07
悪役令嬢だって攻略対象と仲良くなってもいいじゃない、が今回のテーマです(`・ω・´)ゞ
この人、本当にバッドエンドで悩んでるの? と描きながら思いました。
それは晴れたある日の事だった。
私も屋敷の生活に随分と慣れてきてジャンヌ様のお側にいる事が当たり前と思い始めた時の事だった。
テラスから庭を見下ろせばレオポルト様が汗を流しながら剣を振るう姿がある。彼は私の視線に気付くとプイッとそっぽを向いてしまう。自分が嫌われたのかと思って不安を表情に出すとレオポルト様はバツが悪そうな顔になって小さく手を振ってくれる。
それが嬉しくてパアッと表情を変えると一部始終を見ていたジャンヌ様が笑う。
自分の身の周りが二人のお陰で花やいでいく。スラムにいた時は表情なんて一切変えなかった私が自分でも分かるくらいに色々な表情を持つ様になった。
感情とはこんなにも色んな種類があるのかと二人と一緒にいる時間を通じて思い知った。自分だけこんなに幸せになっていいのかと、どうして自分だけ幸せなのかと考え込む様になった。
どうして突然何の前触れもなく私の前に幸せが訪れたのだろう?
考えても当然何も分からず、それでも今の幸せを手放したく無いと思うと俯いてしまう。だけど少しだけ申し訳なさそうにしつつテラスからジャンヌ様の自室内に戻ると、そんな自分の感情などお構いなしにジャンヌ様はニコニコと何時もの笑顔覗かせて話しかけてくる。
「マリー、今日は来客があるの」
「え? じゃあ私はお邪魔にならない様に何処かへ……」
「マリーは影武者なんだから私と一緒にいるに決まってじゃない」
「そ、そうなんですか?」
「そうなの。それで今日の来客はちょっと特殊だから先に話しておこうと思ってね」
ジャンヌ様はいつもニコニコ笑顔だった。
この人が笑顔じゃないところなんて記憶にない。まだオトメゲームと言う物語がどう言うものなのかはイマイチ分からないけど、それでもジャンヌ様は自分の悪い未来を話す時もずっと笑顔だった。
ジャンヌ様は自分の不幸さえも笑顔で語る。
ああ、でもレオポルト様との関係を語る時だけは少し沈んでいたかな? でもそれだってどちらかと言うとレオポルト様に対する自責の念が大きかった気がする。
ジャンヌ様はレオポルト様をイジメていた一年を真剣に後悔して悲しい顔を覗かせていた。
でも今は仲直り出来たからやっぱりニコニコ、室内に入った私に「座って」と彼女が座るソファーの隣に来いとポンポンと叩いて笑顔で催促してくる。
ジャンヌ様とのこのやり取りは嫌いじゃない。
「特殊なお客様なんですか?」
「そう、悪役令嬢の私にとって唯一の協力者よ。私の婚約者でこの国の王子様」
「……え?」
「因みにその人もレオポルトと同じで乙女ゲームの正規の攻略対象なの」
「お、おおおお……王子様なんですか?」
「そうよお、すっごくカッコいいから期待しててね。マリーなら見初められちゃったりして」
ジャンヌ様は笑顔のまま首を傾げてサラッともの凄い事実を口にした。
ジャンヌ様に婚約者がいる事も驚きだけど、それ以上にお相手が王子様だった事に驚いて私は口が回らなくなってしまった。
でもジャンヌ様は高位の貴族な訳だし彼女にとってはそれが普通なのかな?
それでも私みたいな立場の人間が王子様と直に会っていい筈がない。ジャンヌ様は簡単に言うけど私なんかが王子様に見初められる筈が無いと思う。
寧ろ同じ空間で呼吸をしていい筈がない。
「……え? 私も……王子様と会うんですか?」
「そうよ? 一応忠告しておくけどその王子様って女の子なら誰かれ構わず手を出すケダモノだからマリーは影武者として私をしっかり守ってね?」
「……ジャンヌ様は……私が守ります」
「ケダモノとは言ってくれますねえ?」
「あら、殿下。もしかして最初から聞いてました?」
「うわああああああああああ…………」
またしても情けない声をあげてしまった。
その声は何の前触れもなく発せられて、ジャンヌ様はそれに当たり前の様に返事を返す。私もつられて視線をドアの方に向けるとそこには一人の男の子が立っていた。
ドアが開く音さえ立てずジャンヌ様の部屋に入り込んだ男の子は涼しげな表情でこちらに笑いかけてくる。
この王子様は暗殺者さんなのかな?
