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54話 オッサン赤ちゃん(全裸ガトリング装備)


   *


 あの日、あの時の恐ろしい剣幕(けんまく)のまま、モルディはよちよちとよつん這いで町を練り歩いていた。


「UBAAOOOOOO――!!!」


 乳飲み子が癇癪(かんしゃく)を起こした時然り、聖魔教会の巨大本部を白狼に壊滅させられたモルディは、(よわい)40にもなる姿のまま、赤ちゃん返りしてしまったのだ。

 右手と一体化したガトリングガンを町中にぶっ放しながら、大号泣して、あてもなくさまよい歩いている。

 町が破壊されていく騒ぎに駆け付けた町人たちは、つい先日まで町の治安を守っていた筈の、中部管区聖魔教会のトップ――厳格極まる〈司教〉の変わり果てた姿に、吸い込んだ息を吐けなくなって全身を凍らせた。


「ウワァァア!! モ、モルディ司教、なんで全裸なんだ!!」

「ギャァァァ、いやァァァオッサンが裸体でハイハイしてるわぁあ!!」

「BAABOOOOOO――!!」


 深くシワの刻まれた厳しい表情……今にタバコを吸い出さんという位に威厳ある姿形のまま、モルディは狂乱極まった、一糸まとわぬ姿で町を歩き続けていたのだ。


「へっ変態よ!」

「すぐに始末して! 町の生娘たちの貞操が危ないわ!」

「BUOOOOO!!!!」


 ……そんな所に、聖魔教会の人たちに、土下座で頼み込まれた私――白狼が登場する。


「うわぁあ……」

「BAB☆BAB!!!」


 暴れて手が付けられないからって、このオッサンの世話を押し付けられたが……正直目の当たりにするとドン引きするしか無い。

 すげぇな、人ってここまで壊れるのかよ、一体何があったんだよ。(すっとぼけ)


「おんどりやぁ白狼! いつまでポケッと突っ立っとるんじゃ! これじゃあモルディ司教の威厳に関わるじゃろうがい、とっととあやさんかぁ!」

「いや、もう遅いだろ……」


 全裸よつん這いガトリングブッパオッサンだぞ? もう何もかも手遅れだろう。

 とは思ったが……背後に信徒を引き連れたグラサンリーゼントにどやしつけられた私は、顔をしかめながらオッサン赤ちゃん(全裸ガトリング装備)に近付いていく。


「…………!!」

「うっ……!?」


 獣の様な顔付きで、キッと私を睨んだモルディ。やはりこんな姿になっても、本能的に危険人物に気迫を解き放っているのか……?


「……UUU」

「え、ちょ……やめて、ガトリング向けないで」


 ガチャリと私に向けられた銃口……激情しない辺り、どういう訳だか私が憎き怨敵だと認識していないのかもしれない。(そもそもあのビルぶっ壊したのパラディン後藤だからな)

 狼狽(ろうばい)していると、グラサンリーゼントからひそひそとアドバイスが送られて来た。


「ばっかやろうが白狼! おどれは見つめるだけで相手を威圧するじゃ! まずは相手と目線を合わせて微笑まんかい!」

「え……ぇぇえ」

「はよせんかい!!」


 なんだよこいつ、自分でやれよクソが!

 ……しかし、私はこちらを向いているガトリングガンが恐ろしくて、そろそろとよつん這いになった。


「UUUBUUU……?」

「ほら、こ……怖くないよ、あははは」


 引きもこもりニートの私が、もちろん子どもをあやしたことなどある筈も無く、不器用な愛想笑いでオッサン赤ちゃんに向かい合う。(なんて光景だ。地獄絵図だろう)


「うっ……白狼なんじゃそりゃあ! 気持ち悪くてかなわん!」


 ……こいつ、あとでリーゼント引きちぎってやろうかな?

 よつん這いになったオッサン赤ちゃん二人を、町人たちも固唾を呑んで見守っている。

 まぁ、町の人たちには助けられたしなぁ。私たちの町を破壊していくこの男は、確かに私がどうにかせねばなるまい。

 そんな事を思っていると、モルディが激しい奇声を発し始めた。


「BOOOOOOO――――!!!!」

「うわっ、あチョッ!!」


 いきなり始まったガトリングの乱射。町の人たちも逃げ惑い始めたので、私はもうとにかくがむしゃらにモルディへと突っ込んでいった。


「UBAAAA!! FUCKハナセェ!!」

「こっ、コイツ今喋らなかったか?!!」


 よつん這いのモルディを抱きかかえるも、オッサン赤ちゃんは駄々をこねる様に、空にガトリングを発砲し続けている。


「あぁ〜もう!!」

「…………っ!!」


 とにかくパニクった私は、見様見真似でオッサン赤ちゃんを揺すり、ポケットから出したガラガラであやしてみた。


「フクッ、フックク……フッククク……」


 すると、不気味な顔でニヘラニヘラと笑い始めたモルディ。

 イケると思った私は、子守唄を歌ってやる。


「ね〜む〜れ〜、ね〜む〜れ〜……ふ〜ふ、ふふふふ〜んふ〜ん……」

「ZZZZZ……」


 ――寝た! はや!


 結局私――白狼オッサンは、全裸のモルディ(オッサン)を胸に揺すったまま、町を歩き始めた。


「うええええ!! オッサンが裸のオッサンを!」

「おぼええええ!! 気色悪い!」


 町人の冷ややかな目に包まれたまま、私は親指をしゃぶり始めたモルディを連れて聖魔教会を目指していった。

 しかし――


「な、なぁ白狼……ここで一つ頼みがあるんじゃが」

「はぁ!? お願いは一つってさっき!」

「――UB……BUU……」


 私の声に、起き出しそうになったモルディをあやしながら、怪訝(けげん)な表情で振り向くと、グラサンリーゼントと信徒たちが、下手な笑みを浮かべながらジリジリと引き下がっていくのに気付く。


「そっちに行っても聖魔教会はもうねぇぞ白狼」

「は? え……?!」

「お前に破壊されてワシらは家無しじゃあ……そんでもって、そんな危険な赤ん坊なんて相手しとれんくてなぁ」

「……あ?! あ? あ??」


 彼らは示し合わせた様に、同時に逃げ出していった――


「モルディ司教はしばらくお前が面倒みんかい! それがケジメじゃろうがぁあ!」

「なぁぁあ!! フザケンナァァア、テメェ聖魔教会のくせに赤んオッサン置いていくんじゃねぇええ!!」


 恐るべき逃げ足の速さで消えていったグラサンリーゼントたち……


「AAA……UBAA……UGYAAAっ!」

「アッ、泣くな、泣くな……ほら、ね〜む〜れ〜」

「ZZZ……」

「いや、はやっ……」


 カラスが鳴いて、風がヒュルリと過ぎ去った。


 とかく私は、聖魔教会のカス共にオッサン赤ちゃんを押し付けられたのであった……

(今度あったら全員引きずり回してやる)

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