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06

おっかなびっくりだけど自覚なく人の輪を広げる女の子、今回のテーマはそれです(`・ω・´)ゞ

 昨日の離れゆくレオポルト様の背中を思い返してみる。


 その時はボーッと眺めていただけだったから後になって思い返すと、不思議と色んな事に気付くみたい。世の中には自分と同じ悲しみを抱え込んだ人はいるのだと、悲しみや苦しみを抱え込む人に育った環境なんて関係無いのだと。



 人はどんな人生を歩もうとも何処かで色んな矛盾に気付くものらしい。


 それでも私に言える事は二つ、私には大切な人が二人も出来た。そしてその二人はお互いの関係を拗らせている。


 今こうして私の髪を優しく研いでくれるジャンヌ様はレオポルト様と仲良くなりたいと願っているのに、肝心のレオポルト様がそれを拒む。


 それを怖いと言う。


 私が好きになった人たちがギクシャクするところは見ていてとても悲しかった。



「マリーはやっぱり化けたわね」

「私は化けたんですか?」

「女の子はやっぱり綺麗でなくちゃ。お風呂に入って綺麗にしてからこうしてしっかりと髪を整えれば……うん。何処かのお姫様みたい」

「ううう……」

「? 急に唸っちゃってどうしたの?」

「昨日のお風呂の事を思い出したんです……」

「あれは良かったわねえ。マリーが来てくれたお陰で誰かと一緒にお風呂に入れて一緒に寝ることが出来て、人の温もりの大切さを思い知らされちゃった」



 ジャンヌ様はとにかく私とベタベタしたがる。


 ところ構わず抱きついてきて一緒にお風呂に入ってお互いの髪を洗い合って、寝る時は当たり前の様に私を一緒のベッドに誘ってくれる。


 スラムの夜はとても寒い。


 寝る時はお父さんと抱き合いながら寝て寒さを凌いだ。


 だけどそれで凌げたのは体が感じる寒さだけで、何処か心にはポッカリと穴が空いた様な感覚があった。私とお父さんはお互いを暖房器具代わりにしていただけだったから。


 多分誰でも良かったのだと思う。


 寒さが凌げれば抱きつく相手は誰でも良かったのだ。


 だけどジャンヌ様はそうでは無かったみたいで私と一緒にいる事をとても喜んでくれた。いつもニコニコと笑顔を絶やさず私の手を取って歩いてくれる。


 ずっと私の隣にいてくれて口下手な私の話を笑顔で聞いてくれる。


 ジャンヌ様は私が欲しいと願っていたものを全てくれる、ちょっと違うかな? 私が欲しかったものを自覚させてくれる人だ。



「ジャンヌ様ああ、影武者ってこんなお仕事ばっかりなんですか?」

「ん? 影武者はずっと主人の近くにいるものよ? だからマリーは私から片時だって私から離れたらダメなんだからね?」

「あうあう、だけどおトイレの時まで一緒と言うのも……」

「うーん、出来れば食事もお互いに食べさせ合いたいくらいなんだけど。こうやってアーンって」



 ジャンヌ様のスキンシップはとにかく過激だった。


 私も本当はすごく嬉しいんだけど、それでもジャンヌ様は常軌を逸していると思う。だって廊下を歩くとずっと手を繋いで自室のテラスでお茶を飲む時も私に膝の上に座れと命じるから。


 お風呂も当然の様に一緒に入って湯船の中ではベタベタと抱きついてくる。


 何度だって言うけど私はそれが嫌いじゃない。だけどそれが普通だと信じれるほど私だって常識を知らない訳じゃ無いから。幸せとはたくさん有ればいいものでは無いらしい。


 多すぎると逆に疲れてしまうと初めて知りました。


 こうしてジャンヌ様は今日も私の髪を研いては椅子に座る私に抱きついてくる。でもジャンヌ様の温もりはやっぱり温かくて、ついつい私も目を閉じてしまいそうだ。



 影武者ってこんなに油断していいものなのかな?


 そう疑問を感じていると聞き覚えのある声が聞こえてきた。



「……このジメジメした雨の日に女同士で何やってんだよ?」

「レオポルト!?」

「……え?」



 目の前には呆れた様子を浮かべたレオポルト様の姿があった。


 ジャンヌ様は本当にビックリしたみたいで実の弟が自室に訪問しただけなのに驚きのあまりもの凄い勢いで声のする方を振り向いた。


 でも私も驚いた。


 だってレオポルト様はジャンヌ様の事が……、どうしてレオポルト様がここにいるんだろう?



