8話 迫り来る猛者とマリルちゃん
私は顔面蒼白のまま、何処までも町を駆けた。しばらく行って、冒険者のひしめくギルドを通り過ぎた時の事だった。
「お前が白狼かっ! にがさねぇよ!」
「待て白狼! 騎士の名に賭けて私と勝負しろ!」
さっきまでとは違って、私の速度に喰らいついて来る人たちが居る!
え、なんなの化物なの!?
「ツレないじゃないか『力』の勇者さんよ! 俺に戦い方を教えてくれよ! っはは!」
「痛ったぁあ!!」
後方から飛んで来た小さなナイフが、私の耳をかすめていった。
ギョッとして振り返ると……何人かの冒険者と、聖魔教会の制服を着た女の子が一人追ってきている。
その内の一人、貴族服を着た金髪男エルフが、無数のナイフを手に握った男の肩を小突く。
「抜け駆けは辞めて頂こうか、ナイフ使いのスライトさん。彼と手合わせするのはこの私、風裂きのルディンだ」
負けじと顎先を上げてしゃくれた青年は、切れ長の目でルディンを睨む。
「ああっ!? エルフは引っ込んでろよルディン!」
するとそこに、2メートルの上背はあるオークが、ドタドタと駆けながら巨大な棍棒を振り上げた。
「エルフもヒューマンも黙っていろ、力には力だど! この棍棒のガドフが叩き潰してくれるどぉ!」
あぁ゛〜ヤバい! ヤバいよこいつら、猛者だ! 猛者が獲物を取り合う典型的なパターンの会話だよこれぇ! 知ってるんだからね!
鋭い風の一迅が私の髪をかすめていく。その後にナイフが、そして大岩が降って来たけど何とか避けた。
「きゃぁぁあやめてよぉおお!! 死ぬ、死ぬって!」
生きた心地がしない! ていうかコイツら、良く見たら全員雑誌とかテレビで観た事あるSランクの冒険者達じゃねぇかよぉ! こんな状況じゃなかったらサインせがんでる位凄い奴等じゃねぇかよ!
「おらぁあ待てや白狼こら!」
ナイフ遣いのスライトの声が遠くなっていく……全力で走ったら少しずつ彼等を引き離せるみたいだ。
ていうか各地方に10人位しか居ないSランク冒険者を置き去りにする脚力ってなんなんだよ、白狼も大概ヤバいよなぁ。
「よしっよしよし、よしっ! 引き離せてるよ、このまま逃げて――」
ニヤケ面になっていると、突如頭上から刃のきらめきと、涼やかな声が降り落ちて来た。
「閃光――光の速度!」
「はぇ……?」
――あれ? 私Sランク冒険者を引き離してたよな?
じゃあこの聖魔教会の制服を着た女の子、いや深くフードを被ってるから、ツヤツヤした黒髪と体躯からそう判断しただけなんだけど……この子、どうやって私に追い付いたんだ?
「――――粛清する」
「え…………」
スロー再生みたいに、銀の長剣が私の額を真っ二つにせんと落ちて来る。
呆気にとられた私は、鋭き刃の切っ先を、見ている事しか出来ないでいた。
圧倒的死の直感に、私は悲鳴を上げるので精一杯だった――
「ワァァアアアアアアアアッッ!!!」
「――ぐッ!」
私の口から出た波動が、その女の子をぶっ飛ばしていた。
九死に一生。偶然にも命が助かって、私は顔を引きつらせながら心臓に手を当てていた。
吹き飛んだ女の子は、よろめきながら長剣を地面に突き刺して、私の前方で膝を付いた。
その拍子に、パタリと彼女の被ったフードが外れる。
「え……」
やはり女の子であった聖魔教会の少女を、私は穴が開く程に見つめるしか無かった。
黒髪のオカッパ頭、透き通る様な白い肌に、小さなお顔、大きなお目々……そして何よりその抜群エロプロポーション(ガリ爆乳アニメ体型じゃねぇかジュるり)
私はこちらを睨め付けている少女に構わずに、思わずこうつぶやいていた。
「マリル…………ちゃん?」