私はジャンヌ様を守ると引き締めた筈の決意をいとも簡単に崩されてしまった。王子様のあまりにも突然すぎる訪問に私は驚きすぎて口から心臓が飛び出るところだった。
自分の心臓に手を当てて鼓動の急激な高鳴りを抑え込もうと必死になる。
だけど当の二人は私なんて気にも留めずテンポ良く話し込んでいく。
「殿下、女の子の部屋に入るならそれなりにマナーを守って下さいません? マリーがビックリしすぎて怯えてますよ?」
「コレは失敬。そちらが噂のマリー・アンかな? 手紙に書いてあった通り本当に君にソックリじゃないか。これは凄い」
「でもこれはこれで役得なのかしら? マリーの方から私を求めて抱きついてくれるだなんて……」
「こっちはまだケダモノ疑惑が晴れてないんだけど?」
「あらあ、こちらも失敬。ケダモノじゃなくてノックもせずに勝手に女の子の部屋に入り込む下着泥棒だったかしら?」
「よく言うよ、まあこの僕にそんな減らず口を叩くのは君ぐらいのものだけどね」
ジャンヌ様は凄いなあ。
ローレヌ家のご令嬢として何時も堂々と胸を張る姿はカッコいいと思う。例え相手が王子様であっても臆する事なく接するジャンヌ様を私はポカーンと口を開けて見ているしかなかった。
でも「ジャンヌ様を守る」と意気込んだ私の決意はどうすればいいんだろう?
ジャンヌ様は抱きつく私を王子様の前だと言うのに堂々と抱き返してくるから尚更どうすれば良いか分からなくなる。
二人とも私が勇気を振り絞って握りしめた両手なんて見向きもせずにポンポンと会話を進めしまう。それにこの話し振りだと王子様は私の事を知ってるみたい。
それに王子様はジャンヌ様の婚約者なんだよね?
だったら影武者の私はここに居る必要があるのかな? 寧ろ二人のお邪魔になると思うんだけど。
そんな風に考えている最中にようやくジャンヌ様から解放された私は遠巻きから二人のやり取りをただ見守るしか出来る事はない。王子様はジャンヌ様の言う通りすごくカッコよかった。
やる事がないからついつい王子様の顔をマジマジと観察してしまう。
短く切り揃えられた銀髪の綺麗な髪の毛に切れ長な碧眼がとても印象的な印象。そしてレオポルト様みたいに体を鍛えていないのか、単身痩躯で少しだけ不健康そうな色白の肌を持った優しげな笑顔が似合う美少年。
それが王子様に対する私の第一印象。
王子様は私の視線に気付いたのかふとジャンヌ様から視線を外して私に笑顔を向けてくれた。王子様はジャンヌ様と仲がいい様だ、性格も似ているのかな?
私に優しく手を振ってくれるところなんてジャンヌ様とソックリだと思う。
「クンカクンカ……。はー、癒されるわー」
「ジャンヌ、また君の悪い癖が出てるけど?」
「あら嫌だ、おほほほ」
「君の方がケダモノっぽいと思うのは僕だけ?」
あれ? なんかジャンヌ様が私の髪に鼻を埋めた気がするけど気のせいかな?
