれないけど➖償いをして、みんなと一緒に、この世界が良い世界に生まれ変わるように努力する。」

「…でもこの世界に唯一の存在となったルエカの僕の話なんて、誰も聞いてくれないだろうし、きっとこの世界から追放されてしまう。」

「だから、僕を、カエルにしてくれないかな。」

「自分がルエカをカエルに変えてしまったことを、身体に刻み残すためにも。」

空が、茜色に染まり始めていた。

夕暮れの時が、静かに流れる。

「…わかったわ。」

「約束して。ちゃんと、良く生きるって。」

「もちろん。」

ルエカのオタマジャクシさんに、小指を触れる。

➖これは、お互いの約束。

オタマジャクシさんと、私の。

そして、この約束を咎めない世界の。

「じゃあ、やるよ。」

「いつでも、いいよ。」

深呼吸をして、杖を、真っ直ぐ、オタマジャクシさんに向ける。

すっ、と、息を吸う。

「〝えぼけば!〟」

オタマジャクシさんが、すっ、と消えた。

風がやさしく包むように私を持ち上げる。意識が、遠退いていく。

「ありがとう、(りん)ちゃん!」

耳にオタマジャクシさんの声が聴こえ、風の向こうで、カエルになったオタマジャクシさんが、笑顔で私を見送っているのが、幽かに、見えた気がした。


 けたたましい目覚まし時計の音に、驚いて目を開ける。

(りん)、早く起きなさい!遅刻するわよ!」

階下から母の声が聴こえる。

慌てて机の上のスマホを開き、日付を確認する。月曜日だ。

いつものように慌ただしく支度をし、

「行ってきまーす!」

と、いつもと同じ時刻に玄関を飛び出す。すると、ちょうど蓮も家から出て来たところだった。

一瞬お互いに目が合ったのも束の間、すぐに蓮が視線を逸らす。私を無視して、スタスタと歩いていく蓮の腕を掴む。

「待って、蓮!」

振り解かれるかも、と思ったが、思いの外、蓮は足を止めて私を振り返った。

「なに?」

もう、逃げない。嫌われてしまう結果になったとしても、ちゃんと、あの日の自分と、向き合うことができたならば、それでいい。

「ちゃんと、話そう。」

「何で、私たち、こうなっちゃったの?何で、あの日から、ずっと赤の他人みたいな関係なの?」

蓮が、俯いた。怒っているのか、嫌な気持ちなのか。

「嫌な思いをさせて、ごめん。でも、私はちゃんとあの日のことを話したいし、ちゃんと話さなきゃダメだと思うの。私が原因なら、謝るから。ちゃんと話さなきゃ……」

「ストップ。」

蓮はそういうと、

「ごめん、嫌じゃねえよ。」

と小さな声で呟いた。

それから長くゆっくりと息を吐いて、私の腕を掴み、引っ張る。

「歩きながら話そう。遅刻する。」

久しぶりに歩く蓮の隣りを、まだ身体が馴染みを覚えていた。

「私、あの時、蓮にしつこくしすぎて、それで嫌われちゃったのかと思っているの。しつこくしすぎたことは謝る。ごめんね。」

蓮の言葉を待つ。

「……(りん)は何も悪くないよ。俺が……自分の気持ちに正直になれなくて、このままの関係が良いって、それで、あんなことを言っちゃったんだ。いままで本当にごめん。」

「うん、これでお互い、すっきりしたね。…もし蓮が望むなら、私はもう蓮には関わらないし、これまで通り、話しかけたりしない。だから、もし嫌なら……」

蓮の手に引っ張られるように、立ち止まる。

「蓮?」

「何で、泣いているんだ?」

「え?」

顔に手を当てる。頬を、涙が伝っていた。

「え、何で、私……。」

(りん)も、俺と同じ気持ちだって、期待していいのか?」

頬をうっすらと赤くした蓮が、私を見る。

「同じ…気持ち……?」

「さっきも言っただろ。自分の気持ちに正直になれなくて、だからこのままの関係が良いって思ったって。」

蓮が、一呼吸置いた。

「あの時から、ずっと、(りん)のことが好きだったんだ。」

そしてすぐに、付け加えるように続ける。

「もし、(りん)の気持ちが俺のと違うのなら、もう(りん)には関わらないし、これまで通り、話しかけたりなんてしない。だから、もし嫌なら……」

「嫌だ。」

「…そんなの、嫌だ。蓮に関わりたいし、もっと話したい。こんな風に一緒に登下校もしたいし、一緒に遊びにも行きたい。私、もっと蓮と一緒にいたい!」

笑顔で蓮を見る。蓮がほっとしたように、微笑んだ。

「やり直そう、一緒に。」

再び、並んで歩き出す。

いつもと変わらない日常が、大きく変わり始めていた。もう何があっても、私たちは大丈夫だと、信じていける気がした。

「蓮…。」

隣りを歩く蓮に、声を掛ける。

「なに?」

何年かぶりのやさしい笑顔が、私を見下ろした。

「あの…」

頬が猛烈に紅く染まる。

「手、繋ぎたい…です……。」

私が絞り出した声に、蓮は一瞬、驚いた表情をして、それから「うん。」と、やさしく頷いた。

蓮の手が、私の手を取る。

繋いだ手のその先にある未来に、届きそうな気がしていた。

【登場人物】

○鈴(りん/Rin):中学3年生・15歳

●蓮(れん/Ren):中学3年生・15歳


◎尾玉雀子(オタマジャクシ/Otama-Jakushi):カエル=ルエカ

【バックグラウンドイメージ】

【補足】

①構成について

#記念日にショートショートをNo.32~34のシリーズとなっています。

○No.32:「~天地有用カエルの国編~」

○No.33:「~私と魔法とえぼけばルエカ編~」

○No.34:「~美しい世界で本当の望みを編~」

②タイトルについて

○No.32『あべこべの国~天地有用カエルの国編~』(Reverse Country:Turn it upside down,Frog Country part)のタイトルに使用した「天地有用」という言葉は、「天地無用」の反対の意味として、このシリーズに出てくる用語をひっくり返すように仄めかしています。

③用語について

○「Dnal Ebokeba」:人間界とは反対の位置にあるカエルの世界

○ルエカ:「Dnal Ebokeba」に蔓延る生き物

○「Ureanakowimozononnihs」:ルエカ退治の報酬

④解説について

○〝Dnal Ebokeba〟→反対から読むと〝Abekobe Land(あべこべランド)

○呪文〝Ebokeba〟→反対から読むと〝Abekobe(あべこべ)

○〝ルエカ〟→反対から読むと〝カエル〟

○報酬〝Ureanakowimozononnihs〟→反対から読むと〝Shinnonozomiwokanaeru(真の望みを叶える)〟

⑤伏線について

○尾玉雀子さんが本当はルエカだという伏線

・No.32:3段落目L.10~12

《ただのカエルではない。そのカエルは、真っ黒で、お尻が顔に比べてかなり小さかった。ザ・アタマデッカチ・ガエルなのだった。》

・No.32:最終段落L.1/・No.33:1段落目L.1

《「申し遅れました。私、尾玉雀子と申します。」》

・No.33:3段落目L.9~10

《赤い点が、1つ、レーダーの中央で止まっていた。》

・No.33:3段落目L.17

《赤い点は、¨まだ中央で止まっていた。¨》

・No.33:3段落目L.22~26/・No.34:1段落目L.3~7

《「何で、その名前なの?」

風の音が、強い。

「何で、真っ黒なの?」

風を抑えて、振り返る。

「何で、お尻が小さいの?」》

【原案誕生時期】

公開時

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