「……どうしてレオポルトがここに?」

「……弟が姉さんの部屋に来るのがそんなにおかしいですか?」

「おかしくは無いけど……いきなりすぎてビックリしたわ」

「ソイツに会いに来ました……」

「マリー……に?」

「マリーとはまた会おうって約束したんです。今日は雨で剣の稽古も無いから暇だし丁度いいかなって思ったけど、姉さんがずっとマリーから離れないから……」



 レオポルト様はそっぽを向いてぶっきらぼうにそうボヤく。


 さっきまでギューッと力一杯私に抱きついていたジャンヌ様も驚きすぎて全身が脱力したのか、私からゆっくりと絡ませた腕を解く。私はと言えばやはりジャンヌ様と同じく予想外の出来事に空いた口が塞がらなかった。


 その様子にレオポルト様は「な、何だよ? 迷惑だったか?」と心配そうな顔付きになってそう言葉を漏らす。



 なんだろう、この胸が急に温かくなる感じ。



 私はレオポルト様の言葉を何度も首を横に振って否定した。



「そんな事ありません!!」

「お、おお。そうか、それは良かった……」

「あら、マリーも大きな声をあげるのね?」

「あ……うううううう……」



 そう指摘されて急に恥ずかしさを覚えてしまった。


 私って焦ると大声を出しちゃうんだ、自分の事なのに初めてそれを自覚して顔が真っ赤に染まるくらい恥ずかしくなった。


 だけどそんな私に二人は笑顔を向けてくれる。



「ふふふ、マリーは私にとって幸運の天使様だったのかしら?」

「お前もそんな勢いで首を振ると折角研いた綺麗な髪がグシャグシャになっちまうぞ?」

「あら、レオポルトはマリーを綺麗だと思ってるのね?」

「……姉さんの影武者が務まる女の子が綺麗じゃ無い訳ないでしょうが?」



 レオポルト様はずっとこんな感じだった。


 だけどジャンヌ様がとても嬉しそうだから私もすごく嬉しい、そしてレオポルト様の褒めて貰った事も同じくらい嬉しい。


 嬉しくて俯かないとニヤけた顔が二人にバレちゃう。



「キャー、一度に可愛い妹キャラと弟をゲットー」

「? 姉さん、何か言った?」

「何でも無いわー」



 なんだろう、今度はジャンヌ様が隠れてガッツポーズをしてる様に見えたけど、また見間違いかな?


 ジャンヌ様は「ピューピュー」と口笛の練習をしてるみたいだから今度も私の勘違いみたいだ。



「レオポルト、一緒にお茶でもしない? 貴方のお気に入りの女の子も一緒するけど」

「……頂きます。て言うか勝手にソイツをお気に入りにしないでくれませんか?」

「レオポルトはマリーが嫌い?」

「イジメなくなったと思ったら今度は揶揄うのかよ、……別に嫌いじゃないです」

「私は……お二人が大……好きです。だから……」



 勇気を振り絞った言葉が二人にはどう届いたのかな?


 だから何だと自分で自分が口にした言葉を思い返す。俯きながら呟いた一言がどう思われたのか、それすらも怖いと思う自分が嫌になる。


 私は好きな人が悲しむのが何よりも恐ろしい。


 だけど人を好きになると他の事も恐ろしいと思う様になる。私が今最も恐る事はジャンヌ様とレオポルト様に嫌われる事、自分の想いがめんどくさいなんて思われたく無い。


 お前なんて好きじゃない、そう言われるのが恐ろしい。


 だけどこの二人はそんな私の思いをキョトンとした表情のまま大笑いしながら一蹴してくれる。こんな幸せな時を私なんかが噛み締めていいのかと、そう思えるくらい笑い声で包み込んでくれた。



 私は思い知らされた。


 この二人と出会えた事そのものが私にとっての幸せなのだと。



 ジャンヌ様は私を天使だと言うけど、私にとって二人は神様以上の存在になっていく。



「ふふ……ふふふ。私もマリーが好きよ? こんなに抱きしめたいと思うくらい大好き。だってこんなに可愛いんだもん」

「くっくっく、お前は本当におかしな奴だな。だから何だ、聞いてやるから最後まで言ってみろ」

「だから……」

「「だから?」」

「だから私と一緒にいて下さい……」



 初めて人にお願いをした。


 生まれて初めてワガママを口にした。自分はこうして欲しいと、私と一緒にいて欲しいと心の底から願い想いを口に出来た。


 口にした事の意味を改めて考えると私は何て自分勝手なんだろうと思う。だけどこの二人ならこんな私を受け入れてくれると思えたことも事実。


 そして恥ずかしさから俯く私に優しく手を差し伸べてくれた事も事実だった。


 私は笑い声に包まれながら大好きな二人とお茶を飲んだけど、その時は緊張しすぎてお茶の味なんて分からなかった。



 ジャンヌ様とレオポルト様、二人の笑顔に挟まれて夢見心地だった。



 この日から二人は打ち解け合う様になってくれて私はベッドに潜り込みながらこの日を一生忘れまいと必死に神様にお祈りを捧げていた。

お読み頂いてありがとうございますm(_ _)m


また続きを読んでみたいと思って頂けたら嬉しいです。ブクマや評価ポイントなどを頂けたら執筆の糧となりますので、もし宜しければお願いいたします。

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