そう思って振り返ったけどジャンヌ様は優雅に笑いながら王子様とお喋りを続けているから、今回も私の勘違いだったみたい。
「やあ、君がマリー・アンだね? 僕が先ほどご紹介に預かったすごくカッコよくてケダモノで下着泥棒の王子様だよー」
「あ、あああ……ああああああああ」
「殿下、それは私に対する仕返しですか?」
「ジャンヌが僕のフォローをいつまでたってもしてくれないからだろ?」
「それで、実際は如何ですか? マリーを見初めちゃいます?」
「うん、君と違って見た目だけじゃ無くて性格も良さそうだしねえ。見初めちゃおっかなあ?」
「本当にもう、この人は。マリー、そんなに怯えなくても大丈夫だから安心していいわよ? 殿下は私に前世の記憶がある事を知ってる唯一の人だから」
ジャンヌ様は腰に手を当てて呆れた様子で王子様を紹介してくれた。
だけどあまりに突然の出来事だったからやっぱり上手く口が回らない。肝心の王子様はそんな私を見てクスリと笑みをこぼしてから一歩前に出る。
ズイッと私に近づいてきて握手をしてくれた。
初めて男の子の手を握っちゃった。
その相手が王子様だった事が信じられなくて私はゆっくりとジャンヌ様に視線を送る。ジャンヌ様が「本当に大丈夫だから」と私を優しく諭してくれて私はようやく口を開く決心を固める事が出来た。
それでも相手は王子様、会話すると決めただけで心臓のドキドキが止まらない。
「は、初めまして。ジャンヌ様の影武者のマリー・アン……です」
「僕はフランツ・トスカーナ。この国の第一王子で悪役令嬢とやらの婚約者だ、一応はね」
「一応……なんですか?」
「うん。一年くらい前かな? 彼女から婚約は形だけにと考えて欲しいと提案されたんだ。その時は突然ジャンヌの性格が変わってね、おかしいと思って問いただしたら前世の記憶があると言うからビックリしたよ」
ジャンヌ様とフランツ様が婚約者となったのは二年前。
最初はワガママでレオポルト様を陰でイジメるジャンヌ様をフランツ様は快く思っていなかったらしい。だけどある日を境にジャンヌ様は人が変わった様に接し始めたから彼はジャンヌ様に真相を問いただしたのだそうだ。
当のジャンヌ様は隠しきれないと判断した様で自分の婚約者に全てを打ち明けた。
そして逆に協力者となる様に説得したのだと言う。ジャンヌ様は自分から距離を取って近付かないレオポルト様とは違いグイグイと近付いてくる王子様は説得しやすかったと優雅な様子で笑い飛ばしていた。
丁寧に説明をして貰ったけどすごい話だなあ。
ジャンヌ様って私を助けてくれた時と言い行動力が凄いと思う。そして今日、王子様が訪問した理由は私と引き合わせるためだそうだ。手紙で私を影武者にした事を知らせたのだとか。
王子様は興味津々な様子で私をマジマジと観察しだす。
これじゃあさっきと立場が逆だよお。
「うえええ……、ジャンヌ様ああああ」
私は咄嗟にジャンヌ様の後ろに隠れてしまう。
「ぷっ、あはははは。影武者が主人を盾にするのかい?」
「あ……」
「もう、殿下がマリーをいやらしい目で見るからじゃありませんか」
「それは心外だ。君から貰った手紙通り彼女が本当に綺麗だと思ったからじゃないか」
「マリーには王宮で催される社交界で殿下と踊って頂きたいと考えていますのに」
「それも例のアレかい? 君が以前に言っていたバッドエンドと言う奴を回避するため?」
「それも理由の一つです」
「まあ僕としては都合のいい婚約者を演じてくれる以上は協力は惜しまないけど、また何時もの悪巧みかい?」
フランツ様は少しだけ呆れた様子でため息を吐きながらも私を守る様に堂々と胸を張るジャンヌ様との会話を楽しんでいる様だ。私がジャンヌ様の背中からソーッと体を乗り出すと王子様はまたしても手を振ってくれる。
私が恥ずかしくて身を隠すとまたしてジャンヌ様は「殿下?」と呆れた様子を見せる。
二人のやり取りはこれの繰り返しだった。こんなやり取りを数十回と繰り返してから二人はようやく本題を話し始める事となる。
これがレオポルト様と同じくらい私にとっての大切な男の子となるフランツ様との出会いとなるのだった。
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